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13章
慈しみ深き愛 10
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「怖くないか」
「さっきまで怖かったが……丈がいるから大丈夫だ」
零れ落ちる素直な気持ちを、伝えたい。
俺のために、いつの間にこんな大改装を。
壁紙の色も、天上の色も、寝具の色も……全部透き通った水の色。
溶け込んでいく……この空間に……。
「驚いたか」
「あぁ、まさか知らないうちに改装していたなんて。俺はあの時……この家を売ってしまおうと思っていたのに……そうしなくて良かった」
「洋とソウルで会った時、日本に戻ったらお母さんのルーツを探りたいと話していたから、きっとここを訪れると思ったのだ。それに……」
少しだけ丈が気まずそうに目を逸らした。こういう仕草をするのは、照れくさい時なんだ。長く付き合ううちに、俺もだいぶ丈の性格が分かってきたようだ。
「それに?」
言葉を促すと、丈は、はぁ……と短い溜息をつきながら、教えてくれた。
「……洋がいなくて寂しかったから、この部屋をリフォームすることで、気を紛らわせていたのだ」
「……そうか……ごめんな。俺……一カ月以上待たせたよな」
「いや、洋が頑張っている姿を一度見に行けたので納得はしていた。今までの私は、結局洋の自立を応援しながらも、いつでも私に甘えて欲しいと思っていた。だが今の洋にそれを強制するのは間違っているのだとも……洋は年月をかけてじっくりと成長した。出会った時よりずっと逞しくなった。本当にソウルで奮闘する姿を見せてくれたから、私も色々と考えさえられたよ」
俺の成長を丈が認めてくれたのが、嬉しかった。
「そうだったのか。確かに奮闘していたよ。引き受けたからにはベストを尽くしたくてね。女性と話すのも慣れないが……努力したしな」
「それは余計だ」
「ふっ」
気が付けば、丈が俺の着ていたセーターを手際良く脱がし、シャツのボタンに手をかけていた。俺もそれを望んでいるのだから、黙って身を任せた。
「丈……俺は頑張ってきたよ。でも駄目だな。こうやって君に触れてもらえると、どんどん君が欲しくなる。欲情するというのか、これって?」
「嬉しいことを」
「この部屋……嫌な思い出が詰まっていると思っていたのに……なんだろう。今のこの爽やかな空気は……」
「さぁ……今から一気に洋の記憶を塗り潰すぞ」
そのままベッドに、ドサっと押し倒された。
いつの間にかシャツのボタンは下まで外されいて、それを少しだけ性急に観音開きにされ、素肌が剥き出しになった。
「ん……まだ外は明るいのに」
「それがいい。洋……ここは暗闇でないことが、よく分かるだろう」
確かに暗黒のトンネルを歩いているような年月だった。母を亡くした後の10年間は、どんなに歩いても出口は見えず行先も分からず、トンネルの中をひとりで行ったり来たりしていた人生だった。
「あぁ、ここは明るい。だから……俺が愛する人の顔がよく見えるよ」
「そうだ。今から洋を抱くのは私だ。よく覚えておけ!」
丈はそんなことを不敵に言ってのけ、そのまま唇を勢いよく重ねて来た。
「ん……はぅっ……っ……」
久しぶりのキスは、まるでお互いがお互いを求めていたことを証明する方法のようで、激しく貪り合ってしまった。
唾液が零れ落ち、混ざり合ってくちゅくちゅと音を立てるほどに、息も出来ないほどに。
あとは本能のまま、丈が俺を抱き、俺は丈に抱かれるだけ。
丈と知り合ってから何度も繰り返してきたこの行為には、俺達の愛を育てるという意味がある。
「本当は……後半は……丈が恋しくなって、大変だった。Kaiと優也さんにはあてられっぱなしだったから」
「そうか……ならば、ひとりで弄ったのか、ここ」
丈が唇を首筋に移動させながら、俺の股間を優しく撫で上げた。
「んぁっ……」
