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13章
正念場 22(小森くん編)
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「住職、おはようございます。」
「あぁ小森くん、おはよう」
「今日もいい天気ですね」
「うん、春風が心地良いね。もう桜の開花も間近のようだ」
「確かに! 道すがらだいぶ蕾が膨らんでいましたよ」
「そう? じゃあ今日もよろしくね。今から僕は少し母屋の方に戻るから、本堂を頼んでもいいかな」
「はい! 畏まりました」
僕は小森 風太。
月影寺の通いの僧侶として雇われて、もう五年になる。
俺の実家は寺ではないが、将来の職業として僧侶にずっと憧れていた。だから※得度の制度を利用して仏門に入ったんだ。
この月影寺は北鎌倉の一番奥に位置する古寺で、寺自体はこじんまりしているが、古い歴史と広大な敷地、滝つぼまである裏山を持っていることで知られている。
また期間限定の宿坊や写経教室、花見の頃には茶席が出たりと、奥まった小さな寺なのに催事が多い。
だから駅から三十分近くかけて坂道を登らないと辿り着かない不便な場所なのに人足が絶えない。
おっと一番大切なことを言い忘れていた。
一番の人気の秘密は、この寺の住職と副住職が超‼ 美形兄弟だからだ。
そのことは、この寺に雇われ勤めだしてから、すぐに気が付いた。
「じゃあ頼んだよ。あっ御朱印帳の受付も対応してもらえるかな?」
「もちろんです!」
若草色の袈裟姿がその楚々とした綺麗な顔に映えて、本当に住職は美人だよな。うぉぉ……今日も滅茶苦茶綺麗だった!
住職が歩き出すと、まるでその動きに合わせたかのように副住職の姿が中庭から突然現れた。ふむふむ、こっちは精悍でカッコいいよな。作務衣姿が全然ダサくなくて黒豹みたいにギラリと光っている。
「眼福……眼福だ……南無南無……」
それから暫く誰も来ないようなので、本堂で読経していると、副住職に呼ばれた。
「小森、悪いが、暫く留守番頼むぞ」
「はい!」
どうやら住職と一緒に出掛けるようだ。スケジュールには入っていないが、檀家さんの所かな。僕は余計なことは聞かないので分からないが、美形兄弟が仲良さそうに出かけていく後ろ姿を見送るのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。
(いってらっしゃい~! どうぞ、ごゆっくり)
と心の中で呟いた。
だが二人がいないと、結構厄介なことがある。
それを今日もすぐに痛感することになった。
「えー‼ なんだ……がっかり」
「住職はいないんですかぁ~、副住職も? 」
「うわっ! 今日いないの? アーン、ついてないな」
世の中が御朱印ブームなのか……続々とやって来る参拝客の女性。
御朱印対応受付に慌てて座ると、僕の顔を見るなりひっきりなしにそんな声が飛び交うんだから、これは苦笑してしまうよ。
あからさまにガッカリされたり、嫌な顔をされるのはもう慣れっこだ。
どうせ僕は美形兄弟と真逆の超凡人って顔ですよーっと悪態もつきたくなる。
そんなこんなで思ったより忙しく仕事をこなしていると、背後から涼しい声がした。
「小森くん悪かったね。今日は忙しかったようだね」
振り返えると住職が、優美に微笑んでいた。
思わず泣きつきたいほどの仏の笑みだ。
「わぁぁ住職ぅぅぅ~もうパニックですよ」
「ごめんね。僕が代わるよ。控えの間におやつが置いてあるから食べておいで。今日は最中だよ」
「いいんですか」
「うん、ゆっくりどうぞ」
あぁ! だから好きだ。
ここの住職は優しい。僕なんかの下っ端の僧侶も大事に大事に扱ってくれる。
自分の容姿をひけらかすこともせず、一人ひとりに丁寧に応対している姿を見て心が洗われる。清々しい気持ちになる。
控えの間に入ると、円卓に言われた通りの最中が置いてあった。
あれ、これって月下庵茶屋のだ。いつの間に……
あっ……もしかしてさっき二人で行ってきたのか。
そういえば少し住職の目が潤んでいたような?
甘いものを食べたせいなのかな。
うーん、なんだかよく分からないけれども、美形兄弟には僕が知らないお楽しみがありそうだ。
「うーん、おいしー!」
「ほら、茶だ」
パクッと頬張って美味しさを噛みしめていると、副住職がお茶を出してくれた。
どういう吹き回し?
