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発展編
帰郷 17
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玄関を開けて飛び込んできたのは、瑞樹の困惑した眼差しだった。
「宗吾さん、どうして……」
そして少し遅れて、元彼が使っていた部屋から「あーもしかしてオレを探している?」と見知らぬ男がヒョイっと気楽そうな様子で顔を出した。
コイツ誰だ?
さっきのシルエットの主なのは分かるが、全くの初対面だ。
瑞樹の方は更に焦った表情になってしまった。君の困った顔は見たくないな。だから「落ち着け、宗吾。カッとするな。冷静になれ! 」と自分を必死に戒めることに努めた。
用心深い瑞樹が家にまであげた相手なのだから、きっと気を許した身近な人だろう。俺は前と同じ轍は踏まないように慎重に考えた。そこでピンときた。
そうか……先日の朝、母の夢を見たと泣いた瑞樹の告白には続きがあったのか。
『あの……函館の家には感謝しているので、なかなか言えなくてすみません。宗吾さんと知り合って、幸せで温かい時間を持てるようになってから何故かよく思い出してしまって……僕の本当の両親のことを。それに僕には……』
(僕には……) その続きの言葉はもしかしたら……
この男の顔をどこかで見た事がある。分かった、アイツ……瑞樹の兄の広樹に似ているのだ。ということはコイツは広樹の兄弟で、瑞樹の義理の弟という線でどうだ? ここからは男の直感だが、この男は今ここで自身のことを瑞樹の弟だとしっかり認めてもらいたいと思っている気がした。
「君は、もしかして瑞樹の弟か」
「えっ、あっそうだけど」
ビンゴだった。瑞樹もそのタイミングでふぅと小さな息を吐き安堵したので、俺の判断は正解だったようだ。一か八かの掛けだったが何事も迷っているだけじゃダメさ。動かなきゃ始まらない。だから俺はどんどん突き進む。間違えるのが怖くて進めない進まないのは、もうやめた。
信じた道が間違えたら、その都度しっかり軌道修正すればいい。
そうやってでも、この先、瑞樹と歩む道をどんどん切り開きたい気分だ。
「なるほどな。君に会いたかったぜ!」
「あっはじめまして……瑞樹の弟です」
へぇ想像よりもずっと礼儀正しい返事だ。まだ二十歳そこそこの若者だろう?
瑞樹が彼の家に引き取られた時は10歳だったと聞いている。当時この男はもっと幼かっただろう。瑞樹が俺に弟の存在を未だに話せなかった理由は分からないが、この状況から判断すると明らかにふたりは今、歩み寄ろうとしている。だがまだお互いの距離を慎重に取りながらだ。
瑞樹が必死に頑張っているのが伝わってくるよ。ならば俺が間に入り取り持ってやりたい。
瑞樹の弟の背中をバンバンと叩いて居間に促した。
「さてと、お前のお兄さんとは深い酒を飲んだ仲だ。君とも飲めるかな」
「え?」
そんな俺たちの会話を瑞樹がポカンとした表情を浮かべて聞いている。
「瑞樹。酒あるかな」
「あっはい。もしかして、宗吾さんもう結構酔っぱらっています? 」
「そんなことないぞーさぁ飲もう!」
****
「宗吾さん、もう……それ位にしないと」
「ん? そうか」
「潤もどうだ? もう一杯」
「ありがとうございます!」
「へー君、結構強いな」
「まぁ兄貴に鍛えられていますからね」
「そうか。ほら瑞樹も飲めよ」
「あっ……もう僕は……眠くなってしまうので」
そんな会話を繰り返しながら飲んでいると、瑞樹が眠たそうに目を擦りだした。彼のそんな些細な仕草がまたいいのだ。つい目を細めて見つめ、細く長い綺麗な指に見惚れてしまう。
「瑞樹、眠いのか」
「えぇ……ふたりとも強すぎますよ……はぁ……なんだかいろいろホッとして眠たいです」
「先に寝てもいいぞ」
「いや……僕だけ先に眠るなんて」
と言いつつ、こっくりこっくりと舟を漕ぎだす始末だ。おいおい随分危なっかしいな。俺以外の相手と酒を飲ませたくないな。お持ち帰りされそうで心配になるぞ。
「今日は俺がいるから眠ってもいいぞ」
「宗吾さん……」
「ほら」
瑞樹のカタチのよい頭をコツンと俺の肩にもたれさせてやった。ほろ酔いの瑞樹は抵抗することもなく体重を預けてくれ、暫くすると安定した寝息を立て始めた。
俺がいるから、瑞樹がこんなにも安心しているのが伝わってきて、胸の奥がジンした。
ん……そういえば待てよ。コイツは俺と瑞樹の関係を知っているのか? 兄から既に聞いているのか。さっきから何の違和感もなく過ごしたが、急に気になってしまった。すると弟の方から躊躇いがちに口を開いた。
「……瑞樹はあなたに愛されているんだな。そんな安心した顔……見たことなかった。オレの前ではいつも怯えていたのに」
独り言のように零れる本音に、彼と瑞樹とのあまりうまく行っていなかった関係を想像した。
突然やってきた瑞樹の存在を、幼かった彼がどう捉えたのか、聞いてみたいと思った。
瑞樹の悩み、抱えてきたもの……少しでも彼の荷を軽くしてやりたい。
「宗吾さん、どうして……」
そして少し遅れて、元彼が使っていた部屋から「あーもしかしてオレを探している?」と見知らぬ男がヒョイっと気楽そうな様子で顔を出した。
コイツ誰だ?
