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16章
天つ風 16
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前置き
七夕の番外編から、本編に戻りますね。
では、体育祭当日、薙がお弁当を受け取るシーンからです。
よろしくお願いします。
*****
流さんから渡された弁当は、ズシリと重たかった。
「すごい重さだね」
「今日は腹減るぞ。オレは高校の時、弁当は3つ持って行っていた」
「流石だね」
「そうそう、今日は翠のお手製おにぎり入りだぞ」
「えぇ! 父さんが? 父さん……おにぎり握れたの?」
「……まぁね」
隣に立つ父さんが照れくさそうに笑っている。
明るい笑顔が眩しかった。
あれ? 父さんって、こんな風に笑う人だったかな?
思わず目を細めてしまった。
「とにかく昼飯が楽しみだよ! ありがとう」
「薙……僕の方こそ感謝しているよ。僕を……父親として接してくれてありがとう」
うぉ~ 改まって言われると照れくさいな。
父さんはオレの父親なんだから当たり前なのに、生真面目だからそんなことを平気で口にする。
離婚した時さ、まだ五歳だったんだ。
父さんに置いて行かれたと思い、父さんを恨み、邪険に扱い、酷い息子だったよな。
あの頃は、人の心に疎かった。
目に見えるものが全てだと思っていた。
だから父さんが月に一度の面会に来てくれても仮病を使ったり、流さんがいないと嫌だと駄々を捏ねたりしたよな。
中学生になると平気でドタキャン、ボイコットもした。
父さんのことだからきっと何日も前から楽しみに準備してくれていただろうに。
後日「よかったら友達と行っておいで」と、遊園地や水族館、映画のチケットがペアで届いた時、少しだけ胸が痛んだ。
父さんは離婚した後も必死に歩み寄ろうとしてくれていたのに、オレは意地悪だった。
あーあ、あの頃のオレに言ってやりたい。
そんなに意地悪すんなよ!
自分がされたら、嫌だろ?
そんな簡単なことも分からないのかって!
それからさ……月影寺にやってきた頃も酷かったよな。
父さんをあからさまに避けてスマホでゲーム三昧。渋谷に勝手に遊びに行ったり沢山心配もかけた。
……それがあの惨事を招いてしまった。
まずい、引きずられるな。
慌てて頭を振って、嫌な記憶を追い出した。
とにかく、オレは変わる。
オレはまだ16歳。
人生は長い階段だと、流さんが言っていた。
今度は飛ばしたりしないで、一歩一歩踏みしめていくよ。
父さんに酷いことばかりして後悔していると相談した時、流さんはこうアドバイスもしてくれた。
……
「薙、そう悲観するな。今、父さんと友好な関係になれたことにまず感謝しろ。空海の言葉に『心が暗ければ出会うものすべて災いとなり、心が太陽のように明るければ、出会うものすべてが幸いになる』とあるように、過去の失敗を振り返って凹むのではなく、前を見ろ! 上を見ろ! 明るい方を見るといい。薙の光を探せ」
……
力強い言葉だった。
オレの光は、父さんと流さんだ。
オレは父さんと流さんが輝けるように、道を作る手助けをしたいよ。
「間もなく体育祭を開催します。生徒は一同校庭に集まって下さい」
校内アナウンスが、入った。
いよいよ始まる。
応援団は一足先に学ランに黄色のはちまき姿で、壇上付近に控えている。
よし、頑張るぞ。
応援団に入ったのは、オレ自身の新しい生き方にエールを、父さんと流さんの明るい未来にエールを送りたかったからだ。
今日は見てくれよ。
オレを見てくれ。
「ウォォー」
雄々しいかけ声と共に、応援団長が旗を掲げた。
そしてそのまま応援団全員が、校庭を走り抜ける。
オレも……天つ風に押されるように駆け抜けた。
七夕の番外編から、本編に戻りますね。
では、体育祭当日、薙がお弁当を受け取るシーンからです。
よろしくお願いします。
*****
流さんから渡された弁当は、ズシリと重たかった。
「すごい重さだね」
「今日は腹減るぞ。オレは高校の時、弁当は3つ持って行っていた」
「流石だね」
「そうそう、今日は翠のお手製おにぎり入りだぞ」
「えぇ! 父さんが? 父さん……おにぎり握れたの?」
「……まぁね」
隣に立つ父さんが照れくさそうに笑っている。
明るい笑顔が眩しかった。
あれ? 父さんって、こんな風に笑う人だったかな?
思わず目を細めてしまった。
「とにかく昼飯が楽しみだよ! ありがとう」
「薙……僕の方こそ感謝しているよ。僕を……父親として接してくれてありがとう」
うぉ~ 改まって言われると照れくさいな。
父さんはオレの父親なんだから当たり前なのに、生真面目だからそんなことを平気で口にする。
離婚した時さ、まだ五歳だったんだ。
父さんに置いて行かれたと思い、父さんを恨み、邪険に扱い、酷い息子だったよな。
あの頃は、人の心に疎かった。
目に見えるものが全てだと思っていた。
だから父さんが月に一度の面会に来てくれても仮病を使ったり、流さんがいないと嫌だと駄々を捏ねたりしたよな。
中学生になると平気でドタキャン、ボイコットもした。
父さんのことだからきっと何日も前から楽しみに準備してくれていただろうに。
後日「よかったら友達と行っておいで」と、遊園地や水族館、映画のチケットがペアで届いた時、少しだけ胸が痛んだ。
父さんは離婚した後も必死に歩み寄ろうとしてくれていたのに、オレは意地悪だった。
あーあ、あの頃のオレに言ってやりたい。
そんなに意地悪すんなよ!
自分がされたら、嫌だろ?
そんな簡単なことも分からないのかって!
それからさ……月影寺にやってきた頃も酷かったよな。
父さんをあからさまに避けてスマホでゲーム三昧。渋谷に勝手に遊びに行ったり沢山心配もかけた。
……それがあの惨事を招いてしまった。
まずい、引きずられるな。
慌てて頭を振って、嫌な記憶を追い出した。
とにかく、オレは変わる。
オレはまだ16歳。
人生は長い階段だと、流さんが言っていた。
今度は飛ばしたりしないで、一歩一歩踏みしめていくよ。
父さんに酷いことばかりして後悔していると相談した時、流さんはこうアドバイスもしてくれた。
……
「薙、そう悲観するな。今、父さんと友好な関係になれたことにまず感謝しろ。空海の言葉に『心が暗ければ出会うものすべて災いとなり、心が太陽のように明るければ、出会うものすべてが幸いになる』とあるように、過去の失敗を振り返って凹むのではなく、前を見ろ! 上を見ろ! 明るい方を見るといい。薙の光を探せ」
……
力強い言葉だった。
オレの光は、父さんと流さんだ。
オレは父さんと流さんが輝けるように、道を作る手助けをしたいよ。
「間もなく体育祭を開催します。生徒は一同校庭に集まって下さい」
校内アナウンスが、入った。
いよいよ始まる。
応援団は一足先に学ランに黄色のはちまき姿で、壇上付近に控えている。
よし、頑張るぞ。
応援団に入ったのは、オレ自身の新しい生き方にエールを、父さんと流さんの明るい未来にエールを送りたかったからだ。
今日は見てくれよ。
オレを見てくれ。
「ウォォー」
雄々しいかけ声と共に、応援団長が旗を掲げた。
そしてそのまま応援団全員が、校庭を走り抜ける。
オレも……天つ風に押されるように駆け抜けた。
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