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14章
追憶の由比ヶ浜 49
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「パパ-」
「んー? どうした?? 秋」
「おばあちゃん、ねんね、しちゃったぁ」
「白江さん……」
バックミラーを確かめると、チャイルドシートに座る秋の隣で、白江さんがコックリコックリと転た寝をしていた。
皺のある口元を綻ばして、楽しい夢を見ているようだ。
今日は、よほど楽しい時間だったのだろう。
洋さん、良かったな。一時期はどうなることかと心配したが、すっかり和解出来たようで、俺も胸を撫で下ろした。
「秋、静かにな」
「パパぁ、アキもねむい」
「そうだな。お前も疲れちゃったな」
「うん、おばーちゃんとねんねする」
「あぉ、家に着いたら起こしてやるから、ぐっすりお休み」
正確には白江さんは祖母ではないが、相変わらず日本中を飛び回っている俺の母よりも、ずっと祖母らしい風情だ。
今日はカフェの定休日だ。
いつもなら保育園に行っている秋と、遠出した。
行き先は由比ヶ浜。
長い時間、海辺で遊んだので、まだ2歳の幼い息子はクタクタのようだ。
やがて……可愛い寝息を立てだした。
小さな寝言は「まま……」
その言葉に、クッと胸が切なくなる。
ごめんな、秋を……ママのいない子にしてしまって。
ふとバックミラーの自分の顔に、懐かしい人の顔が重なった。
「あっ、海里先生……」
父の兄、柊一さんのパートナー海里先生の顔に、俺は本当に似ている。
髪色や瞳の色こそ違うが、顔立ちが似ていると、幼い頃から周りに驚かれたものだ。
どうして……こんなに似ているのだろう?
血が繋がっているわけでないのに、不思議だ。
父さんが母さんに連れられて日本全国を行脚している間、俺はいつも海里先生と柊一さんに預けられて面倒を見てもらった。
だから俺にとって、彼らも親のような存在だ。
そしてもう一組、親のように思っていた人たちがいる。
アーサーさんと瑠衣さんだ。
海里先生の弟の瑠衣さんには、英国人の男性パートナーがいた。
彼らは英国在住だったが、たびたび帰国しては冬郷の家に泊まり、あの由比ヶ浜の家で集まったりもした。
アーサーさんが用意した瑠衣さんの日本の家が、あの洋くんが引き継いだ由比ヶ浜の洋館の右隣の家だ。
あそこは元々は、双子《ツイン》の建物だった。
白江さんに双子の娘が生まれた時に、左と同じ外観の洋館を出産祝いでご主人に建ててもらったそうだ。
なんとも贅沢な話だよな。
ところがすぐに財政的な事情があり、英国貴族のアーサーさんに、後から建てた家を売却してしまったそうだ。
アーサーさんは、もう82歳。
すっかり年を取られて……でもその見事なアッシュブロンドは色褪せていない。
今回の来日は弟のノアさんが同行していた。
きっと……もう最期の来日になるのだろう。
「今日は白江さんも一緒に来ているんです。会いませんか」
「いや、ここでは……瑠衣とゆっくり過ごすよ。帰国前に一度冬郷家に寄らせてもらうので、その時白江さんにも挨拶するよ」
「分かりました」
「春馬くん……君は不思議と……海里に似ているな」
「そうでしょうか。よく言われました」
俺を通して、亡き親友を想うアーサーさんに胸が切なくなる。
人には寿命があり、順番にあの世に旅立つのは分かっている。
だけれど、やはり寂しくなる。
だが、別れもあれば出会いもあるのが、この世の常。
消える命と産まれる命。
世界のバランスは取れている。
「あら、私……眠っていた?」
「えぇ、楽しそうな夢を見ていましたよ」
「ふふっ、昔ね、海里さんや柊一さんたちと夏休みにあの由比ヶ浜に泊まったの。正確には旅行にいってらっしゃいと別荘の鍵を渡したんだけど、私、どうしても気になって、娘を連れて覗き見をしに行ったのよ。はしたないでしょう?」
「ははっ、いいものが見られました?」
「それはもう! 最高に可笑しかったわ」
少女のように可憐に笑う白江さん。
その話……ぜひ聞かせて欲しい!
