重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
997 / 1,657
12章

番外編SSのおまけ 安志×涼 「そして二人は…」1

しおりを挟む
「涼の手、冷え切っているな」
「安志さんこそ、すごく冷たい」

 お互いの手を絡め合って、初めて気づく体温の低さ。安志さん……随分長い時間、あのバス停にいたんだな。

 あの広告の僕は女の子と見つめ合って、まるで恋人同士のように微笑んでいた。時計ブランドのクリスマスギフトの宣伝広告だったからしょうがないけれども、安志さんに見られてしまったのは恥ずかしいし、後ろめたい気分だった。

 モデルという仕事を選んだ以上、この先も付き纏う、通る道だ。特に僕への仕事のオファーはティーン雑誌の甘いカップル役が圧倒的に多いから。

だからなのか……時々「僕の恋人は安志さんだ」と大声で叫びたくなる時が、たまにある。こんなモヤモヤとした葛藤はもっと成長すれば収まるのだろうか。

「涼どうした? ぼんやりして……ほら、靴を脱いで」
「あっ、うん」

 手を引いて連れて行かれたのは、脱衣所だった。

「ほらっ脱いで。先に風呂入るぞ」
「えっ」
「なんだよ。俺も躰冷えて暖まりたいし、涼も撮影で汗をかいただろ? んっ? 違うのか」
「そ、それは……そうだけど、でも」
「まだ恥ずかしい? 」
「だって明るいから」





 嫌だって言ったのに、僕は今……湯船の中で安志さんに背後からすっぽりと抱かれている。

 白く霞む湯気の中でも、お互いの肌は丸見えだ。なんていうかリアル過ぎて、このシチュエーションには慣れないよ。

「涼。いつまで不貞腐れているんだ」
「だって、一人で入りたいって言ったのに」
「時間短縮だよ。涼が来てくれるって分かっていたらビールなんて飲まなかったのにな。帰り車で送ってやれないのが心配だ」
「あ……そっか電車はもうないね。でも大丈夫、大通りでタクシーに乗るから」
「ごめんな。タクシー乗る所までは送るから」
「んっ……ありがとう」

 それより背中に安志さんの逞しい胸板を感じ、ドキドキが止まらないん。

 安志さんは何食わぬ顔で、僕の腰を抱いているが、その手つきがエロくて……。

「涼の肌って、本当にすべすべだな。この腰のラインがいいんだよ」
「安志さんの手つき、ちょっとオジサン臭いし……それに」

 感じちゃう。その手つきはまずい!
 もう……下半身が一層じんじんしてきて、張り詰めて痛い位だった。

「オジサンって言うな。でも今日はここに痕つけれないんだな。この後まだ撮影なんだろう?」
「……うん」
「そっか、それにしてもさっきは寒かったよな。まさかコートの下が半袖のTシャツだなんて思わなかったよ」
「あっ……春夏物の撮影だったから衣装のままだったんだ。本当は仮眠部屋で着替えるはずだったんだ」
「本当に着の身着のままで来てくれたんだな。凄く嬉しいよ」

 安志さんが心底嬉しそうに僕の耳元で囁くので、もう我慢できない。

「安志さんの手……貸して」
「どうした? 」

 腰を彷徨っていた手を、僕の股間へと導いてしまった。自分からこんな誘うような真似をするなんて、驚いてしまう。

 でも今すぐに触れて欲しかった。僕がこんなに求めていること知って欲しかった。

「涼、もうこんなになってくれたのか。まだ何もしていないのに」
「ん……だって安志さんの躰がずっと肌に触れているから、僕はそれだけでもう」
「嬉しいよ。涼、ここで? それともベッドで」
「ベッドで……ちゃんとがいい」

 今日は3週間ぶりに躰を繋げるのだから、きちんと準備しないとキツクなっているような気がした。

「分かった。でも先にここで少し解しておこう」
「えっ」

 腰をお湯の上へと一気に抱えられたかと思うと、あっという間にボディソープの滑りを利用した安志さんの指がするっと入って来た。

「んっあっ」

 びくびくっと躰が震える。僕は安志さんしか知らないから、この反応で合っているのか分からないけれども、指を挿れられるとゾクゾクしながらも期待で満ちていく感じがする。

「痛くないか。やっぱり久しぶりだから少し硬くなってしまったな。よく解さないとな。ここであってる? 気持ちいいか」

 的確に僕の弱いところを知っている安志さんが、ぐりぐりと指の腹で内部を刺激してくる。

「あっあ……」

 僕は湯船の淵に手をついたまま……コクコクっと頷くことしか出来なくなっていた。




しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

帰宅

papiko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...