「小森、さっきは留守番ありがとな」
「あの……副住職は召し上がらないのですか」
「俺? 俺はもう腹一杯だ。ははっ! 小森はもっと食って大きくなれよ」
副住職は、満ち足りた顔で寺庭に出て行った。
きっと甘い最中を、もう沢山食べたのだろう。
※得度制度……
菩提寺の住職から許可をもらい得度考査を受け、得度習礼を受講し得度を得てます。その後教師教修というものをを受講して、ようやく寺に就職しお坊さんになります。つまり得度考査とは筆記試験で、いわゆる修行にあたるのが得度習礼なのです。
****
こんばんは~志生帆海です。
今日は少し番外編的に、通いの僧侶の小森くんからみた月影寺の様子を書いてみましたがいかがでしたか。
先日北鎌倉を散策した影響といただいた素敵なコメントに刺激されて、妄想が羽ばたいてしまいました。
「あぁ小森くん、おはよう」
「今日もいい天気ですね」
「うん、春風が心地良いね。もう桜の開花も間近のようだ」
「確かに! 道すがらだいぶ蕾が膨らんでいましたよ」
「そう? じゃあ今日もよろしくね。今から僕は少し母屋の方に戻るから、本堂を頼んでもいいかな」
「はい! 畏まりました」
僕は小森 風太。
月影寺の通いの僧侶として雇われて、もう五年になる。
俺の実家は寺ではないが、将来の職業として僧侶にずっと憧れていた。だから※得度の制度を利用して仏門に入ったんだ。
この月影寺は北鎌倉の一番奥に位置する古寺で、寺自体はこじんまりしているが、古い歴史と広大な敷地、滝つぼまである裏山を持っていることで知られている。
また期間限定の宿坊や写経教室、花見の頃には茶席が出たりと、奥まった小さな寺なのに催事が多い。
だから駅から三十分近くかけて坂道を登らないと辿り着かない不便な場所なのに人足が絶えない。
おっと一番大切なことを言い忘れていた。
一番の人気の秘密は、この寺の住職と副住職が超‼ 美形兄弟だからだ。
そのことは、この寺に雇われ勤めだしてから、すぐに気が付いた。
「じゃあ頼んだよ。あっ御朱印帳の受付も対応してもらえるかな?」
「もちろんです!」
若草色の袈裟姿がその楚々とした綺麗な顔に映えて、本当に住職は美人だよな。うぉぉ……今日も滅茶苦茶綺麗だった!
住職が歩き出すと、まるでその動きに合わせたかのように副住職の姿が中庭から突然現れた。ふむふむ、こっちは精悍でカッコいいよな。作務衣姿が全然ダサくなくて黒豹みたいにギラリと光っている。
「眼福……眼福だ……南無南無……」
それから暫く誰も来ないようなので、本堂で読経していると、副住職に呼ばれた。
「小森、悪いが、暫く留守番頼むぞ」
「はい!」
どうやら住職と一緒に出掛けるようだ。スケジュールには入っていないが、檀家さんの所かな。僕は余計なことは聞かないので分からないが、美形兄弟が仲良さそうに出かけていく後ろ姿を見送るのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。
(いってらっしゃい~! どうぞ、ごゆっくり)
と心の中で呟いた。
だが二人がいないと、結構厄介なことがある。
それを今日もすぐに痛感することになった。
「えー‼ なんだ……がっかり」
「住職はいないんですかぁ~、副住職も? 」
「うわっ! 今日いないの? アーン、ついてないな」
世の中が御朱印ブームなのか……続々とやって来る参拝客の女性。
御朱印対応受付に慌てて座ると、僕の顔を見るなりひっきりなしにそんな声が飛び交うんだから、これは苦笑してしまうよ。
あからさまにガッカリされたり、嫌な顔をされるのはもう慣れっこだ。
どうせ僕は美形兄弟と真逆の超凡人って顔ですよーっと悪態もつきたくなる。
そんなこんなで思ったより忙しく仕事をこなしていると、背後から涼しい声がした。
「小森くん悪かったね。今日は忙しかったようだね」
振り返えると住職が、優美に微笑んでいた。
思わず泣きつきたいほどの仏の笑みだ。
「わぁぁ住職ぅぅぅ~もうパニックですよ」
「ごめんね。僕が代わるよ。控えの間におやつが置いてあるから食べておいで。今日は最中だよ」
「いいんですか」
「うん、ゆっくりどうぞ」
あぁ! だから好きだ。
ここの住職は優しい。僕なんかの下っ端の僧侶も大事に大事に扱ってくれる。
自分の容姿をひけらかすこともせず、一人ひとりに丁寧に応対している姿を見て心が洗われる。清々しい気持ちになる。
控えの間に入ると、円卓に言われた通りの最中が置いてあった。
あれ、これって月下庵茶屋のだ。いつの間に……
あっ……もしかしてさっき二人で行ってきたのか。
そういえば少し住職の目が潤んでいたような?
甘いものを食べたせいなのかな。
うーん、なんだかよく分からないけれども、美形兄弟には僕が知らないお楽しみがありそうだ。
「うーん、おいしー!」
「ほら、茶だ」
パクッと頬張って美味しさを噛みしめていると、副住職がお茶を出してくれた。
どういう吹き回し?
「小森、さっきは留守番ありがとな」
「あの……副住職は召し上がらないのですか」
「俺? 俺はもう腹一杯だ。ははっ! 小森はもっと食って大きくなれよ」
副住職は、満ち足りた顔で寺庭に出て行った。
きっと甘い最中を、もう沢山食べたのだろう。
※得度制度……
菩提寺の住職から許可をもらい得度考査を受け、得度習礼を受講し得度を得てます。その後教師教修というものをを受講して、ようやく寺に就職しお坊さんになります。つまり得度考査とは筆記試験で、いわゆる修行にあたるのが得度習礼なのです。
****
こんばんは~志生帆海です。
今日は少し番外編的に、通いの僧侶の小森くんからみた月影寺の様子を書いてみましたがいかがでしたか。
先日北鎌倉を散策した影響といただいた素敵なコメントに刺激されて、妄想が羽ばたいてしまいました。
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