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13章
夏休み番外編『Let's go to the beach』7
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俺と丈がビーチに行くと、既に大きなパラソルやシェードなど大々的に設置されていたので、驚いてしまった。
なんだかすごい幅を利かせて……ド派手で、悪目立ちしそうで、苦笑してしまった。
「流石、流さんですね。準備万端すぎです」
「おぉ洋くん! ははっ、そうだろう? 兄さんは日焼けするとまずいから完全防備だ。洋くんもだろう? 」
「いえ、俺は今日は少し焼いてみたいと思って」
「へぇ~よく丈の許可が下りたな」
「……秘密です」
「ふぅん。でも日焼け用のローションを随分綺麗に塗ってるな」
「あっわかります? 」
「まぁな、俺と同じローションの匂いがするから」
「え? 」
なんだかソレ……嬉しいような嬉しくないような……丈が知ったらまた怒りそうだ。
「流兄さん、今、何か洋にいいましたか」
「いや別に。そうだ丈、一緒に泳ごうぜ! 」
「えぇいいですよ。兄さんには負けませんから」
対抗意識を燃やす二人は、あっという間に波打ち際に消えてしまった。
流石俺の丈だな。外科医の激務に耐えうる体力を持っている。隆々たる筋肉の逞しい背中を客観的に眺めていると、躰の芯が熱くなる。
タフなのは流さんも同じだ。流さんはきっと前世での悔しさから人一倍丈夫な躰で生まれてきたのだろう。
「洋くん、ここに座ったら? 」
サンシェードの中にはデッキチェアまで設置されていて、そこには翠さんが座っていた。
うわ……翠さんの周りだけ清涼な風が吹いているように涼やかだ。翠色の竹林を背負っているような錯覚に陥ってしまい、慌てて目を擦った。
なんだか今一瞬違う風景が見えたような。
翠さんが着物を着ているようで……あぁこれは何の記憶なのか。もしかして夕凪、君が見せてくれた風景なのか。
大きなサンシェードは大人二人をすっぽり隠してくれる。日焼けしたいと意気込んだものの、真夏の日差しは思ったより厳しく、あっという間に根をあげてしまった。
まったく俺に体力がないのは変わらずなのか。もう少し丈夫になりたいといつも願っているのに。
「それにしても二人は相変わらず元気だね。洋くん何か飲む? 」
「あっはい」
「でも流と丈にはここで体力を使い果たして欲しいね。夜はそうすれば僕たちも安泰だろう」
「え! 」
翠さんにしてはとても砕けた物言いに、驚いてしまった。
どうやら広い海は、心を解放してくれるようだ。
お盆の激務を終えたばかりの翠さんには、少し疲労の色が見えたが、この旅行を心から楽しんでいる様子にほっとした。
「本当にいい景色だね」
「えぇ」
波打ち際では、皆……思い思いの夏を謳歌中だ。
浮き輪で浮かぶ子供たち、砂浜でお城を作る親子。男女のカップルも多いな……あとは高校生くらいの男の子たちがグループでビーチバレーみたいな遊びをしていて、楽しそうな笑い声が、ここまで届く。
いい風景だ。どれも俺の記憶にはない憧れていた風景だ。
高校時代、気楽にクラスメイトと遊んだ記憶なんて……安志としかないから、『友人』という言葉は甘い蜜のように感じる。でもだからこそ今も離れていても心は傍にいてくれる安志とKaiと優也さんは、俺にとって大事な友人だと改めて思えるよ。そして従弟の涼もだ。
あぁ……また皆で集まりたいな。
それにしてもさっきの青年、感じ良かったな。友人が少ない俺にとって、気になる存在だった。だが夏のビーチはすごい人でごった返しているので、きっともう会うこともないだろう……少し残念だな。
「丈と流さん、全然帰ってこないですね。翠さんお腹空きません? 俺、海の家で何か買ってきましょうか」
「うん、ありがとう。じゃあ……かき氷を食べてみたいな」
「いいですよ。夏はやっぱりかき氷ですよね」
振り返ると防波堤に沿って海の家がずらりと並んでいた。夏の行楽らしい風景に、俺の方もウキウキしてしまう。
「ちょっと見てきますね」
「あっ……洋くんくれぐれも気を付けて。それから何か上着を着た方がいいよ……その……そのままでは心配だ」
翠さんに促されて、素直にラッシュガードを着ることにした。確かにお盆休みに入って連日丈に抱かれた躰だ。乳首も吸いつかれまくったせいか、ぷっくりと赤く腫れているような気がして、妙に恥ずかしくなった。
「すっ、すみません」
「うん……災いは避けられるものは避けた方がいい。さぁサングラスもして」
「あっはい」
翠さんだからこその忠告を素直に聞いた。何故なら翠さんも俺と同じ気持ちに陥ったことのある人だから……
夏の日差しを浴びながら砂浜を歩くと、とても開放的な気分になった。
