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13章
安志&涼編 『僕の決意』13
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下腹部へあっという間に飛び散った激痛で、そのまま無残にもノックアウト。
「うげっ!……ううっ」
この痛みは……っ、まっ、まさかアレをやられたのか! 以前球技大会でボールが俺の急所を直撃した時の痛みと苦しみが蘇ってきた。そうだ、これはまさに地獄だ。スネや足の小指などを打った痛みのような表面的な痛さなんかじゃない! 身体の中から内臓を殴られたような奥から湧き上がってくる激痛だ!
そのままベッドの上で、四つん這いになって悶え苦しんだ。
「……いたた……ううっ……」
「Billy! だっ大丈夫か」
「うっ……ちょっと……動けない」
情けない話だ。190cmもあって体力体格に自信がある俺が、まさか金的をまもとに食らうとは。しかも男相手に無理矢理キスを仕掛けて抵抗されてなんて……情けなさすぎ。何とも……おそまつな結末を迎えた。
涼を侮ってた。そうだ! すっかり忘れていたが、こいつは護身術に長けていた。涼の心配そうな声が遠くに聞こえる程、変な汗がしきりに出てきて意識が遠のきそうになっていた。
「お、おい? 本当に大丈夫か!……まずいな」
心配されればされる程、とほほ……もう、情けない。
取り繕うにも動けないし、涙が出てくるぜ。
****
Billyの顔を近づいて来て驚いたのもつかの間、あっという間に僕は唇を奪われていた。
(え……なんで? 僕はLisaじゃないのに……!?)
その意味を、すぐに理解した。
このキスは……友達としてのような軽いものではない。濃厚で執拗で、僕の手首を掴んで壁に押し付けるという自由を奪った上で強引にされているものだ。
どうして信頼していたBillyがこんなことを……?
頭がついていかなくて狼狽して、反撃するのが遅くなってしまった。
「うっ……んっ……」
その間にもディープなキスをされ続けてしまった。息継ぎが出来ないほど強く、角度を変え何度も何度も吸われてしまう。更に舌が中に入ろうと、僕の唇をこじ開けようとしてくる。
駄目だっ!
こんなことは絶対に駄目だ!
僕には安志さんがいる!
そう思った瞬間、躰が本能的に大きく動いた。幼い頃から培ってきた護身術で、自由に動いた膝を使って、Billyの股間をズンっと力いっぱい突き飛ばした。
うまく入った!っと思った瞬間、Billyはその場で崩れ落ちて、そのまま四つん這いの姿勢で固まってしまった。
あれからずっと動けないで、呻いている。
やばいかも……まさか睾丸に傷つけてないよな?
そんなことになったらLisaに殺される。変な心配までこみ上げてくる始末だ。
あぁ……もうお前があんなキスをするからだぞ、と半ば呆れ気味だが、やっぱり心配になり、絞ったタオルに保冷剤を包んで、蹲っているBillyをゴロンっと仰向けにした。そしてズボンのベルトを外し、急所の状態を確かめようと、ファスナーに手をかけた。
そこでBillyが正気に戻った。
「わっ! よっよせって。そんなとこ見るなぁ!」
まるでレイプされるような悲壮な顔で僕のこと見るんだから、呆れてしまう。おいおい……これじゃ立場が逆だろ? まぁ……でも悔しいけど、憎めない奴!
