上 下
39 / 1,727
発展編

尊重しあえる関係 7

しおりを挟む
「滝沢さん、随分遅いな」

 ホテルのロビーで痺れを切らして待っていると、電話が入った。

「もしもし林さん?悪い。ちょっと息子のことで手間取って出るのが遅くなった。先にインタビュー出来そうなカップルの目星をつけておいてもらえるか」

「いいよ。要望は?」

「清楚系の美男美女でよろしく!」

「了解!」

 なるほど、息子さんのことが遅刻の理由か。彼がシングルファザーで奮闘していることは知っているので、オレで出来ることは協力したいし応援したい。

 カメラマンのオレと広告代理店に勤める滝沢さんとは、仕事で何回か顔を合わせるうちに意気投合した仲で、最近は滝沢さんの取材に専属で同行する事が多い。

 二年前に……出版社のパーティーの二次会で、恋人が男だってことをうっかりカムアウトしてしまったオレの話を、親身に聞いてくれたのが滝沢さんだった。当時滝沢さんは女性と結婚していたが、本当の自分を隠すことに疲れてしまったと、オレの方も愚痴を聞いてやった。結局その後離婚したんだよな。何があったか分からないが、一人息子を滝沢さんが引き取ることになったのは聞いていた。おっと……今日はそういうことは関係ないよな。何しろ健全な男女のカップルの取材なんだから。

 ホテルの披露宴を予約しているカップルにモデルになってもらい、大手の『7℃ムーン』宝飾会社の結婚指輪を宣伝をするというコンセプトだそうだ。

 ホテルで堂々と結婚披露宴なんて、全くオレたちには縁がない話だよな。

 披露宴の打ち合わせコーナーは地下1階。滝沢さんはもう少しかかりそうだから先に降りて、モデルになりそうなカップルを探してみるとするか。

****

 受付には事前に『7℃ムーン』の方からの取材連絡が入っていたので、名刺を見せるとスムーズに中に入れてもらえた。室内を見渡すと5組ほどのカップルが仲良さそうに、披露宴の打ち合わせをしていた。

 へぇ……男も女も蕩けるような笑顔を浮かべて幸せそうだな。

 さてと、どのカップルに辺りをつけるか。

 うーん、あっちはちょっと男性が歳取りすぎか。こっちは女性が年上すぎで表情が硬すぎるな。丹念にチェックしていくと、一番奥で打ち合わせ中の若いカップルに目が留まった。

 まず広告の主役になる女性を確認すると、まるでモデルのように細くてすらっとしていて可愛いじゃないか。指もほっそり長くて完璧だ。よしっ次は男性だ。どうかすごい年上とかじゃありませんように。彼女と釣り合うカッコいい男性希望だ。

 おそるおそる女性の横を見ると、これがまぁまた……オレの恋人とは正反対の清楚系の青年じゃないか。しかも顔が小さくて黒目がちで、えらい別嬪さんだ。

 なんだよ、美男美女過ぎだろう。二人とも絵に描いたように完璧だ。

 優しい笑みを浮かべながら女性と話している姿も、すでに撮影が始まっているようにいい雰囲気だ。しかし本当に素直そうな青年だな。うっかり別の目で見そうになり、慌てて仕事モードに戻った。

 目星のカップルを見つけたことを、速攻滝沢さんにメールした。

「よし。俺ももうロビーに着く。ちょっと荷物が多いから一旦上に上がってもらえるか」

「了解!」

****

「パパーつぎはいつお兄ちゃんにあえるの?」

「来週の日曜日には会えるよ」

「えーほんとうはきょうがよかったのに」

「ごめんな。パパも瑞樹も今日は仕事なんだ」

「つまんない!つまんない!」

 ちいさな芽生が涙目になっていくので、頭を撫でてやった。

「ごめん、ごめん。パパ今日はなるべく早く帰って来るから、おばあちゃんちでいい子にしていてくれ」

「うーん」

「ほら宗吾、もう行きなさい。仕事に遅刻するわよ、ところでそのお兄ちゃんって、どなたのことなの?」

 おっと……母親に説明するのはまだ早いよな。

「時期が来たらちゃんと話しますよ、すいませんがよろしくお願いします」

 芽生がピクニックに行けないことでふてくされてしまって、なかなか祖母の家に預けられなかった。手こずったな。すっかり遅刻だ。芽生のためにもなるべく休日出勤は避けたいが、致し方がない。

 ホテルロビーに着くと、カメラマンの林さんが満面の笑みで立っていた。

「悪かったな、遅れて」

「いや~おかげで一足先に目の保養してきたよ」

「ん?どういう意味だ」

「理想的なカップルがいてねぇ。打ち合わせコーナーに」

「へぇ、じゃあ今日の仕事は安泰だな。林さんのお眼鏡に適うなら」

「あぁ、それがな、女性はもちろんだが、男性の方が特に最高なんだ」

「ははっ、変な目で見るなよ。これから結婚するカップルなんだから」

「まぁとにかく早く来てくれよ」

 妙に浮かれた林さんの後について、地下へ向かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

処理中です...