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17章
月光の岬、光の矢 65
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『一蓮托生』
翠の達筆に心を奪われ、その意味に心を攫われた。
「翠、何故それを……」
「流も知っているだろう? 『一蓮托生《いちれんたくしょう》』は、元々仏教の教えに由来する言葉で、極楽浄土の蓮の花の上でともに生まれることを指し、そこから転じて『どんな運命もともにする』という意味だ」
翠が筆を置いて、真っ直ぐに見つめてくる。
匂い立つような優美な美貌に、つい見蕩れてしまう。
蓮の花のような俺の翠。
俺は翠の瞳に映れるだけで、幸せだ。
「その言葉を……本当に俺に贈ってくれるのか」
「もちろんだ。僕たちに相応しい言葉だろう」
「翠、良いことも悪いことも……運命を共にする覚悟ならとっくに出来ている! どんなことがあっても二度と離れない」
「うん、そうしておくれ」
俺は翠を畳に上に押し倒して、口づけた。
翠は目を閉じて、俺を抱き寄せてくれる。
遠い昔、最期まで掴めなかった温もりに溺れる。
****
部屋に戻ると、すぐにスケッチブックを取り出し鉛筆を握った。
父さんは書道が好きだが、オレは断然こっちが好きだ。
「ロゴのデザインか……」
さっき軽い気持ちで手を挙げたら、想像よりずっと大切な仕事を任されたので、一瞬焦った。
同時に、丈さんと洋さんの気持ちが嬉しかった。
あの人達は、オレを対等に見てくれていたんだな。
気が引き締まるな。
それにしても、どうして知っていたのか?
俺がデザインの仕事に興味あることを……
中学の時、美術の授業でポスターを作ったらえらく好評で、それから球技会のTシャルのデザインを任されたり、文化祭でいろんな部活動のポスターのデザインを考える機会に恵まれるようになった。
毎回やり甲斐を感じ、心が踊った。
そんなわけで、最近、うっすら将来の進路について考え出している。
大海原に船を漕ぎ出す直前のような気持ちなんだ。
オレが美大に進みたいと告げたら……
父さんはがっかりするだろうか、それとも応援してくれるか。
そうだ、このロゴを完成させたら、父さんに相談してみよう。
流さんにも一緒に聞いてもらいたい。
オレの本気を感じ取ってもらうためにも、丈さんの診療所に相応しいロゴを真剣に考えてみよう。
母さんと暮らしていた頃は、何事にも無気力だったのに、信じられないな。
やりたいこと、描きたいこと、どんどん浮かんでくる。
月影寺ってすごいな。
気力が満ちてくる。
それはきっと……
父さんたちが皆で守っている場所で、安心できるからだ。
これからはオレも一役買うよ。
オレもここが好きになったよ。
ここにやって来たばかりの父さんを恨んでいた頃は、高校を卒業したらとっとと出ていきたいと思っていたのに、今は違う。
オレも、ここを守る人になる!
翠の達筆に心を奪われ、その意味に心を攫われた。
「翠、何故それを……」
「流も知っているだろう? 『一蓮托生《いちれんたくしょう》』は、元々仏教の教えに由来する言葉で、極楽浄土の蓮の花の上でともに生まれることを指し、そこから転じて『どんな運命もともにする』という意味だ」
翠が筆を置いて、真っ直ぐに見つめてくる。
匂い立つような優美な美貌に、つい見蕩れてしまう。
蓮の花のような俺の翠。
俺は翠の瞳に映れるだけで、幸せだ。
「その言葉を……本当に俺に贈ってくれるのか」
「もちろんだ。僕たちに相応しい言葉だろう」
「翠、良いことも悪いことも……運命を共にする覚悟ならとっくに出来ている! どんなことがあっても二度と離れない」
「うん、そうしておくれ」
俺は翠を畳に上に押し倒して、口づけた。
翠は目を閉じて、俺を抱き寄せてくれる。
遠い昔、最期まで掴めなかった温もりに溺れる。
****
部屋に戻ると、すぐにスケッチブックを取り出し鉛筆を握った。
父さんは書道が好きだが、オレは断然こっちが好きだ。
「ロゴのデザインか……」
さっき軽い気持ちで手を挙げたら、想像よりずっと大切な仕事を任されたので、一瞬焦った。
同時に、丈さんと洋さんの気持ちが嬉しかった。
あの人達は、オレを対等に見てくれていたんだな。
気が引き締まるな。
それにしても、どうして知っていたのか?
俺がデザインの仕事に興味あることを……
中学の時、美術の授業でポスターを作ったらえらく好評で、それから球技会のTシャルのデザインを任されたり、文化祭でいろんな部活動のポスターのデザインを考える機会に恵まれるようになった。
毎回やり甲斐を感じ、心が踊った。
そんなわけで、最近、うっすら将来の進路について考え出している。
大海原に船を漕ぎ出す直前のような気持ちなんだ。
オレが美大に進みたいと告げたら……
父さんはがっかりするだろうか、それとも応援してくれるか。
そうだ、このロゴを完成させたら、父さんに相談してみよう。
流さんにも一緒に聞いてもらいたい。
オレの本気を感じ取ってもらうためにも、丈さんの診療所に相応しいロゴを真剣に考えてみよう。
母さんと暮らしていた頃は、何事にも無気力だったのに、信じられないな。
やりたいこと、描きたいこと、どんどん浮かんでくる。
月影寺ってすごいな。
気力が満ちてくる。
それはきっと……
父さんたちが皆で守っている場所で、安心できるからだ。
これからはオレも一役買うよ。
オレもここが好きになったよ。
ここにやって来たばかりの父さんを恨んでいた頃は、高校を卒業したらとっとと出ていきたいと思っていたのに、今は違う。
オレも、ここを守る人になる!
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