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発展編
さくら色の故郷 23
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瑞樹の姿が見えなくなるまで、店先で見送った。
今度はいつ会えるだろう。オレも明日には軽井沢に戻らないとならないし、今回急に休んだので、次は暫く先になりそうだ。
東京で元気でやっていけよ。余計なお世話だろうが、宗吾さんと末永く幸せに仲良くな。
「そうだ。兄貴……さっき昼飯食っていたら、瑞樹の高校時代の友達に会ったよ」
「へぇ珍しいな。男? 女?」
「どっちも」
「ふぅん、瑞樹にそんなに地元の友達いたかな」
兄貴の方は、思い当たらないといった様子で首を傾げていた。
「……女の方は、たぶん瑞樹の元カノじゃね? って雰囲気だったぞ」
「あぁ……いたな」
「えっアタリ?」
「あぁ高校時代に付き合っていたよ。何だったかな……名前」
「……ミサトって呼んでいた」
「そうそう!ミサトちゃんだ」
「なんだよ。兄貴は知ってたのか」
「んー軽くな。結局、2年位付き合ってたかな」
「そっか」
瑞樹の高校時代か。
その頃……オレは5歳下だから、まだ小学生だった。だから瑞樹の高校での交友関係なんて興味なかったし、瑞樹はほとんど真っすぐ家に帰ってくるから、女と付き合っていたなんて気が付かなかったな。
それにしても今は宗吾さんと付き合っている瑞樹にも、女との恋愛経験がちゃんとあったと思うと、不思議な気持ちになった。
何だか……あんな女って言ったら失礼だが、もしもそのまま付き合って結婚していたら、どうなっていたのだろう? って二人の会話を聞きながら、思わず想像しちまった。
正直、奥さんに瑞樹が尽くすよりも、宗吾さんに溺愛されている方が安心だ。
瑞樹……宗吾さんに沢山尽くされるといいな。
宗吾さんなら喜んで、してくれそうだぜ!
とにかく思うことは一つだ。
瑞樹にはもう二度とあんな苦労して欲しくない。
函館は……オレが傷つけて奪った時間が存在する居場所なのに、瑞樹は幸せになった姿を見せに戻って来てくれた。
嬉しかった!
この目で、しかと見せてもらった。
****
瑞樹の彼女か……懐かしいな。
あれは高校2年の秋か。瑞樹が困ったように俺にだけは相談してくれた。
……
「兄さん……あの、ちょっといい?」
俺の部屋に夜にこっそりやってきた瑞樹。ニキビひとつないスベスベの頬を恥かしそうに染めて、同時に困った顔をしていたから、これはピンときた。
「んだよ? 告白でもされちまったか」
「うっ……何で分かるの?」
「瑞樹は顔に出やすいからな」
「ふぅ参ったな、兄さんには敵わないや」
柔らかく笑う弟の綺麗な顔に、つい見惚れてしまう。
「んで、どうする? 付き合うのか」
「う……ん、その、断ろうと思ったら……」
「断れたのか」
「いや……その、思いっきり泣かれちゃって」
「ははは、んで、受けたのか」
「……困ったな」
瑞樹は、観念したようにコクっと頷いた。
おい、女! 俺の可愛い弟……瑞樹を落とすとはヤルな。
俺の可愛い弟は……極端に嫌われるのを怖がる奴なんだぞ。
「それは足元を見られたな」とは可哀想で言えなかった。
少し前に瑞樹はストーカー事件に巻き込まれて大変だった。しかも相手が変態な男だったから気持ち悪がって、このまま対人恐怖症になったらヤバイと思っていた。だからちゃんと健全に同級生の女の子と付き合って、軌道修正した方がいいのかもしれない。
弟を溺愛する兄として少し寂しい気持ちを押し隠し、背中を押した。
「まぁいいんじゃないか。思い切って付き合ってみろよ」
「そうかな……兄さんがそういうなら」
付き合うと言っても、どうせ高校生同士だ。
奥手の瑞樹に何が出来るわけないと思って楽観的に思っていたが、翌年の夏祭りの神社の境内の木陰で、花火を見ながら彼女とキスをしている瑞樹を偶然見てしまい、胸がズキンと痛んだったよなぁ。
あれは痛かった。なんで俺はこうタイミング悪く、弟のファーストキスシーンを目撃したのか。
やべぇ、滅多に思い出さないこと思い出して、恥ずかしくなる。
どうやら……俺も相当に瑞樹のことが好きだったらしい。
そういえば……あのキスをしていた瑞樹の困った表情よりも、宗吾と、うっとりキスをしていた時の方が、ずっと甘くいい表情だったぜ。
……あの瑞樹は色っぽかったな。
そうだ。これだけは断言できる。
瑞樹が男を愛するようになったのは、きっと俺が溺愛しすぎたからだ。瑞樹は男といるほうが居心地がいいと思っているはずだ。
……なんて都合のよい解釈をして、ついにで宗吾に感謝しろよと言いたくなる。
で、これって……結局、潤も俺も相当なブラコンだったという結論でいいか。
昨日今日と……溢れんばかりに、皆の愛を受ける瑞樹をこの目で見ることができ、兄ちゃんは安心したぜ!
どうか益々の幸せが瑞樹に降り注ぐように、北の大地から祈り続けよう!
