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発展編
分かり合えること 14
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「瑞樹は俺にとって大切な存在で……俺が幸せになるために必要な存在だ」
欲しかった言葉が降って来たのと同時に、僕の唇に彼の温かい唇がぴたりと触れた。
「んっ」
彼の逞しい指先で顎を掴まれ何度も唇を重ねられ、唇の薄い皮膜が僕を優しく労わるように温めてくれた。
今……僕は確かに求められている。
僕の存在を認めてくれる彼のことが……とても好きだ。
そんな気持ちで、心がじわじわと満ち足りていくのを感じた。
「瑞樹は誰にもやらない。だから……どこにも行くな」
更に両手を台所の白い壁にぎゅっと押さえつけられ、口づけが深められた。
「あっ……もう」
これ以上は駄目だ。だって口づけだけで気持ち良くなってしまう。
それに兄さんが……
必死に耳を澄ましシャワーの音を追った。水音はまだ聞こえたが、でも……でも!不安だ。こんな姿、こんなシーンを兄さんが見たら、どう反応されるか分からないから。
「止まらないな。瑞樹とのキスは甘くて美味しくて、甘くて幸せな味がするから」
「うっ……んっ……」
滝沢さんの甘過ぎる言葉に、脳内が痺れるような感覚に陥っていた。
ここには今、僕の兄がいて……僕はかつてこの場所で一馬と深いキスをしたという過去の思い出も一気に飛び越え……何もかも超越した、ただひたすらに滝沢さんのことが恋しい想いで満ちていた。
****
瑞樹はずっと可愛い弟だった。
十歳で両親を亡くした不憫さと同情心から労わったのは最初のうちだけで、後はもう本当の兄弟と同等、いやそれ以上の大切な存在になっていた。
知れば知る程、素直で控え目な性格でとにかく可愛い奴だった。だから俺は瑞樹が高校を卒業するまで、かなり溺愛していたことを認めよう。
そんなお前が突然高校卒業後は東京に行くと一人で決めて来た時は大ショックだった。ずっと手元に置きたいと思っていたのに、俺の目の届く所にずっといて欲しかったのにと……がっくし来た。
だが瑞樹の決心は固かった。
瑞樹の強張った表情にその理由を聞くのは酷だと思い、素知らぬふりをするしかなかった。それに全国大会で銀賞を取った瑞樹のデザインセンスはズバ抜けていた。だから函館で俺とふたりで花屋を営むよりも、もっと華やかで大きな広い世界に行けと背中を押してやったんだ。
しかしなぁ……
「参ったな……まだ俺の躰も火照ったままだぜ、信じられない」
冷蔵庫の冷気を浴びても、未だに火照ったままの躰を持て余し、シャワーの冷水を浴びることにした。股間が変なことにならなくて本当によかった。弟の裸にアイツみたいに欲情し勃起したりしていたら……目も当てられないだろう。その代わり躰が異常に熱かった。煮えたぎるように!
「とにかく頭を冷やせ!落ち着け!」
そう自らを叱咤する。
あぁ……あいつ……本当に瑞樹の恋人なんだな。確かに悪くない大人の男だとは思うが、すんなり受け入れられない。でも一方で変な女にひっかかる位なら、瑞樹を溺愛してくれそうなアイツならいいかも……とにかく俺の頭の中は様々な感情で乱れ暴れていた。
他人には警戒心の強い所もあった瑞樹なのに、彼の前ではとても素直に自然に笑っていた。更に悔しいことに、あいつの料理は美味くてハイカラだった。
うん……あいつになら可愛い弟を任せてもいいと思う反面、瑞樹に対して欲情したアイツの立派な股間を目の当たりにして、どう兄としてリアクションしていいのか分からなかった。
瑞樹と久しぶりに会おうと気軽にやってきた東京で……なんて複雑な事態に陥ってんだよぉぉ!思わず浴室にしゃがみ込んで頭を抱えてしまった。
いや待てよ。俺がシャワーを浴びている隙に……もしかしてあの二人、イチャイチャしてるんじゃないか。この期に及んでも弟の恋愛対象が同性の男なことが信じられず、つい出来心からシャワーを出したまま脱衣所のドアをそっと開けて盗み見してしまった。
許せ瑞樹。兄さんはこの目で見てみないと信じられない、受け入れられない性質なんだ。
すると……案の定……瑞樹とアイツが台所の壁にもたれてキスをしていた。男同士のキスを見るのは初めてだった。もっと気持ち悪いと思っていたのに違った。瑞樹もアイツも求めあって、愛情を分かち合っている優しい行為だった。
その光景はどこまでも自然で、キスってこんなに崇高なものだったっけ?と、思わず目を擦ってしまう程だった。
清らかな瑞樹……その輝きを失うどころか増していた。
瑞樹……お前、相当愛されてんな。
アイツが瑞樹の両手を壁に押し付け深く唇を求めれば、瑞樹もそれにうっとりと応じていた。だが……ふとした瞬間に瑞樹とバッチリ目が合ってしまった。
「えっ……」
瑞樹は驚愕の表情を浮かべ、慌てて唇を離した。
「にっ兄さん!」
更に俺を見て、ひどく慌てた様子で目元を押さえた。
「お……お兄さん。あぁぁ……そのカッコはないです」
瑞樹とキスしていた男も、目のやり場がないように俺からすっと目を逸らした。
二人から同じ反応を受け、やっと我に返った。
俺……そっか……今、真っ裸だ!
「わっ悪ぃ!」
いつの間にか……こっ股間もやばくて、慌てて脱衣場の扉をバタンと閉めた。
ドアの隙間から真っ裸の兄が、弟たちのキスシーンを覗く?
