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14章
託す想い、集う人 12
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「僕もお邪魔していいかな?」
「あ……」
振り返ると雪也さんが立っていた。
小屋の中で、桂人さんは上半身……裸、翠さんも胸元を露わにしていたので、雪也さんは翠さんの胸元を見つめ、小さく息を呑んだ。
「桂人さんの背中は久しぶりに見ましたが、相変わらず綺麗ですね。そして翠さん……その胸の傷は、もしかして?」
「はい。実は……これを消したくて、ここに参りました」
すると雪也さんが納得したように微笑まれた。
「世の中には消したい記憶と、消したくない記憶があります。消したい記憶の一つ、身体に同意なく植え付けられた傷というものは、消しゴムのように綺麗に消せたらと願いたくなるでしょう。海里先生は生涯、そのようにしてつけられた傷を消すことを研究し、テツさんと共同で薬草から作る塗り薬を生み出し……本当に全力を注がれました」
雪也さんの目が、天を仰ぐ。
「翠さん、心配はご無用です。海里先生の研究成果とテツさんの薬は最強ですよ」
「ありがとうございます」
「話の途中悪いが、これが主となる原材料だ。和の香りの王様とも言われている『クロモジ』だ。日本固有種の香木なんだ」
テツさんが差し出した緑の葉をつけた枝は、初めて聞く名前だった。
「さぁ、香りを嗅いでくれ」
テツさんが葉を手でちぎると、甘く爽やかな香りがふわっと漂った。
どこか懐かしい香りに、俺の記憶が突然忙しなく動き出す。
いつだ? 過去の俺は……この香木を生涯大切にしていた。
『会いたい、会いたい、会いたいよ! 君に会いたくて気が狂いそうだ。お願い。いつもの香を炊いて……もう……心が狂ってしまいそうなんだ!』
この声は……洋月、君なのか。
「洋くん、君は、もしかして……」
桂人さんの鋭い視線が受けて、居たたまれない気持ちになった。俺の悲惨な過去を見透かされそうで怖い。俺の過去はどこまでも仄暗いことを悟られてしまいそうで、震えた。
「テツさん……洋くんには茶葉にしてあげてくれないか」
「……そうだな。クロモジには鎮静作用や抗不安作用があるんだ。ストレスの緩和や心身のバランス調整にいいんだ。現代人はストレスを抱えて生きているからお土産に作ってあげよう」
優しい心遣いがこもった言葉だった。
そう、俺の傷は意図せず……目に見えない所につけられたものだから根が深い。丈以外を受け入れた。それがよりによって義父だったという直視できない現実が潜んでいる。もう大丈夫、もう乗り越えた。そう思っても消えない過去なんだ。
「洋、大丈夫か」
「洋くん、すみません。おれ……余計なことを?」
桂人さんが申し訳なさそうに俺の手に触れてくれた。彼が触れると、蘇りかけていた、あのおぞましい記憶がふっと霞んだ。
「え……、あ、あの……」
「あぁすみません。俺は近い未来を感じることがあるのですが……その代わり過去の記憶を濁してしまうようで」
「あ……それで……あの、俺の近い未来とは?」
桂人さんがフッと微笑む。
男気溢れる笑みは年齢を感じさせない生命力を放っており、思わず見惚れてしまった。
「洋くん、あなたの心の住み処が見つかったようですね」
「え……」
「……希望岬です」
「それは、どこですか」
「海の近くの白い洋館……まるで灯台のように輝いています」
「あ……」
振り返ると雪也さんが立っていた。
小屋の中で、桂人さんは上半身……裸、翠さんも胸元を露わにしていたので、雪也さんは翠さんの胸元を見つめ、小さく息を呑んだ。
「桂人さんの背中は久しぶりに見ましたが、相変わらず綺麗ですね。そして翠さん……その胸の傷は、もしかして?」
「はい。実は……これを消したくて、ここに参りました」
すると雪也さんが納得したように微笑まれた。
「世の中には消したい記憶と、消したくない記憶があります。消したい記憶の一つ、身体に同意なく植え付けられた傷というものは、消しゴムのように綺麗に消せたらと願いたくなるでしょう。海里先生は生涯、そのようにしてつけられた傷を消すことを研究し、テツさんと共同で薬草から作る塗り薬を生み出し……本当に全力を注がれました」
雪也さんの目が、天を仰ぐ。
「翠さん、心配はご無用です。海里先生の研究成果とテツさんの薬は最強ですよ」
「ありがとうございます」
「話の途中悪いが、これが主となる原材料だ。和の香りの王様とも言われている『クロモジ』だ。日本固有種の香木なんだ」
テツさんが差し出した緑の葉をつけた枝は、初めて聞く名前だった。
「さぁ、香りを嗅いでくれ」
テツさんが葉を手でちぎると、甘く爽やかな香りがふわっと漂った。
どこか懐かしい香りに、俺の記憶が突然忙しなく動き出す。
いつだ? 過去の俺は……この香木を生涯大切にしていた。
『会いたい、会いたい、会いたいよ! 君に会いたくて気が狂いそうだ。お願い。いつもの香を炊いて……もう……心が狂ってしまいそうなんだ!』
この声は……洋月、君なのか。
「洋くん、君は、もしかして……」
桂人さんの鋭い視線が受けて、居たたまれない気持ちになった。俺の悲惨な過去を見透かされそうで怖い。俺の過去はどこまでも仄暗いことを悟られてしまいそうで、震えた。
「テツさん……洋くんには茶葉にしてあげてくれないか」
「……そうだな。クロモジには鎮静作用や抗不安作用があるんだ。ストレスの緩和や心身のバランス調整にいいんだ。現代人はストレスを抱えて生きているからお土産に作ってあげよう」
優しい心遣いがこもった言葉だった。
そう、俺の傷は意図せず……目に見えない所につけられたものだから根が深い。丈以外を受け入れた。それがよりによって義父だったという直視できない現実が潜んでいる。もう大丈夫、もう乗り越えた。そう思っても消えない過去なんだ。
「洋、大丈夫か」
「洋くん、すみません。おれ……余計なことを?」
桂人さんが申し訳なさそうに俺の手に触れてくれた。彼が触れると、蘇りかけていた、あのおぞましい記憶がふっと霞んだ。
「え……、あ、あの……」
「あぁすみません。俺は近い未来を感じることがあるのですが……その代わり過去の記憶を濁してしまうようで」
「あ……それで……あの、俺の近い未来とは?」
桂人さんがフッと微笑む。
男気溢れる笑みは年齢を感じさせない生命力を放っており、思わず見惚れてしまった。
「洋くん、あなたの心の住み処が見つかったようですね」
「え……」
「……希望岬です」
「それは、どこですか」
「海の近くの白い洋館……まるで灯台のように輝いています」
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