986 / 1,657
12章
僕の光 10
しおりを挟む
病院の個室シャワールーム。
とても狭い空間で、僕は今……流に真っ裸にされて、背後から抱きしめられている。
お互いの躰に温かいシャワーの水があたっては、壁へと跳ねていく様子をぼんやりと見つめていた。
流はずっと無言だった。
何も話さない代わりに、僕の躰との間に少しの隙間も出来ないようにと、ぴったりくっついていた。
そんな流の手の平に、僕は手をそっと重ねた。
「流まで脱ぐことなかったのに……」
「……翠と少しも離れていたくない」
その一言に、僕は流にどんなに心配をかけたのかを思い知った。
「流……ごめん」
そう告げると、流が僕の躰の向きを反転させ、唇に指先をあててきた。
あ……こんな表情をしていたのか。とても、辛そうだ。
「翠、もう謝るのは、なしだ」
「だが僕が軽はずみな行動をしたから、お前に心配を掛けてしまった。全部僕のせいだ」
「ふぅ……それが翠の悪い癖だ。いつだって全部ひとりで被るな。さっき薙にも言われただろう。さぁ洗ってやるから、そのまま立っていろ」
「……分かった」
流がボディソープをよく泡立てたスポンジで、僕の躰を丁寧に洗い出した。足の爪先から耳の後ろまで、本当に隈なくすべての箇所を丁寧に優しく洗ってくれた。
本当はこんな風に……誰かに宝物のように大切にされるのには慣れていない。
いつだって長兄として、寺の跡取りとして、夫として、住職として、凛としていなくてはいけないと誓った心が、流の前だと成り立たない。
でもそれが……今の僕には心地よい。
僕も甘えていい。誰かに縋って助けを求めても許される。
それを流に夏に抱かれてから知ってしまった。そんな風に思えるのは、僕が流を信頼し愛しているからだということも知っている。
僕の前で跪く流を見下ろしていると、あの宮崎での日々を思い出してしまった。
「ふっ……流はあの時……鼻血を出したな」
「おいっ翠、せっかくのいいムードを台無しにするのか」
「ふふっ、あの時のお前の顔……困っていたな」
「翠、いい加減にしないと、こうするぞ」
突然流が僕の下半身の……すでに緩やかな兆しを見せていたモノを、パクっと口に含んだので、驚いてしまった。
「おっおい」
「もう全て洗ったから、あとは俺が必要だろう。俺で消毒してやるから」
「あ……」
狭いシャワールームの壁に押し付けられ、流の髪の毛に触れながら、僕は流に身体を委ねていく。
「うん……お前が欲しい」
「抱くぞ……その前に一度ここで」
下半身を動けないようにホールドされ、流の舌が陰茎を辿り、やがて亀頭に達する。くびれた部分の先はとても敏感になってしまった部分だ。流もそれを熟知しているから、舌先でそこを執拗に突いてくる。
「んっ……あっ……」
「我慢するな」
「だが……僕ばかり……」
「まずは翠からだ、さぁ一度出せ」
ジュっと音が出るほどの勢いで吸引されたかと思えば、羽毛のように柔らかいタッチで舐められて、あっという間に快楽の波にのまれていく。
「翠……今は何も考えるな。快楽に身を任せていればいい」
確かにそうだ。もう何も考えられないほどの圧倒的な気持ち良さに、もっていかれてしまう。
「あぁ……もうっ! 」
「ん、そのままイケよ」
脳内に閃光が走り、ふっと下半身の力が抜けると共に、躰から生暖かい液体がどろりと放出される感覚を得た。
「あっ!」
流がそれをゴクリと思いっきり嚥下してしまったので、驚いた。
「駄目だっ! 流……僕のなんて汚いっ」
「馬鹿だな、汚いなんて。翠は俺のものだ」
「流……」
流の覚悟が伝わってくる。
僕にとっても同じだ。
流は僕のものなのだから。
「翠、ベッドで抱くぞ」
「でも……」
「いいよな? 」
「う……ん」
ここは病室で僕は入院中で……そんなことが一瞬過ったが、快楽の波には逆らえそうもない。それに僕が流を欲しかった。僕が流に抱いてもらいたかった。
この身の不浄を……早く一刻でも早く、流で塗り替えて欲しかった。
「僕は……もうこれで克哉に追われなくて済むのか……ずっと怖かった。ずっと何かに狙われているような恐怖に包まれていた」
気が付くと、そう口に出していた。
やっと流に吐けた僕の弱音だった。
「もう大丈夫だ。アイツはもういない。警察に捕まったよ」
そんな僕を庇うように、流が胸にグイっと力強く引き寄せてくれた。
厚みのある胸板の奥から、規則正しい心臓の音が聞こえてくる。
