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第3部 15章
花を咲かせる風 32
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「はじめまして。電話で連絡した張矢です」
「あぁ建海寺の理事長から連絡をもらっています。特別にお見せ致しますので、さぁどうぞ」
「ありがとうございます」
流さん、ありがとうございます。
達哉さん、ありがとうございます。
翠さんと達哉さん……二人の縁にも感謝します。
「さて、いつ頃のものをご希望ですか」
「……1940年代のものをお願いします」
「随分と古いものを……戦前戦後ですね」
「はい……」
「アルバムではなく集合写真になりますが、いいですか」
「あ、はい……個人の名前は分かりますか」
「裏に書いてあります」
目の前にドサッと山積みにされた集合写真。
それを丈と丁寧に、1枚1枚確認していった。
月影寺で見た夕凪の写真が撮られた年は分かる。あの時の彼は……おそらく20代前半だ。そして俺が邂逅した青年は高校生だった。そこから青年が高校生活を送ったのは、1940年代になるのではと勝手に推測した。
彼の面影も、朧気だが覚えている。
それから『まこくん』という名前も手がかりになる。
「洋、見つかったか」
「ん……『まこ』という名前の子はいないな」
「そもそも『まこ』という名前ではないのかもな……それは愛称かも」
「あぁ、そうだな。女の子の名前のようだしな」
「いっそ顔から判断したらどうだ?」
古い校舎を背景に撮ったモノクロの写真。
皆、学ラン姿で……学帽を被っているので、同じように見える。
「うーん、思ったより難しいな」
「洋……もしかしたら……彼が信二郎の息子というのなら、『まこ』は『信』という漢字かもしれないぞ。この時代は親の名前を一文字もらうことも多かっただろう」
「丈、冴えているな!」
俺ひとりでは気付けないことを教えてもらえる。パートナーがいることの頼もしさを感じた。
「あ……この子……顔が似ている」
凜々しい顔の青年に目が留まった。
あの時、夕凪と話していた信二郎にも似た容貌だ。
見つけた!
確信を持てた。
「洋、すぐに名前を確かめよう」
「あぁ……養子に出されたと言っていたから、坂田ではないはずだ」
緊張しながら裏をめくり……青年の名前を確認した。
「えっ……」
大鷹 信
「大鷹って……」
「もしかして……あの……大鷹屋と関係があるのか」
「一体……どういうことだ? 宇治の山荘を取り壊したのも、確か大鷹屋だったよな」
心の中で……もしかしたらと芽生えていた淡い期待は……消滅した。
謎が……謎を呼ぶ。
「洋、一度、大鷹屋に行ってみないか」
「でも、どうやって……」
「今度は翠兄さんに聞いてみよう」
「わかった」
「それから洋のお父さんも……おそらくこの学校の卒業生のはずだ。調べてみよう」
「……分かった……父の年齢から推測すると高校時代はおそらく……」
浅岡信二。
はたして……俺の父の名をアルバムの中から見つけることが出来るのか。
****
「父さん、お腹いっぱいだね」
「沢山食べたからね」
「うん、やっぱ、豆腐だけじゃ、満腹にならなかったよ。あー今度は焼き肉が食べたいな」
「ふふっ、やっぱりね。流に電話して……夕食は焼き肉にしてもらおう」
「やった!」
薙と来た道をふらふらと歩いていると、ふと見覚えのある場所を通り過ぎた。
あ、ここは……大鷹屋の代々の跡取りの住まいだ。
銀閣寺へ続く哲学の道の一角にある大きな門構え。大きな木の正門は僕の背丈の数倍もの高さがあり、その周りを竹林が囲んでいて、とても静かな雰囲気だ。
「父さん、どうしたの? 広い家だな。ここはお寺?」
「いや……個人の邸宅だよ」
そこに……ちりんとまた鈴の音が聞えた。
また邂逅だ。
今度は僕に何を見せる?
