上 下
341 / 1,727
発展編

花の行先 11

しおりを挟む

 鏡に映る自分と、目が合った。

 頬を赤く染めあげ瞳を潤ませている様子が無性に恥かしくて、ギュッと目を瞑ってしまった。

「瑞樹……瑞樹、こっちを向け、俺を見ろ」
「んっ、ん……」

 そっと目を開くと、宗吾さんがもう一度僕を強く抱きしめ、唇を重ねてきた。

 ぴったりと唇を覆われ塞がれて、甘噛みされたり、キュッと吸われたり……強弱をつけ唇から丁寧に愛撫されていく。

 何度も何度も、角度を変えては同じことが繰り返された。

 途中で息が苦しくて唇を薄く開くと、宗吾さんの舌がすぐにやってきて絡み取られた。

「宗吾さん、あっ──」

 舌を吸われ口腔内をじっくりと弄られると、頭がぼーっとして、一気に酔いが回ってしまった。

 僕の股間も宗吾さんの股間のモノも深い口づけだけで、十分に興奮し始めていた。

 僕は欲情している。

 もっともっと宗吾さんに触れたい、宗吾さんが欲しい。

 日中久しぶり抱いてしまった不安と我慢を、綺麗に拭い去って欲しい。

 僕の宗吾さんだと、言葉だけでなく躰でも確かめたかった。

 その一方で恥かしさが波のようにやってくるので、その度に目をキツく閉じてしまう。

 春に宗吾さんに抱かれるようになってから、気持ち良すぎて涙が零れ落ちる事を知った。寂しさでも、哀しみでもなく……ただただ体が愛撫に過敏に感じ生まれる新鮮な涙が、頬を伝い落ちていく。

 濡れた頬を宗吾さんが舌で舐めてくれる。
 くすぐったい──

「瑞樹……なぜ? 目を開けてくれ」

 宗吾さんに心配をかけたくないので目を開けて、微笑んで見せた。

「なぁ……この涙の理由を教えてくれないか。やっぱり俺のせいか、君を悲しませたよな。ごめん」

 今日の宗吾さんはとても素敵だ。精悍な男らしい顔で心配そうにじっと覗き込まれると、本当の理由を言うのが躊躇われた。

「……」
「さぁ言ってくれ。俺には何でも話して欲しいよ、瑞樹……」

 唇を指の腹で優しく撫でられ、言葉を促される。

「あの……違うんです。その、宗吾さんとのキスが気持ち良すぎて」
「うっ……また可愛いことを……なら、もっとしてやる!」
「あっ!あ、あ、あっ……」

『キスの雨』という言葉を聞いたことがある。

 今僕に絶え間なく降って来るものは、まさにそれだ──

 暖かく優しい雨が軽いキスとして、頬……鼻の頭……顎、瞼と次々に降り注ぐ。耳朶も甘噛みされて、腰も震える。

 宗吾さんに沢山触れてもらえるのが嬉しい。

「もっと……もっと……僕に触れて……」

 気が付くと……心の声が外に漏れていた。

「ここで、いいのか」
「はい」

 ここは普段と違う場所だ。

 玄関で交わすキスが新鮮で、さっきからドキドキが止まらない!

 下駄箱の上にかけた家の鍵が、僕たちが動く度にカチャカチャと音を立てる。

 自動点灯の照明は、僕たちが動いている限り消えない。

 足元には芽生くんの運動靴が見えた。

 こんな日常的な場所で……いけないと思うのに、僕たちはキスを止められなかった。

「どうしよう」
「とまらないな」

 お互いの不安をお互いで埋め尽くしたい。

 宗吾さんの唇が、更に意志を持って動き出す。

 首筋を舐められ咽喉にも触れられ……そのまま着ていたリネンシャツの釦を外されて、胸元を露わにされた。

「ん、あっ……あぁ」

 鎖骨の窪みは、特に舌先で丹念に舐められた。

 熱い……躰が熱い!
 
 開いたシャツの隙間から手をぐっと奥に差し込まれ、直接指で胸の尖りを撫でられた。

「ううっ──」

 宗吾さんがいつもそこばかり丹念に弄るせいで、過敏になった先端がキュッと締まり固くなるのを感じた。

 男でも胸で感じる。こんなにも──

「瑞樹のここ……すっかり弱くなったな。こんなに尖らせてイケナイ子だ」

 煽られる言葉にすら、今日の僕は震えてしまう。

 今日の僕は淫らだ──

 宗吾さんの肩越しに抱かれている自分と鏡の中で目があって、それがまた羞恥を煽ってくる。

 気が付くとシャツはもう……全開になっていた。

 もっと大きく手のひら全体で胸を揉まれ、両方の胸の尖りを摘まみ上げられたり、指先で捏ねられて……喘ぐような声が漏れそうになった。

「ああぁ……いやっ、いやっ」

 玄関先という経験がない場所で煽られて、首を左右に振り乱れてしまう。

「んんっ──」

 その時、廊下の外をコツコツと歩く足音が聞こえて、思わず自分の手で口を塞いで息を呑んだ。宗吾さんも慌てて僕の頭を掻き抱き、胸元にぎゅうっと押し付けて守ってくれた。

「大丈夫か」
「はぁ……もう宗吾さんはっ」
「瑞樹こそ、こんな場所でこんなに感じて」
「もう……変に……なりそうでした」
「俺もすごく煽られたよ。品行方正な君が、玄関先で乱れる姿が絶品だった」
「そんな言い方は……恥ずかしいだけです」

 鏡に映る僕はとても満ち足りた顔と、物足りなさそうな顔の両方を持っていた。

「こんな機会滅多にないから、いつもと違う場所で君を抱きたい」
「もうっ──」

 何を言いだすのかと思ったら……でもそう言われると、僕の躰の芯も痺れて甘い気持ちが押し寄せ疼いてしまう。

「今日の僕は……宗吾さんに……飢えています」

 宗吾さんの胸元に頬をくっつけて彼の早い鼓動を聞きながら告げると、肩を抱く力がますます増してしまった。

「あっ、駄目です、もうっ!」
「駄目だ、もう止まらない」
「とっ……とりあえず靴を脱ぎましょうか」
「確かにそうだな」

 お互いまだ……靴も脱いでいないことに気が付いて、何だか可笑しくなった。

 こんなにお互いがお互いに飢えていたなんて──

「あーあぁ俺たち……がっつき過ぎだな」
「ですね、くすっ」

 お互いの額をコツンと合わせ、笑ってしまった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。 最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者 R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。

捨てられ子供は愛される

やらぎはら響
BL
奴隷のリッカはある日富豪のセルフィルトに出会い買われた。 リッカの愛され生活が始まる。 タイトルを【奴隷の子供は愛される】から改題しました。

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。ただ改稿を行い、結末がこちらに掲載している内容とは異なりますので物語全体の雰囲気が異なる場合がございます。あらかじめご了承下さい。(あちらはゲオルグと並び人気が高かったエイドENDです)

三度目の結婚

hana
恋愛
「お前とは離婚させてもらう」そう言ったのは夫のレイモンド。彼は使用人のサラのことが好きなようで、彼女を選ぶらしい。離婚に承諾をした私は彼の家を去り実家に帰るが……

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

夫が大人しめの男爵令嬢と不倫していました

hana
恋愛
「ノア。お前とは離婚させてもらう」 パーティー会場で叫んだ夫アレンに、私は冷徹に言葉を返す。 「それはこちらのセリフです。あなたを只今から断罪致します」

処理中です...