「何いってんだよ。男同士だろ。ちゃんと見せないと駄目だ。さっき直撃しただろう? 睾丸になにかあったらまずいから、見せろ。こういう時は冷やすのが一番だ。ほら恥ずかしがらないで!」
「ううっ……」
真っ赤になって恥ずかしがるBillyの様子が、なんだか失礼だけど可愛くて笑ってしまった。
「あ――かっこ悪ぃ……ごめんな。泣いている涼を励まそうとしたら、つい変なスイッチはいっちまってさ」
「……どこのスイッチを押したんだか。あぁいうキスは、お前はLisaとすべきだろ」
「……うん、悪かった。でも……結構マジだった」
Billyは股間にタオルを当てながら、真面目な声でそう言った。
「うん……ごめん。マジなのは伝わった。でも僕には今、付き合っている人がいる。その人を真剣に好きだから……無理だ」
「そっか……本当は泣いている顔見て分かったのに、悪かったな」
「うん……」
ちょっとだけ気まずい空間。しかし未だに憐れに横たわったままの病人のようなBillyの姿を見ると、やっぱり笑ってしまった。
「Ryo……そこで笑うな!」
「ごめんっ、ごめん」
「なぁ……Ryoの好きな奴ってどんな男?」
「え……なんで……男って……」
「あ、なんとなく。俺達ずっとハイスクールで一緒だったろ。Ryoのことずっと見ていたから分かるんだ。ガールフレンドとはあまり長続きしないし俺みたいにエッチなことしないしさ、なんかお前いつも退屈そうだったじゃん。でも今は違う。そんなに綺麗にRyoのこと輝かせている相手は、きっと男なんだろう」
「……参ったな」
確かにその通りだ。ガールフレンドはいた。でも長続きしなかったのも事実だ。男の友人と遊ぶ方が楽しかったし……何故かしっくり来なくて……先に進めていなかった。
さっきBillyだって真剣に思いを伝えてくれたんだ。もちろん強引ないきなりのキスは余計だけど、あのキスの最中、Billyの僕に対する思いが伝わっては来た。
僕は安志さんが好きだ。だからその想いに応じることは出来ない。でも断るのなら断るで、ちゃんと誠意を見せたいと思った。
それにあんなことをされても、こんな姿で凹んでいるBillyを見たら許せてしまうなんて……やっぱりBillyは僕の大事な友人なんだ。
「うん、認めるよ。僕の恋人は男性だ」
「やっぱりそっか。あぁ……Ryoがそいつと出逢う前に、ハイスクール時代にもっとプッシュすればよかったよ。悔しいな」
んっ? それは高校時代から僕のことそういう眼で見てたってこと?とツッコミたくなったが、いつもだったらもっと嫌悪感の湧く発言なのに……なんだかBillyだと憎めないのは何故だろう。
もしかして僕の中でもBillyのことを好きな気持ちが、過去に少しはあったのかな……なんて思ってしまったが、それは口に出さないようにした。だってもう僕の頭の中は安志さんで一杯だから。寸分の隙間もないほどに。
「そっか、うん……ありがとう」
「あーやっぱ可愛いな。Ryoのそういう素直で真っすぐなところが好きだぜっと、俺、また……ごめん」
「もうよせ。この話はここで終わり。さぁもう寝よう!」
「うげっ!……ううっ」
この痛みは……っ、まっ、まさかアレをやられたのか! 以前球技大会でボールが俺の急所を直撃した時の痛みと苦しみが蘇ってきた。そうだ、これはまさに地獄だ。スネや足の小指などを打った痛みのような表面的な痛さなんかじゃない! 身体の中から内臓を殴られたような奥から湧き上がってくる激痛だ!
そのままベッドの上で、四つん這いになって悶え苦しんだ。
「……いたた……ううっ……」
「Billy! だっ大丈夫か」
「うっ……ちょっと……動けない」
情けない話だ。190cmもあって体力体格に自信がある俺が、まさか金的をまもとに食らうとは。しかも男相手に無理矢理キスを仕掛けて抵抗されてなんて……情けなさすぎ。何とも……おそまつな結末を迎えた。
涼を侮ってた。そうだ! すっかり忘れていたが、こいつは護身術に長けていた。涼の心配そうな声が遠くに聞こえる程、変な汗がしきりに出てきて意識が遠のきそうになっていた。
「お、おい? 本当に大丈夫か!……まずいな」
心配されればされる程、とほほ……もう、情けない。
取り繕うにも動けないし、涙が出てくるぜ。
****
Billyの顔を近づいて来て驚いたのもつかの間、あっという間に僕は唇を奪われていた。
(え……なんで? 僕はLisaじゃないのに……!?)
その意味を、すぐに理解した。
このキスは……友達としてのような軽いものではない。濃厚で執拗で、僕の手首を掴んで壁に押し付けるという自由を奪った上で強引にされているものだ。
どうして信頼していたBillyがこんなことを……?
頭がついていかなくて狼狽して、反撃するのが遅くなってしまった。
「うっ……んっ……」
その間にもディープなキスをされ続けてしまった。息継ぎが出来ないほど強く、角度を変え何度も何度も吸われてしまう。更に舌が中に入ろうと、僕の唇をこじ開けようとしてくる。
駄目だっ!
こんなことは絶対に駄目だ!
僕には安志さんがいる!