どこの店のかき氷が一番おいしそうかななどと、食いしん坊なことを考えながら歩いていると、突然背後から俺の太腿にペタッと触れる手を感じたので、驚愕してしまった。
「なっ……何っ!? 」
なんだかすごい幅を利かせて……ド派手で、悪目立ちしそうで、苦笑してしまった。
「流石、流さんですね。準備万端すぎです」
「おぉ洋くん! ははっ、そうだろう? 兄さんは日焼けするとまずいから完全防備だ。洋くんもだろう? 」
「いえ、俺は今日は少し焼いてみたいと思って」
「へぇ~よく丈の許可が下りたな」
「……秘密です」
「ふぅん。でも日焼け用のローションを随分綺麗に塗ってるな」
「あっわかります? 」
「まぁな、俺と同じローションの匂いがするから」
「え? 」
なんだかソレ……嬉しいような嬉しくないような……丈が知ったらまた怒りそうだ。
「流兄さん、今、何か洋にいいましたか」
「いや別に。そうだ丈、一緒に泳ごうぜ! 」
「えぇいいですよ。兄さんには負けませんから」
対抗意識を燃やす二人は、あっという間に波打ち際に消えてしまった。
流石俺の丈だな。外科医の激務に耐えうる体力を持っている。隆々たる筋肉の逞しい背中を客観的に眺めていると、躰の芯が熱くなる。
タフなのは流さんも同じだ。流さんはきっと前世での悔しさから人一倍丈夫な躰で生まれてきたのだろう。
「洋くん、ここに座ったら? 」
サンシェードの中にはデッキチェアまで設置されていて、そこには翠さんが座っていた。
うわ……翠さんの周りだけ清涼な風が吹いているように涼やかだ。翠色の竹林を背負っているような錯覚に陥ってしまい、慌てて目を擦った。
なんだか今一瞬違う風景が見えたような。
翠さんが着物を着ているようで……あぁこれは何の記憶なのか。もしかして夕凪、君が見せてくれた風景なのか。
大きなサンシェードは大人二人をすっぽり隠してくれる。日焼けしたいと意気込んだものの、真夏の日差しは思ったより厳しく、あっという間に根をあげてしまった。
まったく俺に体力がないのは変わらずなのか。もう少し丈夫になりたいといつも願っているのに。
「それにしても二人は相変わらず元気だね。洋くん何か飲む? 」
「あっはい」
「でも流と丈にはここで体力を使い果たして欲しいね。夜はそうすれば僕たちも安泰だろう」
「え! 」
翠さんにしてはとても砕けた物言いに、驚いてしまった。
どうやら広い海は、心を解放してくれるようだ。
お盆の激務を終えたばかりの翠さんには、少し疲労の色が見えたが、この旅行を心から楽しんでいる様子にほっとした。
「本当にいい景色だね」
「えぇ」
波打ち際では、皆……思い思いの夏を謳歌中だ。
浮き輪で浮かぶ子供たち、砂浜でお城を作る親子。男女のカップルも多いな……あとは高校生くらいの男の子たちがグループでビーチバレーみたいな遊びをしていて、楽しそうな笑い声が、ここまで届く。
いい風景だ。どれも俺の記憶にはない憧れていた風景だ。
高校時代、気楽にクラスメイトと遊んだ記憶なんて……安志としかないから、『友人』という言葉は甘い蜜のように感じる。でもだからこそ今も離れていても心は傍にいてくれる安志とKaiと優也さんは、俺にとって大事な友人だと改めて思えるよ。そして従弟の涼もだ。
あぁ……また皆で集まりたいな。
それにしてもさっきの青年、感じ良かったな。友人が少ない俺にとって、気になる存在だった。だが夏のビーチはすごい人でごった返しているので、きっともう会うこともないだろう……少し残念だな。
「丈と流さん、全然帰ってこないですね。翠さんお腹空きません? 俺、海の家で何か買ってきましょうか」
「うん、ありがとう。じゃあ……かき氷を食べてみたいな」
「いいですよ。夏はやっぱりかき氷ですよね」
振り返ると防波堤に沿って海の家がずらりと並んでいた。夏の行楽らしい風景に、俺の方もウキウキしてしまう。
「ちょっと見てきますね」
「あっ……洋くんくれぐれも気を付けて。それから何か上着を着た方がいいよ……その……そのままでは心配だ」
翠さんに促されて、素直にラッシュガードを着ることにした。確かにお盆休みに入って連日丈に抱かれた躰だ。乳首も吸いつかれまくったせいか、ぷっくりと赤く腫れているような気がして、妙に恥ずかしくなった。
「すっ、すみません」
「うん……災いは避けられるものは避けた方がいい。さぁサングラスもして」
「あっはい」
翠さんだからこその忠告を素直に聞いた。何故なら翠さんも俺と同じ気持ちに陥ったことのある人だから……
夏の日差しを浴びながら砂浜を歩くと、とても開放的な気分になった。
どこの店のかき氷が一番おいしそうかななどと、食いしん坊なことを考えながら歩いていると、突然背後から俺の太腿にペタッと触れる手を感じたので、驚愕してしまった。
「なっ……何っ!? 」
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