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発展編

想い寄せ合って 6

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「そろそろ時間だな」

「あっはい」

 パラシュート型の遊具が下降していく途中で、瑞樹の腰をしっかり抱いていた手をそっと離した。名残惜しい。だが……焦らない。そう自分を律した。

「さてと、芽生を迎えに行くか」

 ふたりで芽生が遊んでいるキッズランドに行くと、ちょうど出口付近でコータくんとじゃれ合っている姿を捉えることが出来た。

 へぇ、随分と嬉しそうな顔してるな。

 明るいお日様のような息子の笑顔のほっとする。

 玲子と別れてからの俺と芽生の関係。けっして平坦な道ではなかった。芽生もそれまで可愛がってもらっていた母親からの突然別れ、冷たい態度に戸惑い、不安そうな怯えた表情を浮かべていたことを思い出すと胸が詰まる。

 ママが恋しくて泣いた夜もあった。

 ママのご飯がいいと、食べない日もあった。

 俺のせいで……何の罪もない無垢な子供を巻き込んでしまったことへの責任を感じた瞬間だった。だからこうやって芽生が無邪気に笑ってくれるのが、本当にありがたいことだと感謝している。

「滝沢さん、芽生くんいい笑顔ですね。あの子が噂のコータくんですか。確かにカッコいいな、将来が楽しみですね」

「おい?瑞樹は俺だけを見ていればいいんだ」

「え?あっ……ハイ」

「俺、コータくんに今妬いたのか」

「くくっ」

 
 瑞樹が楽しそうに笑う。だから俺も笑う。

 笑顔が連鎖していくのが心地いい。

 今日遊園地に瑞樹を誘って良かった。

 距離がグンと近づいた。

 キスもし合えたしな。

「パパってばーいつまでニヤニヤしてるの。またヘン顔だよー」

「え?」

 いつの間にか芽生が俺の所に来て、不審そうに見上げていた。

「滝沢さん、お迎え時間通りですね!ウフフ……楽しめました?」

 コータくんのお母さんの含み笑いに、照れ臭くなる。何もかも見通されているような気がするな。だが幼稚園のバス停ママさん仲間から瑞樹と俺の仲が公認なことにほっとする。もう芽生を悲しませたくないから。

「本当にありがとうございます。また幼稚園でもよろしくお願いします」

「お役に立てたみたいで、よかったわぁ」

「コータくん、ボク……もっといっしょにいたいけど、またようちえんでね」

「メイ、オレももっとあそびたかったよ。またな!」

 

 芽生とコータくん、お互いに名残惜しそうにしている。

 余韻を持った別れとは、実にいいものだ。

 明日につながる別れか。

「芽生くんとコータくんも名残惜しそうですね」

 そんな様子を瑞樹も一緒に目を細めて見つめていた。

「滝沢さん、あの……名残惜しいの語源って知ってますか」

「さぁ?」

「名残とは余波(なごり)の音が変化した言葉だそうですよ。ほら……波が打ち寄せられた後に海水や藻など……何かを残して去っていく波を意味しているそうです。あの……人と別れるの時に気持ちがまだその人にあるのって、凄くいいですね」

 うっ瑞樹が言うと深いな。それ……

 前の彼のことを名残惜しく思っているのかと聞きたくなったが、やめておいた。

「僕は今日滝沢さんと別れる時、きっとそんな気持ちになると思います」

 おっと!その言葉にグングンと一気に浮上する。さっき一緒にパラシュートに乗った時の上昇気流が蘇るように。

 

 瑞樹は自分の感情に素直で、優しい心を持っている。

 だからそんな瑞樹に似合う人になりたいと願う。

「俺も同じだよ」

「パパーすごくあついよ」

「熱い?」

 ドキッとした。

「暑いよぉ」

 芽生が額の汗を拭う仕草で、あぁそっちかと安堵した。

 恋は盲目とはよく言ったものだ。

 つい瑞樹のことに夢中になってしまう。 

 芽生はキッズランドで身体を沢山動かしたせいで、汗だくで赤い顔をしている。

「わぁ~芽生くん本当に汗びっしょり。そうだ!アイスでも食べようか。あの……滝沢さん、僕が買ってあげてもいいですか」

「もちろんだ。ついでに俺にも買ってくれ」

 甘えたことを言ってみると瑞樹はキョトンとした顔をした後、口元を綻ばせた。

「もちろんいいですよ!好きなアイスを選んでくださいね!」

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