そう思った瞬間、躰が本能的に大きく動いた。幼い頃から培ってきた護身術で、自由に動いた膝を使って、Billyの股間をズンっと力いっぱい突き飛ばした。
うまく入った!っと思った瞬間、Billyはその場で崩れ落ちて、そのまま四つん這いの姿勢で固まってしまった。
あれからずっと動けないで、呻いている。
やばいかも……まさか睾丸に傷つけてないよな?
そんなことになったらLisaに殺される。変な心配までこみ上げてくる始末だ。
あぁ……もうお前があんなキスをするからだぞ、と半ば呆れ気味だが、やっぱり心配になり、絞ったタオルに保冷剤を包んで、蹲っているBillyをゴロンっと仰向けにした。そしてズボンのベルトを外し、急所の状態を確かめようと、ファスナーに手をかけた。
そこでBillyが正気に戻った。
「わっ! よっよせって。そんなとこ見るなぁ!」
まるでレイプされるような悲壮な顔で僕のこと見るんだから、呆れてしまう。おいおい……これじゃ立場が逆だろ? まぁ……でも悔しいけど、憎めない奴!
「何いってんだよ。男同士だろ。ちゃんと見せないと駄目だ。さっき直撃しただろう? 睾丸になにかあったらまずいから、見せろ。こういう時は冷やすのが一番だ。ほら恥ずかしがらないで!」
「ううっ……」
真っ赤になって恥ずかしがるBillyの様子が、なんだか失礼だけど可愛くて笑ってしまった。
「あ――かっこ悪ぃ……ごめんな。泣いている涼を励まそうとしたら、つい変なスイッチはいっちまってさ」
「……どこのスイッチを押したんだか。あぁいうキスは、お前はLisaとすべきだろ」
「……うん、悪かった。でも……結構マジだった」
Billyは股間にタオルを当てながら、真面目な声でそう言った。
「うん……ごめん。マジなのは伝わった。でも僕には今、付き合っている人がいる。その人を真剣に好きだから……無理だ」
「そっか……本当は泣いている顔見て分かったのに、悪かったな」
「うん……」
ちょっとだけ気まずい空間。しかし未だに憐れに横たわったままの病人のようなBillyの姿を見ると、やっぱり笑ってしまった。
「Ryo……そこで笑うな!」
「ごめんっ、ごめん」
「なぁ……Ryoの好きな奴ってどんな男?」
「え……なんで……男って……」
「あ、なんとなく。俺達ずっとハイスクールで一緒だったろ。Ryoのことずっと見ていたから分かるんだ。ガールフレンドとはあまり長続きしないし俺みたいにエッチなことしないしさ、なんかお前いつも退屈そうだったじゃん。でも今は違う。そんなに綺麗にRyoのこと輝かせている相手は、きっと男なんだろう」
「……参ったな」
確かにその通りだ。ガールフレンドはいた。でも長続きしなかったのも事実だ。男の友人と遊ぶ方が楽しかったし……何故かしっくり来なくて……先に進めていなかった。
さっきBillyだって真剣に思いを伝えてくれたんだ。もちろん強引ないきなりのキスは余計だけど、あのキスの最中、Billyの僕に対する思いが伝わっては来た。
僕は安志さんが好きだ。だからその想いに応じることは出来ない。でも断るのなら断るで、ちゃんと誠意を見せたいと思った。
それにあんなことをされても、こんな姿で凹んでいるBillyを見たら許せてしまうなんて……やっぱりBillyは僕の大事な友人なんだ。
「うん、認めるよ。僕の恋人は男性だ」
「やっぱりそっか。あぁ……Ryoがそいつと出逢う前に、ハイスクール時代にもっとプッシュすればよかったよ。悔しいな」
んっ? それは高校時代から僕のことそういう眼で見てたってこと?とツッコミたくなったが、いつもだったらもっと嫌悪感の湧く発言なのに……なんだかBillyだと憎めないのは何故だろう。
もしかして僕の中でもBillyのことを好きな気持ちが、過去に少しはあったのかな……なんて思ってしまったが、それは口に出さないようにした。だってもう僕の頭の中は安志さんで一杯だから。寸分の隙間もないほどに。
「そっか、うん……ありがとう」
「あーやっぱ可愛いな。Ryoのそういう素直で真っすぐなところが好きだぜっと、俺、また……ごめん」
「もうよせ。この話はここで終わり。さぁもう寝よう!」
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