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発展編

Let's go to the beach 10(差し替え済み・申し訳ありません)

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 何かを抱え苦しんでいる瑞樹のことを思うと俺の気持ちまで沈んでしまった。

 芽生と手を繋いだまま暗い表情で砂浜に立っていると、背中をいきなりドンっと叩かれた。

「おいっ、そうしょぼくれるなって。俺は中にいる住職の弟、張矢 流だ。よろしくな」
「あ……あぁ、俺は滝沢宗吾だ。それからこっちは息子の芽生だ。芽生、ご挨拶を」
「うん!おじちゃん、こんにちは!」
「クククっおじちゃんか……まぁそうだよな」

 長髪を後ろで無造作に束ねたワイルドな風貌の男で、さっきシェードの中にいた兄とは似ても似つかない。何となく立場は逆だが、瑞樹と瑞樹の兄との感じと似ているな。

「ねーねーパパぁ~せっかく海に来たのに……早く遊びたいよぉ」
「あぁそうだな。だが……」

 幼い芽生の無邪気な気持ちもよく分かる。だがあんな状態の瑞樹を放っておけないので、どうしたものか考えあぐねていると、さっきの流という男が、片手にスイカをまるでビーチボールのように軽々と持って再び登場した。

「よしっ坊主、スイカ割りってやったことあるか」
「えっと、ボウズってなあに?あっスイカ割りなら幼稚園でやったよぉ」
「おお。ならやりかた分かるよな」
「うん!」
「一緒にやるか」
「わぁ、いーの?」
「もちろんだ」

 何だかこの男ばかりの集団の中に、俺も芽生もすっかり溶け込んでいるな。突然ヒョンなことから初対面のご一行さんの行楽に混ぜてもらって変な気分だ。でも洋という青年は俺たちのお仲間らしいので、居心地は悪くない。むしろ楽だったりする。それにしても、まさか葉山の海でこんな出会いが待っていたとはな。

「さぁまずは宗吾からやれよ」

 おいおい……いきなり呼び捨てか。まぁ同世代みたいだから、しょうがないか。

「あぁいいぜ」

 それだけ打ち解けてくれていると前向きに捉えることにした。すぐに手拭でキュッと目隠しされ、ぐるぐる五回も回されてからのスタートだ。

「パパーがんばって!」
「おう!」

 息子の手前、カッコいいい所を見せたい。

「パパーこっちこっち!」
「あっもっと左だ」
「いやいやもっと右だろ~」
「流さん、嘘はダメですよ」

 なんだか、あーだこーだとワーワーと盛り上がっているな。瑞樹が見ていたらビシッと一発で命中させてカッコいい所を見せたいが、今は息子の芽生だけだ。

 幼い芽生の楽しみもちゃんと残してやらないとな。俺もやっと父親らしい考えが出来るようになった偉いぞと自画自賛してしまう。だからワザとおどけて、あてずっぽうな所で棒を振り下ろした。

「行くぞーここだ!そりゃっ!」
「ああぁぁ……パパおしい!よしっじゃあ次はメイがパパのカタキをうつよ!」

 ん?これはスイカ割りなのに、チャンバラごっこになっているぞ。

 案の定、小さな芽生はスイカよりずっと手前で「エイっ!」っと振りかざしてしまった。

「あーあ、こんどはまけないぞ!パパ次こそがんばってね」
「よしっ任せておけ」

 だが勇み足を、流に制された。

「待てよ。次は俺だ。棒を貸せ」
「あぁそうだったな」

 スッ──
 シュッー
 グシャッ!

 それはまるで必殺技のような見事な殺陣だった。すっと頭上に棒を構えた彼が、ひらりと舞うように回転したかと思うと、次の瞬間にはスイカは木っ端微塵になっていった。

 目にも留まらぬ早業だぜ。一体何者だよ!

「えっ……」
「あれっ」
「うっ……エーン……しくしく……」

 それにしても何とも大人げない。一瞬、呆気にとられたが、スイカ割りって娯楽のはずだよな。なのにスイカをまるで憎き敵のように粉々に砕くなんて驚いた。

 芽生は自分の楽しみを奪われたとメソメソ泣きだす始末だぞ。どうしてくれるんだぁーっと叫ぼうとしたとき、シェードの中からスッと瑞樹が現れて、小さな芽生をギュッと抱きしめてくれた。

「あ……おにいちゃん」
「芽生くん、泣かないで」

 芽生も大好きな瑞樹に抱っこされて、涙も引っ込んだようだった。嬉しそうに瑞樹の上半身裸の胸元に顔を埋めている。

 うーん、芽生……それさぁ役得過ぎないか。
 やっぱりお前……やるなぁ。

「おにいちゃん、もうおケガなおったの?ここいたくない?」

 芽生も瑞樹の心が痛んだのを察知したのか、瑞樹の胸元を小さな手で撫でた。瑞樹も小さな芽生に触れられるのはちっとも嫌じゃないようで、ニコっと微笑んでいた。

 あぁぁぁ……俺、芽生と入れ替わりたい。素肌に触れてやがる!そこ乳首じゃないかー!!

「うん、ありがとう。さっきここも治療してもらったからもう大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて」

 瑞樹は芽生の背中を労わるように撫でながら、俺の方をやっと見上げてくれた。

「宗吾さん……あの、心配かけてすいません」
「あぁ、気にするな。それよりもう具合はいいのか」
「はい、冷却してもらって背中はぐっと楽になったし、ご住職に話を聞いてもらい、心も楽になりました」

 そう告げる瑞樹は、何だか達観した遠い人のように感じてしまい、慌てて聞いてしまった。

「みっ瑞樹。まさか出家しないよな!」
「はっ?」

 俺の言葉に、周りもギョッとした。

「何言ってるんですか。宗吾さん、おもしろい。クスッ……」

 瑞樹が笑った。その笑顔を見たかった!

 瑞々しい青い葉っぱが日差しを受け風に揺れるように、瑞樹は明るく笑っていた。

 さっきまであんなに泣いていたのに、まるで雨上がりの雫をまとったような瑞々しい笑顔を浮かべていた。そんな君に、俺は何度も惚れて……見惚れてしまうよ。

「綺麗な笑顔だ……」

 俺たちのことを見守っていた洋くんが静かに囁いた。隣には背の高い男性……瑞樹を治療してくれた人物が寄り添うように立っていて、愛おしそうに洋くんを見つめていた。

「あの青年……洋と仲良くなれそうだな」
「丈もそう思う?うん、俺ももっと話してみたい」

 俺は彼らの笑顔に同調した。愛しく大切なものを守りあう笑顔が眩しかった。
 瑞樹もそのまま俺のことをしっかりと見つめてくれていた。

「宗吾さん……これからはもっとあなたに話します。僕のことをもっともっと知って欲しいから」


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