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発展編

実らせたい想い 20

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「宗吾さん……僕は」
「瑞樹……」

 もう……言葉はいらない。
 そのまま顎を掴まれキスされた。

「んっ……ん」

 三週間離れていたお互いの想いが、ぴたりと重なる瞬間だった。

「手を舐められるのもゾクゾクしたが、瑞樹の唇はもっとだな」
「ん……はっ……あぁ」

 いきなり顎を掴まれかなり激しいキスが降ってきた。僕はついていくので精一杯だ。情熱的なキスだった。角度を変え何度も唇をなぞられ、最後には舌先が遠慮無く侵入してくる。口腔内をかき回されると、酷く官能的なキスに腰が砕けそうになった。

「瑞樹はすごいよ。玲子をあんなにも丸く変えてしまうんだから」
「そんなっ……僕は……何もしていませんよ。ただ……芽生くんを産んでくれた人だから、その気持ちに添うような花を……」
「あぁ、瑞樹の素直な心があいつの頑なな固定観念を揺るがしたに違いない。あれは本当にいいアレンジメントだったぞ。俺は花の事はよく分からないが、ぐっと来た」
「嬉しいです。宗吾さん」

 嬉しい言葉を受けて、僕の方から宗吾さんにしがみつくように抱きついた。

 彼の広い背中、温かい胸元。
 どこもかしこも触れて確かめたくなる。

 ちゃんと帰ってきてくれた。
 僕を置いて……どこにもいかなかった。

「おいおい、今日は積極的に触れてくれるな」
「……寂しかったから」

 自然とこぼれたのは、僕の本音。

 いつもぐっと我慢して隠していた部分は、宗吾さんの前ではいとも簡単に露わになってしまう。何故なのか。

「瑞樹……会いたかった。心配で溜まらなかった。そして玲子の前で手早く花を生け直す君の真摯な姿に惚れたよ。何だろうな。瑞樹……君のことを知れば知るほど好きになる。募る思いがあふれ出て苦しい程だよ」

「それは……僕も同じです」

 もう一度どちらからともなく近づいて、唇を重ねた。するとそのままベッドに押し倒される形になったので、少したじろいだ。

「え……あのっ……」
「もう我慢できないよ」
「君にもっと触れたい」
「あっ……」

 意図を持って彼の手が僕の胸元に触れると、過敏に反応する躰がビクっと震えた。

「瑞樹……そろそろまずいな。君の躰への我慢の限界を感じるよ」
「あ……うっ……」
 
 ワイシャツ越しに胸の尖りを探られて……心臓が早鐘を打ち出した。

 すごくドキドキする。すごく……

 僕は男性と躰を重ねるのが初めてではないのに……一馬と長い間肌を重ねた躰なのに……宗吾さんに触れられるのは別格だった。別次元の気持ちよさを感じていた。

「ん……うっ」
「ここか」
 
 とうとう尖りを見つけられてしまった。彼が嬉しそうに指先でそこをキュッと摘まんだ。布の摩擦で敏感になっていた部分が、その拍子にコリッと硬くなったのが自分でも分かった。

「ただいまーパパーどこぉ?」

 その瞬間、階下から芽生くんの元気な声が響いたので、僕は慌てて上体を起こした。すると宗吾さんの額とゴツンっとぶつかってしまい、火花が散った。

「痛っ……」
「わ。瑞樹ごめんな。しかしなぁ……あーいいところだったのになぁ」
「クスっ。宗吾さん意外と石頭ですね」
「はははっ、結局こういうオチだと思ったが、一歩前進した気分だよ」
「……恥ずかしいです」

 トントンっと階段を上る小さな足音が聞こえ、すぐにドアが開いて、芽生くんが飛び込んで来た。僕の胸元に。

「おにーちゃん! 今日はとまっていってね」
「えぇ?」
「おばーちゃんがいってたよ」
「そんな」

 初めてお邪魔した家に泊まるなんて……しかも僕の恋しい宗吾さんの実家に。

「あぁそうだな。そうするといい。瑞樹、君は寝不足だったろう。目の下に隈が出来ているぞ」
「……すみません」
「それに……少しやせちまったな」
 
 確かに少し痩せた。玲子さんとの事があってから、確かに熟睡出来ていなかった。食事もあまり喉を通らなかった。こんなにも弱い人間だったのかと不思議になったが、同時に宗吾さんという存在が、どれほどまでに僕を支えていてくれるのかを実感していた。

「もう大丈夫です。宗吾さんが戻って来てくれたから」
「おにいちゃん、元気になってよかった! 今日はごちそうだよー。おばあちゃんのトンカツはね、すっごくおいしいんだよ」
「やっぱりトンカツか」
「やっぱりって?」
「母の十八番なんだよ。決戦が終わった日はいつもそれだった」
「勝負の前ではなく、勝負の後なんですか」

 不思議に思って聞き返してしまった。

「たぶん結果はどうであれ、母からのご褒美だったんだろうな。今日は頑張った瑞樹へのご褒美だぞ」
「僕に?」
「母は瑞樹の味方だよ。だから安心して食べて、泊まっていけ」
 
  まさか……こんなにも温かく迎え入れてもらえるとは思ってもみなかった。

 宗吾さんとの恋、実らせたい。絶対に実らせたい。
 
 今までの僕にはなかった強い気持ちが芽生えた瞬間だった。
 
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