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発展編

分かり合えること 11

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 ブランケットを纏っただけの瑞樹の姿は、正直目の毒だった。

 とにかく早く何か着てくるように言い、俺もギクシャクとした足取りで、ビールを取りに台所に向かった。

 冷蔵庫を開けると冷たい空気が広がり、頭に上った血をクールダウンしてくれるようで心地良かった。だから暫くそのまま冷気を浴び続けることにした。

 ふぅ……瑞樹の裸を久しぶりに見た気がする。

 そういえば今まであまり意識していなかったが、瑞樹は高校生になってから、肌を見せるのを極端に嫌がるようになったな。

 俺なんていつもパンツ一丁で部屋をウロウロするから母親に注意されていたのに、瑞樹は風呂あがりでも肌の露出の低い部屋着をわざわざ着込んでいたよな。だから今日みたいな無防備な姿を晒すなんて、あいつが小学生の時以来の出来事で驚いたぜ。

 それにしても瑞樹の素肌は、きめ細やかで滑らかそうで綺麗だったな。俺と同じ男とは思えんよな。自分の黒々としたすね毛を見下ろして苦笑してしまった。

 しかしなぁ……あの躰で俺と同じ男に抱かれていたのかよと思うと、兄としては大変複雑だ。しかも今この部屋には瑞樹が好きな男がいるという状況なんだから参った。

 俺は今一体何の拷問かと思うほど、悩ましい現実を突きつけられている。

 俺は瑞樹と血は繋がっていないが、ずっと大事な守ってやりたい弟だと思い接してきたのに、なんとも微妙な立ち位置に堕とされたような気がする。

 用心深い瑞樹が真っ裸で飛び出し、自分を盾にしてまで守りたかった相手なのか……あのオッサンは。瑞樹のさっきの切ない表情を見たら、何も言えなくなってしまった。

 しかしなぁ……マジで俺と同じ年なんて信じられん。

 アイツちょっと老け過ぎだろう。

 都会の男って皆あぁなのか。落ち着いているというか……いや本当に落ち着いてんのか。可愛い瑞樹のヌードを見たのに?しかもちゃっかり触れていたよな!俺の前で変な気を起こしたらタダじゃおかないからな。俺の大事な弟なんだ、瑞樹は。

 ああぁ……それにしても……

 自分の赤く腫れた手の甲を見て後悔が募る。この手で瑞樹を殴ったことなんて、只の一度もなかったのに。さっきいきなり飛び込んできた瑞樹の肩甲骨あたりに命中してしまった。痛かったよな……本当に悪い。そうだ確か湿布を持ってきていたから、貼ってやろう。

****

 なんだ……瑞樹のお兄さんだったのか。

 てっきり前の彼氏かと思ったが、違ったことにホッとした。そして悔しいが、瑞樹のお兄さんは若々しくガタイも良くて、包容力の塊のような雰囲気を持ったいい男だと思った。

 しかし瑞樹とは似ても似つかないタイプだな。弟がいるというのは聞いていたが、兄もいるとは……お陰で盛大な誤解をしてしまった。

 冷静な俺があんな子供みたいに高校生みたいな喧嘩をして、殴り合うなんてどうかしてる。

 思わず苦笑してしまった。

 壁にもたれ目を閉じると、そこはボワッと肌色の景色で埋め尽くされていた。

 うっ……これは瑞樹のヌードだ。
 

 目を凝らすと、さっき俺を庇ってくれた瑞樹の裸体がくっきり浮かんでくる始末だ。

 想像通りの素肌だった。絹のようにきめ細かく吸い付くような肌触りだった。あんな修羅場でもちゃっかり瑞樹の肌を味わっていたスケベな自分に苦笑した。

 次第に瑞樹の裸体の残像に股間がモッコリしてくるのを感じ、慌てて座り直した。

 ヤバイな。

 瑞樹の兄さんに、こんな所見られたらまずいだろう。

 
 

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