ずっと待ち望んでいた……丈の手だ。
少し触れられただけで、腰が大きく跳ねてしまった。
「さっきまで怖かったが……丈がいるから大丈夫だ」
零れ落ちる素直な気持ちを、伝えたい。
俺のために、いつの間にこんな大改装を。
壁紙の色も、天上の色も、寝具の色も……全部透き通った水の色。
溶け込んでいく……この空間に……。
「驚いたか」
「あぁ、まさか知らないうちに改装していたなんて。俺はあの時……この家を売ってしまおうと思っていたのに……そうしなくて良かった」
「洋とソウルで会った時、日本に戻ったらお母さんのルーツを探りたいと話していたから、きっとここを訪れると思ったのだ。それに……」
少しだけ丈が気まずそうに目を逸らした。こういう仕草をするのは、照れくさい時なんだ。長く付き合ううちに、俺もだいぶ丈の性格が分かってきたようだ。
「それに?」
言葉を促すと、丈は、はぁ……と短い溜息をつきながら、教えてくれた。
「……洋がいなくて寂しかったから、この部屋をリフォームすることで、気を紛らわせていたのだ」
「……そうか……ごめんな。俺……一カ月以上待たせたよな」
「いや、洋が頑張っている姿を一度見に行けたので納得はしていた。今までの私は、結局洋の自立を応援しながらも、いつでも私に甘えて欲しいと思っていた。だが今の洋にそれを強制するのは間違っているのだとも……洋は年月をかけてじっくりと成長した。出会った時よりずっと逞しくなった。本当にソウルで奮闘する姿を見せてくれたから、私も色々と考えさえられたよ」
俺の成長を丈が認めてくれたのが、嬉しかった。
「そうだったのか。確かに奮闘していたよ。引き受けたからにはベストを尽くしたくてね。女性と話すのも慣れないが……努力したしな」
「それは余計だ」
「ふっ」
気が付けば、丈が俺の着ていたセーターを手際良く脱がし、シャツのボタンに手をかけていた。俺もそれを望んでいるのだから、黙って身を任せた。
「丈……俺は頑張ってきたよ。でも駄目だな。こうやって君に触れてもらえると、どんどん君が欲しくなる。欲情するというのか、これって?」
「嬉しいことを」
「この部屋……嫌な思い出が詰まっていると思っていたのに……なんだろう。今のこの爽やかな空気は……」
「さぁ……今から一気に洋の記憶を塗り潰すぞ」
そのままベッドに、ドサっと押し倒された。
いつの間にかシャツのボタンは下まで外されいて、それを少しだけ性急に観音開きにされ、素肌が剥き出しになった。
「ん……まだ外は明るいのに」
「それがいい。洋……ここは暗闇でないことが、よく分かるだろう」
確かに暗黒のトンネルを歩いているような年月だった。母を亡くした後の10年間は、どんなに歩いても出口は見えず行先も分からず、トンネルの中をひとりで行ったり来たりしていた人生だった。
「あぁ、ここは明るい。だから……俺が愛する人の顔がよく見えるよ」
「そうだ。今から洋を抱くのは私だ。よく覚えておけ!」
丈はそんなことを不敵に言ってのけ、そのまま唇を勢いよく重ねて来た。
「ん……はぅっ……っ……」
久しぶりのキスは、まるでお互いがお互いを求めていたことを証明する方法のようで、激しく貪り合ってしまった。
唾液が零れ落ち、混ざり合ってくちゅくちゅと音を立てるほどに、息も出来ないほどに。
あとは本能のまま、丈が俺を抱き、俺は丈に抱かれるだけ。
丈と知り合ってから何度も繰り返してきたこの行為には、俺達の愛を育てるという意味がある。
「本当は……後半は……丈が恋しくなって、大変だった。Kaiと優也さんにはあてられっぱなしだったから」
「そうか……ならば、ひとりで弄ったのか、ここ」
丈が唇を首筋に移動させながら、俺の股間を優しく撫で上げた。
「んぁっ……」
ずっと待ち望んでいた……丈の手だ。
少し触れられただけで、腰が大きく跳ねてしまった。
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