重なる月

志生帆 海

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14章

託す想い、集う人 22

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 参ったな。心がこんなに揺さぶられるなんて、私は一体どうなってしまったのか。

 そもそも二人の兄が作る輪の中に入れてもらえること自体、夢のようではないか。

 幼い頃から洋と出逢うまで、心にぽっかりと大きな穴が空いているな虚しい気持ちをいつも抱いていた。

 だからなのか、兄達がいつも眩しかった。 

 二歳差で生まれた長兄と次兄の仲は、誰が見ても素晴らしいものだった。人当たりが良く面倒見の良い美しい長兄と、大らかで豪快な次兄。二人が揃えば……月が満ちたような充足感が広がっていた。

 私はそこには入りたくても入れなかった。いつも蚊帳の外だった。

 仲間はずれにされたわけではない。いつだって翠兄さんは私を呼び誘ってくれた。流兄さんだって、口は悪いが蔑ろにされたわけではなかった。

 ひねくれて殻に閉じこもっていったのは、全部、自らの意志でしたことだった。

 なのに今日は……

「丈、おいで。お前と飲みたいんだ」
「そうだぜ、丈を囲んで酒を飲もう」

 二人の兄が振り向いて、私を招き入れてくれる。 それだけでも夢心地だったのに、二人が口を揃えて今日の私の行動を褒めてくれた。

 こんな事、初めてだ。鼻の奥がツンとして、声が擦れる。私は今泣いているのかもしれない。この涙は哀しさや怒りではなく、幸せな雫だ。

 こんな感情を静かに浴び、抱くことが……初めて過ぎて何をどう話していいのか分からず、盃を浴びた。

 先ほどから……流兄さんの放った言葉が、心の中で揺れている。

『丈……俺はさ、正直、お前が羨ましかったよ』

 羨ましいとは……

 兄さんたちだって私と洋に負けない程の強い想いで、強い絆で結ばれているのに、公に宣言できないのがもどかしいのだ。

 輪廻転生したのは、私と洋だけではない。兄たちもなのだ。

 京都でその謎を解き明かし、私と洋は全てを受け入れた。そしてあの事件を通じて、翠兄さんの息子、薙も理解している。

 兄さんたちは月影寺という結界の内では、何も恐れることはない。

「私が今日、頑張れたのは……翠兄さんと流兄さんが見守ってくれていたからですよ。だから……二人も宣言して下さい。私に誓ってください」

 翠兄さんと流兄さんが驚いたように顔を見合わせた。

 月見酒が私を更に饒舌にさせてくれる。

「二人の生涯の誓いを聞かせてくれませんか。弟である私に」

 そんなことを、大胆にも申し出ていた。

「丈! お前は何を言って?」
「丈……嬉しいよ」

 流兄さんは動揺し、翠兄さんはたおやかに微笑んだ。

「え? 翠……本気か」

 こういう時は長兄がリードするのかと思うと、心が凪ぎ和やかな気持ちになった。

「うん……実はね、僕もしてみたかったんだ」

 翠兄さんが背筋を伸ばし、正座した。

 そしてゆっくりと淡い桜色の唇を開いた。
  
「僕は、幸せな時も困難な時も、流と心をひとつにし、支えあい、乗り越えて……この先の未来、笑顔が溢れるあたたかい時間を築いていくことを誓います」

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