重なる月

志生帆 海

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13章

解き放て 15

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 はたして、本当に上手く出来るのだろうか。

 優也さんに渡されたグッズの説明書を読んで、使い方はなんとか理解できたが、どうにも不安だ。

 とにかく少し心を落ち着けようと……ソファを背をもたれに天を仰いだ。すると視界一杯に、手を伸ばせば届きそうな大きな月が飛び込んできた。

 あぁ、そうか……この部屋には天窓があるのか。

 俺と丈がソウルで住んでいた丘の上の家を思い出す。あの家も……大きな窓から、宙から降り注ぐ星と、日ごと形を変えていく月の姿が、こんな風によく見えた。

 丈に抱かれ揺さぶられながら見上げた月は、厳かだった。過去の君たちからのメッセージが届くように、静かに白く輝いていた。

 丈も今頃、北鎌倉で同じように、この月を見上げているのだろうか。

 どんなに離れていても、見上げる月はこの世に一つだ。過去も現在も未来も、全部あの月が見守ってくれている。

 月のお陰で心が落ち着き、呼吸も整ってきたので、深く深呼吸をして覚悟を決めた。

 まずはビニールのラベルを破ってキャップを開けてみた。

 な、何だ……これ? 入口と思われる場所は、透明のローションで潤っていた。そっと自分の屹立を自分の手で摩擦していくと、自然の現象で嵩を増したので……思い切って、つぷりと埋め込んでみた。

 なっ……なんだ。この感覚!

 俺のモノ全体が柔らかい圧力で押し潰れるような不思議な感覚だった。ボトル状の容器は真ん中がひょうたんのように窪んでいて、そこに当たるとブルっと震えるほど気持ちよかった。女性の胎内をイメージしているというが、俺には正直分からない。生身の女性の身体を知らないから。

 う……ん? これって気持ちいいっていうのか。

 じゃあ一体、俺が挿入される場所はどんな感覚なのか、丈に聞いてみたくなった。やっぱり差があるよな。男のあそこと女性の部分では。丈はどっちも経験があるから、いつもどう思っているのか。しかし困ったことに、俺の方は経験不足も災いして何を想像して抜けばいいのか分からなくなってしまった。中断して戸惑っていると、次第に慣れない感触が気持ち悪くなってきた。

 22歳で丈に抱かれてから本当に自慰なんてする暇がない程、いつも抱かれてきた。丈の手によって射精させられていたので、自分でこんな道具を使ってするということの意味すらも分からなくなってしまった。

 駄目だ。こんなんじゃ疑似童貞すら卒業できないだろう。

 悩んでいるうちに酔いが周りクラクラし、そのまま床に身を投げ出すように横になってしまった。

 この部屋もオンドルか……とても温かい。

 これはこっくりこっくりと眠気を誘う温かさだ。

 まずいな、こんな格好のまま寝てしまうなんて絶対に駄目だろう。でも瞼が閉じていく……とにかく早くここに放たないといけないのに。

 焦る気持ちとは裏腹に、どんどんカップの中で萎えていく俺のモノ。

 情けないな。

 すると隣室から突然、声が聞こえて来たので、目が覚めてしまった。

 あれ? 優也さんの声にしては切羽詰まったような上擦った声だ。

 あ……まさか! ええっ! これっって……

 やっぱりここの壁……薄いんだ。何もかも丸聞こえじゃないか。

 あのソウルでのクリスマス。優也さんとKaiに、俺と丈のバスルームでの情事を全部聞かれてしまったがあったが、まさかその逆の事態が起きるなんて。

 ど、どうしよう!


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