洒落にならない変態っぷりに、浴室で大笑いしてしまった。
「ハハハっ!参ったよ。お前達には敵わない!」
欲しかった言葉が降って来たのと同時に、僕の唇に彼の温かい唇がぴたりと触れた。
「んっ」
彼の逞しい指先で顎を掴まれ何度も唇を重ねられ、唇の薄い皮膜が僕を優しく労わるように温めてくれた。
今……僕は確かに求められている。
僕の存在を認めてくれる彼のことが……とても好きだ。
そんな気持ちで、心がじわじわと満ち足りていくのを感じた。
「瑞樹は誰にもやらない。だから……どこにも行くな」
更に両手を台所の白い壁にぎゅっと押さえつけられ、口づけが深められた。
「あっ……もう」
これ以上は駄目だ。だって口づけだけで気持ち良くなってしまう。
それに兄さんが……
必死に耳を澄ましシャワーの音を追った。水音はまだ聞こえたが、でも……でも!不安だ。こんな姿、こんなシーンを兄さんが見たら、どう反応されるか分からないから。
「止まらないな。瑞樹とのキスは甘くて美味しくて、甘くて幸せな味がするから」
「うっ……んっ……」
滝沢さんの甘過ぎる言葉に、脳内が痺れるような感覚に陥っていた。
ここには今、僕の兄がいて……僕はかつてこの場所で一馬と深いキスをしたという過去の思い出も一気に飛び越え……何もかも超越した、ただひたすらに滝沢さんのことが恋しい想いで満ちていた。
****
瑞樹はずっと可愛い弟だった。
十歳で両親を亡くした不憫さと同情心から労わったのは最初のうちだけで、後はもう本当の兄弟と同等、いやそれ以上の大切な存在になっていた。
知れば知る程、素直で控え目な性格でとにかく可愛い奴だった。だから俺は瑞樹が高校を卒業するまで、かなり溺愛していたことを認めよう。
そんなお前が突然高校卒業後は東京に行くと一人で決めて来た時は大ショックだった。ずっと手元に置きたいと思っていたのに、俺の目の届く所にずっといて欲しかったのにと……がっくし来た。
だが瑞樹の決心は固かった。
瑞樹の強張った表情にその理由を聞くのは酷だと思い、素知らぬふりをするしかなかった。それに全国大会で銀賞を取った瑞樹のデザインセンスはズバ抜けていた。だから函館で俺とふたりで花屋を営むよりも、もっと華やかで大きな広い世界に行けと背中を押してやったんだ。
しかしなぁ……
「参ったな……まだ俺の躰も火照ったままだぜ、信じられない」
冷蔵庫の冷気を浴びても、未だに火照ったままの躰を持て余し、シャワーの冷水を浴びることにした。股間が変なことにならなくて本当によかった。弟の裸にアイツみたいに欲情し勃起したりしていたら……目も当てられないだろう。その代わり躰が異常に熱かった。煮えたぎるように!
「とにかく頭を冷やせ!落ち着け!」
そう自らを叱咤する。
あぁ……あいつ……本当に瑞樹の恋人なんだな。確かに悪くない大人の男だとは思うが、すんなり受け入れられない。でも一方で変な女にひっかかる位なら、瑞樹を溺愛してくれそうなアイツならいいかも……とにかく俺の頭の中は様々な感情で乱れ暴れていた。
他人には警戒心の強い所もあった瑞樹なのに、彼の前ではとても素直に自然に笑っていた。更に悔しいことに、あいつの料理は美味くてハイカラだった。
うん……あいつになら可愛い弟を任せてもいいと思う反面、瑞樹に対して欲情したアイツの立派な股間を目の当たりにして、どう兄としてリアクションしていいのか分からなかった。
瑞樹と久しぶりに会おうと気軽にやってきた東京で……なんて複雑な事態に陥ってんだよぉぉ!思わず浴室にしゃがみ込んで頭を抱えてしまった。
いや待てよ。俺がシャワーを浴びている隙に……もしかしてあの二人、イチャイチャしてるんじゃないか。この期に及んでも弟の恋愛対象が同性の男なことが信じられず、つい出来心からシャワーを出したまま脱衣所のドアをそっと開けて盗み見してしまった。
許せ瑞樹。兄さんはこの目で見てみないと信じられない、受け入れられない性質なんだ。
すると……案の定……瑞樹とアイツが台所の壁にもたれてキスをしていた。男同士のキスを見るのは初めてだった。もっと気持ち悪いと思っていたのに違った。瑞樹もアイツも求めあって、愛情を分かち合っている優しい行為だった。
その光景はどこまでも自然で、キスってこんなに崇高なものだったっけ?と、思わず目を擦ってしまう程だった。
清らかな瑞樹……その輝きを失うどころか増していた。
瑞樹……お前、相当愛されてんな。
アイツが瑞樹の両手を壁に押し付け深く唇を求めれば、瑞樹もそれにうっとりと応じていた。だが……ふとした瞬間に瑞樹とバッチリ目が合ってしまった。
「えっ……」
瑞樹は驚愕の表情を浮かべ、慌てて唇を離した。
「にっ兄さん!」
更に俺を見て、ひどく慌てた様子で目元を押さえた。
「お……お兄さん。あぁぁ……そのカッコはないです」
瑞樹とキスしていた男も、目のやり場がないように俺からすっと目を逸らした。
二人から同じ反応を受け、やっと我に返った。
俺……そっか……今、真っ裸だ!
「わっ悪ぃ!」
いつの間にか……こっ股間もやばくて、慌てて脱衣場の扉をバタンと閉めた。
ドアの隙間から真っ裸の兄が、弟たちのキスシーンを覗く?
洒落にならない変態っぷりに、浴室で大笑いしてしまった。
「ハハハっ!参ったよ。お前達には敵わない!」
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