さっきのシルエットの主なのは分かるが、全くの初対面だ。
瑞樹の方は更に焦った表情になってしまった。君の困った顔は見たくないな。だから「落ち着け、宗吾。カッとするな。冷静になれ! 」と自分を必死に戒めることに努めた。
用心深い瑞樹が家にまであげた相手なのだから、きっと気を許した身近な人だろう。俺は前と同じ轍は踏まないように慎重に考えた。そこでピンときた。
そうか……先日の朝、母の夢を見たと泣いた瑞樹の告白には続きがあったのか。
『あの……函館の家には感謝しているので、なかなか言えなくてすみません。宗吾さんと知り合って、幸せで温かい時間を持てるようになってから何故かよく思い出してしまって……僕の本当の両親のことを。それに僕には……』
(僕には……) その続きの言葉はもしかしたら……
この男の顔をどこかで見た事がある。分かった、アイツ……瑞樹の兄の広樹に似ているのだ。ということはコイツは広樹の兄弟で、瑞樹の義理の弟という線でどうだ? ここからは男の直感だが、この男は今ここで自身のことを瑞樹の弟だとしっかり認めてもらいたいと思っている気がした。
「君は、もしかして瑞樹の弟か」
「えっ、あっそうだけど」
ビンゴだった。瑞樹もそのタイミングでふぅと小さな息を吐き安堵したので、俺の判断は正解だったようだ。一か八かの掛けだったが何事も迷っているだけじゃダメさ。動かなきゃ始まらない。だから俺はどんどん突き進む。間違えるのが怖くて進めない進まないのは、もうやめた。
信じた道が間違えたら、その都度しっかり軌道修正すればいい。
そうやってでも、この先、瑞樹と歩む道をどんどん切り開きたい気分だ。
「なるほどな。君に会いたかったぜ!」
「あっはじめまして……瑞樹の弟です」
へぇ想像よりもずっと礼儀正しい返事だ。まだ二十歳そこそこの若者だろう?
瑞樹が彼の家に引き取られた時は10歳だったと聞いている。当時この男はもっと幼かっただろう。瑞樹が俺に弟の存在を未だに話せなかった理由は分からないが、この状況から判断すると明らかにふたりは今、歩み寄ろうとしている。だがまだお互いの距離を慎重に取りながらだ。
瑞樹が必死に頑張っているのが伝わってくるよ。ならば俺が間に入り取り持ってやりたい。
瑞樹の弟の背中をバンバンと叩いて居間に促した。
「さてと、お前のお兄さんとは深い酒を飲んだ仲だ。君とも飲めるかな」
「え?」
そんな俺たちの会話を瑞樹がポカンとした表情を浮かべて聞いている。
「瑞樹。酒あるかな」
「あっはい。もしかして、宗吾さんもう結構酔っぱらっています? 」
「そんなことないぞーさぁ飲もう!」
****
「宗吾さん、もう……それ位にしないと」
「ん? そうか」
「潤もどうだ? もう一杯」
「ありがとうございます!」
「へー君、結構強いな」
「まぁ兄貴に鍛えられていますからね」
「そうか。ほら瑞樹も飲めよ」
「あっ……もう僕は……眠くなってしまうので」
そんな会話を繰り返しながら飲んでいると、瑞樹が眠たそうに目を擦りだした。彼のそんな些細な仕草がまたいいのだ。つい目を細めて見つめ、細く長い綺麗な指に見惚れてしまう。
「瑞樹、眠いのか」
「えぇ……ふたりとも強すぎますよ……はぁ……なんだかいろいろホッとして眠たいです」
「先に寝てもいいぞ」
「いや……僕だけ先に眠るなんて」
と言いつつ、こっくりこっくりと舟を漕ぎだす始末だ。おいおい随分危なっかしいな。俺以外の相手と酒を飲ませたくないな。お持ち帰りされそうで心配になるぞ。
「今日は俺がいるから眠ってもいいぞ」
「宗吾さん……」
「ほら」
瑞樹のカタチのよい頭をコツンと俺の肩にもたれさせてやった。ほろ酔いの瑞樹は抵抗することもなく体重を預けてくれ、暫くすると安定した寝息を立て始めた。
俺がいるから、瑞樹がこんなにも安心しているのが伝わってきて、胸の奥がジンした。
ん……そういえば待てよ。コイツは俺と瑞樹の関係を知っているのか? 兄から既に聞いているのか。さっきから何の違和感もなく過ごしたが、急に気になってしまった。すると弟の方から躊躇いがちに口を開いた。
「……瑞樹はあなたに愛されているんだな。そんな安心した顔……見たことなかった。オレの前ではいつも怯えていたのに」
独り言のように零れる本音に、彼と瑞樹とのあまりうまく行っていなかった関係を想像した。
突然やってきた瑞樹の存在を、幼かった彼がどう捉えたのか、聞いてみたいと思った。
瑞樹の悩み、抱えてきたもの……少しでも彼の荷を軽くしてやりたい。
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