勝手口から……和装姿の青年が出て来た。
もう学生服ではないが、すぐに分かった。
「あっ……君は、まこくん」
青年には僕の声は聞こえない。ただ青年は凜々しい顔をしており、そのまま何かを決意したように一礼して家を出て行った。
ただの外出ではない気がした。
一体、どこへ――
「あぁ建海寺の理事長から連絡をもらっています。特別にお見せ致しますので、さぁどうぞ」
「ありがとうございます」
流さん、ありがとうございます。
達哉さん、ありがとうございます。
翠さんと達哉さん……二人の縁にも感謝します。
「さて、いつ頃のものをご希望ですか」
「……1940年代のものをお願いします」
「随分と古いものを……戦前戦後ですね」
「はい……」
「アルバムではなく集合写真になりますが、いいですか」
「あ、はい……個人の名前は分かりますか」
「裏に書いてあります」
目の前にドサッと山積みにされた集合写真。
それを丈と丁寧に、1枚1枚確認していった。
月影寺で見た夕凪の写真が撮られた年は分かる。あの時の彼は……おそらく20代前半だ。そして俺が邂逅した青年は高校生だった。そこから青年が高校生活を送ったのは、1940年代になるのではと勝手に推測した。
彼の面影も、朧気だが覚えている。
それから『まこくん』という名前も手がかりになる。
「洋、見つかったか」
「ん……『まこ』という名前の子はいないな」
「そもそも『まこ』という名前ではないのかもな……それは愛称かも」
「あぁ、そうだな。女の子の名前のようだしな」
「いっそ顔から判断したらどうだ?」
古い校舎を背景に撮ったモノクロの写真。
皆、学ラン姿で……学帽を被っているので、同じように見える。
「うーん、思ったより難しいな」
「洋……もしかしたら……彼が信二郎の息子というのなら、『まこ』は『信』という漢字かもしれないぞ。この時代は親の名前を一文字もらうことも多かっただろう」
「丈、冴えているな!」
俺ひとりでは気付けないことを教えてもらえる。パートナーがいることの頼もしさを感じた。
「あ……この子……顔が似ている」
凜々しい顔の青年に目が留まった。
あの時、夕凪と話していた信二郎にも似た容貌だ。
見つけた!
確信を持てた。
「洋、すぐに名前を確かめよう」
「あぁ……養子に出されたと言っていたから、坂田ではないはずだ」
緊張しながら裏をめくり……青年の名前を確認した。
「えっ……」
大鷹 信
「大鷹って……」
「もしかして……あの……大鷹屋と関係があるのか」
「一体……どういうことだ? 宇治の山荘を取り壊したのも、確か大鷹屋だったよな」
心の中で……もしかしたらと芽生えていた淡い期待は……消滅した。
謎が……謎を呼ぶ。
「洋、一度、大鷹屋に行ってみないか」
「でも、どうやって……」
「今度は翠兄さんに聞いてみよう」
「わかった」
「それから洋のお父さんも……おそらくこの学校の卒業生のはずだ。調べてみよう」
「……分かった……父の年齢から推測すると高校時代はおそらく……」
浅岡信二。
はたして……俺の父の名をアルバムの中から見つけることが出来るのか。
****
「父さん、お腹いっぱいだね」
「沢山食べたからね」
「うん、やっぱ、豆腐だけじゃ、満腹にならなかったよ。あー今度は焼き肉が食べたいな」
「ふふっ、やっぱりね。流に電話して……夕食は焼き肉にしてもらおう」
「やった!」
薙と来た道をふらふらと歩いていると、ふと見覚えのある場所を通り過ぎた。
あ、ここは……大鷹屋の代々の跡取りの住まいだ。
銀閣寺へ続く哲学の道の一角にある大きな門構え。大きな木の正門は僕の背丈の数倍もの高さがあり、その周りを竹林が囲んでいて、とても静かな雰囲気だ。
「父さん、どうしたの? 広い家だな。ここはお寺?」
「いや……個人の邸宅だよ」
そこに……ちりんとまた鈴の音が聞えた。
また邂逅だ。
今度は僕に何を見せる?
勝手口から……和装姿の青年が出て来た。
もう学生服ではないが、すぐに分かった。
「あっ……君は、まこくん」
青年には僕の声は聞こえない。ただ青年は凜々しい顔をしており、そのまま何かを決意したように一礼して家を出て行った。
ただの外出ではない気がした。
一体、どこへ――
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