それが唯一……この先も永遠に……瑞樹のために俺が出来ることだ。
今度はいつ会えるだろう。オレも明日には軽井沢に戻らないとならないし、今回急に休んだので、次は暫く先になりそうだ。
東京で元気でやっていけよ。余計なお世話だろうが、宗吾さんと末永く幸せに仲良くな。
「そうだ。兄貴……さっき昼飯食っていたら、瑞樹の高校時代の友達に会ったよ」
「へぇ珍しいな。男? 女?」
「どっちも」
「ふぅん、瑞樹にそんなに地元の友達いたかな」
兄貴の方は、思い当たらないといった様子で首を傾げていた。
「……女の方は、たぶん瑞樹の元カノじゃね? って雰囲気だったぞ」
「あぁ……いたな」
「えっアタリ?」
「あぁ高校時代に付き合っていたよ。何だったかな……名前」
「……ミサトって呼んでいた」
「そうそう!ミサトちゃんだ」
「なんだよ。兄貴は知ってたのか」
「んー軽くな。結局、2年位付き合ってたかな」
「そっか」
瑞樹の高校時代か。
その頃……オレは5歳下だから、まだ小学生だった。だから瑞樹の高校での交友関係なんて興味なかったし、瑞樹はほとんど真っすぐ家に帰ってくるから、女と付き合っていたなんて気が付かなかったな。
それにしても今は宗吾さんと付き合っている瑞樹にも、女との恋愛経験がちゃんとあったと思うと、不思議な気持ちになった。
何だか……あんな女って言ったら失礼だが、もしもそのまま付き合って結婚していたら、どうなっていたのだろう? って二人の会話を聞きながら、思わず想像しちまった。
正直、奥さんに瑞樹が尽くすよりも、宗吾さんに溺愛されている方が安心だ。
瑞樹……宗吾さんに沢山尽くされるといいな。
宗吾さんなら喜んで、してくれそうだぜ!
とにかく思うことは一つだ。
瑞樹にはもう二度とあんな苦労して欲しくない。
函館は……オレが傷つけて奪った時間が存在する居場所なのに、瑞樹は幸せになった姿を見せに戻って来てくれた。
嬉しかった!
この目で、しかと見せてもらった。
****
瑞樹の彼女か……懐かしいな。
あれは高校2年の秋か。瑞樹が困ったように俺にだけは相談してくれた。
……
「兄さん……あの、ちょっといい?」
俺の部屋に夜にこっそりやってきた瑞樹。ニキビひとつないスベスベの頬を恥かしそうに染めて、同時に困った顔をしていたから、これはピンときた。
「んだよ? 告白でもされちまったか」
「うっ……何で分かるの?」
「瑞樹は顔に出やすいからな」
「ふぅ参ったな、兄さんには敵わないや」
柔らかく笑う弟の綺麗な顔に、つい見惚れてしまう。
「んで、どうする? 付き合うのか」
「う……ん、その、断ろうと思ったら……」
「断れたのか」
「いや……その、思いっきり泣かれちゃって」
「ははは、んで、受けたのか」
「……困ったな」
瑞樹は、観念したようにコクっと頷いた。
おい、女! 俺の可愛い弟……瑞樹を落とすとはヤルな。
俺の可愛い弟は……極端に嫌われるのを怖がる奴なんだぞ。
「それは足元を見られたな」とは可哀想で言えなかった。
少し前に瑞樹はストーカー事件に巻き込まれて大変だった。しかも相手が変態な男だったから気持ち悪がって、このまま対人恐怖症になったらヤバイと思っていた。だからちゃんと健全に同級生の女の子と付き合って、軌道修正した方がいいのかもしれない。
弟を溺愛する兄として少し寂しい気持ちを押し隠し、背中を押した。
「まぁいいんじゃないか。思い切って付き合ってみろよ」
「そうかな……兄さんがそういうなら」
付き合うと言っても、どうせ高校生同士だ。
奥手の瑞樹に何が出来るわけないと思って楽観的に思っていたが、翌年の夏祭りの神社の境内の木陰で、花火を見ながら彼女とキスをしている瑞樹を偶然見てしまい、胸がズキンと痛んだったよなぁ。
あれは痛かった。なんで俺はこうタイミング悪く、弟のファーストキスシーンを目撃したのか。
やべぇ、滅多に思い出さないこと思い出して、恥ずかしくなる。
どうやら……俺も相当に瑞樹のことが好きだったらしい。
そういえば……あのキスをしていた瑞樹の困った表情よりも、宗吾と、うっとりキスをしていた時の方が、ずっと甘くいい表情だったぜ。
……あの瑞樹は色っぽかったな。
そうだ。これだけは断言できる。
瑞樹が男を愛するようになったのは、きっと俺が溺愛しすぎたからだ。瑞樹は男といるほうが居心地がいいと思っているはずだ。
……なんて都合のよい解釈をして、ついにで宗吾に感謝しろよと言いたくなる。
で、これって……結局、潤も俺も相当なブラコンだったという結論でいいか。
昨日今日と……溢れんばかりに、皆の愛を受ける瑞樹をこの目で見ることができ、兄ちゃんは安心したぜ!
どうか益々の幸せが瑞樹に降り注ぐように、北の大地から祈り続けよう!
それが唯一……この先も永遠に……瑞樹のために俺が出来ることだ。
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