「んー? どうした?? 秋」
「おばあちゃん、ねんね、しちゃったぁ」
「白江さん……」
バックミラーを確かめると、チャイルドシートに座る秋の隣で、白江さんがコックリコックリと転た寝をしていた。
皺のある口元を綻ばして、楽しい夢を見ているようだ。
今日は、よほど楽しい時間だったのだろう。
洋さん、良かったな。一時期はどうなることかと心配したが、すっかり和解出来たようで、俺も胸を撫で下ろした。
「秋、静かにな」
「パパぁ、アキもねむい」
「そうだな。お前も疲れちゃったな」
「うん、おばーちゃんとねんねする」
「あぉ、家に着いたら起こしてやるから、ぐっすりお休み」
正確には白江さんは祖母ではないが、相変わらず日本中を飛び回っている俺の母よりも、ずっと祖母らしい風情だ。
今日はカフェの定休日だ。
いつもなら保育園に行っている秋と、遠出した。
行き先は由比ヶ浜。
長い時間、海辺で遊んだので、まだ2歳の幼い息子はクタクタのようだ。
やがて……可愛い寝息を立てだした。
小さな寝言は「まま……」
その言葉に、クッと胸が切なくなる。
ごめんな、秋を……ママのいない子にしてしまって。
ふとバックミラーの自分の顔に、懐かしい人の顔が重なった。
「あっ、海里先生……」
父の兄、柊一さんのパートナー海里先生の顔に、俺は本当に似ている。
髪色や瞳の色こそ違うが、顔立ちが似ていると、幼い頃から周りに驚かれたものだ。
どうして……こんなに似ているのだろう?
血が繋がっているわけでないのに、不思議だ。
父さんが母さんに連れられて日本全国を行脚している間、俺はいつも海里先生と柊一さんに預けられて面倒を見てもらった。
だから俺にとって、彼らも親のような存在だ。
そしてもう一組、親のように思っていた人たちがいる。
アーサーさんと瑠衣さんだ。
海里先生の弟の瑠衣さんには、英国人の男性パートナーがいた。
彼らは英国在住だったが、たびたび帰国しては冬郷の家に泊まり、あの由比ヶ浜の家で集まったりもした。
アーサーさんが用意した瑠衣さんの日本の家が、あの洋くんが引き継いだ由比ヶ浜の洋館の右隣の家だ。
あそこは元々は、双子《ツイン》の建物だった。
白江さんに双子の娘が生まれた時に、左と同じ外観の洋館を出産祝いでご主人に建ててもらったそうだ。
なんとも贅沢な話だよな。
ところがすぐに財政的な事情があり、英国貴族のアーサーさんに、後から建てた家を売却してしまったそうだ。
アーサーさんは、もう82歳。
すっかり年を取られて……でもその見事なアッシュブロンドは色褪せていない。
今回の来日は弟のノアさんが同行していた。
きっと……もう最期の来日になるのだろう。
「今日は白江さんも一緒に来ているんです。会いませんか」
「いや、ここでは……瑠衣とゆっくり過ごすよ。帰国前に一度冬郷家に寄らせてもらうので、その時白江さんにも挨拶するよ」
「分かりました」
「春馬くん……君は不思議と……海里に似ているな」
「そうでしょうか。よく言われました」
俺を通して、亡き親友を想うアーサーさんに胸が切なくなる。
人には寿命があり、順番にあの世に旅立つのは分かっている。
だけれど、やはり寂しくなる。
だが、別れもあれば出会いもあるのが、この世の常。
消える命と産まれる命。
世界のバランスは取れている。
「あら、私……眠っていた?」
「えぇ、楽しそうな夢を見ていましたよ」
「ふふっ、昔ね、海里さんや柊一さんたちと夏休みにあの由比ヶ浜に泊まったの。正確には旅行にいってらっしゃいと別荘の鍵を渡したんだけど、私、どうしても気になって、娘を連れて覗き見をしに行ったのよ。はしたないでしょう?」
「ははっ、いいものが見られました?」
「それはもう! 最高に可笑しかったわ」
少女のように可憐に笑う白江さん。
その話……ぜひ聞かせて欲しい!
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