僕も流も……共に生きている証だ。
「うっ……」
涙が突然零れる。
これは……遠い昔の僕が、ずっとずっと……聴きたかった命の音。
とても狭い空間で、僕は今……流に真っ裸にされて、背後から抱きしめられている。
お互いの躰に温かいシャワーの水があたっては、壁へと跳ねていく様子をぼんやりと見つめていた。
流はずっと無言だった。
何も話さない代わりに、僕の躰との間に少しの隙間も出来ないようにと、ぴったりくっついていた。
そんな流の手の平に、僕は手をそっと重ねた。
「流まで脱ぐことなかったのに……」
「……翠と少しも離れていたくない」
その一言に、僕は流にどんなに心配をかけたのかを思い知った。
「流……ごめん」
そう告げると、流が僕の躰の向きを反転させ、唇に指先をあててきた。
あ……こんな表情をしていたのか。とても、辛そうだ。
「翠、もう謝るのは、なしだ」
「だが僕が軽はずみな行動をしたから、お前に心配を掛けてしまった。全部僕のせいだ」
「ふぅ……それが翠の悪い癖だ。いつだって全部ひとりで被るな。さっき薙にも言われただろう。さぁ洗ってやるから、そのまま立っていろ」
「……分かった」
流がボディソープをよく泡立てたスポンジで、僕の躰を丁寧に洗い出した。足の爪先から耳の後ろまで、本当に隈なくすべての箇所を丁寧に優しく洗ってくれた。
本当はこんな風に……誰かに宝物のように大切にされるのには慣れていない。
いつだって長兄として、寺の跡取りとして、夫として、住職として、凛としていなくてはいけないと誓った心が、流の前だと成り立たない。
でもそれが……今の僕には心地よい。
僕も甘えていい。誰かに縋って助けを求めても許される。
それを流に夏に抱かれてから知ってしまった。そんな風に思えるのは、僕が流を信頼し愛しているからだということも知っている。
僕の前で跪く流を見下ろしていると、あの宮崎での日々を思い出してしまった。
「ふっ……流はあの時……鼻血を出したな」
「おいっ翠、せっかくのいいムードを台無しにするのか」
「ふふっ、あの時のお前の顔……困っていたな」
「翠、いい加減にしないと、こうするぞ」
突然流が僕の下半身の……すでに緩やかな兆しを見せていたモノを、パクっと口に含んだので、驚いてしまった。
「おっおい」
「もう全て洗ったから、あとは俺が必要だろう。俺で消毒してやるから」
「あ……」
狭いシャワールームの壁に押し付けられ、流の髪の毛に触れながら、僕は流に身体を委ねていく。
「うん……お前が欲しい」
「抱くぞ……その前に一度ここで」
下半身を動けないようにホールドされ、流の舌が陰茎を辿り、やがて亀頭に達する。くびれた部分の先はとても敏感になってしまった部分だ。流もそれを熟知しているから、舌先でそこを執拗に突いてくる。
「んっ……あっ……」
「我慢するな」
「だが……僕ばかり……」
「まずは翠からだ、さぁ一度出せ」
ジュっと音が出るほどの勢いで吸引されたかと思えば、羽毛のように柔らかいタッチで舐められて、あっという間に快楽の波にのまれていく。
「翠……今は何も考えるな。快楽に身を任せていればいい」
確かにそうだ。もう何も考えられないほどの圧倒的な気持ち良さに、もっていかれてしまう。
「あぁ……もうっ! 」
「ん、そのままイケよ」
脳内に閃光が走り、ふっと下半身の力が抜けると共に、躰から生暖かい液体がどろりと放出される感覚を得た。
「あっ!」
流がそれをゴクリと思いっきり嚥下してしまったので、驚いた。
「駄目だっ! 流……僕のなんて汚いっ」
「馬鹿だな、汚いなんて。翠は俺のものだ」
「流……」
流の覚悟が伝わってくる。
僕にとっても同じだ。
流は僕のものなのだから。
「翠、ベッドで抱くぞ」
「でも……」
「いいよな? 」
「う……ん」
ここは病室で僕は入院中で……そんなことが一瞬過ったが、快楽の波には逆らえそうもない。それに僕が流を欲しかった。僕が流に抱いてもらいたかった。
この身の不浄を……早く一刻でも早く、流で塗り替えて欲しかった。
「僕は……もうこれで克哉に追われなくて済むのか……ずっと怖かった。ずっと何かに狙われているような恐怖に包まれていた」
気が付くと、そう口に出していた。
やっと流に吐けた僕の弱音だった。
「もう大丈夫だ。アイツはもういない。警察に捕まったよ」
そんな僕を庇うように、流が胸にグイっと力強く引き寄せてくれた。
厚みのある胸板の奥から、規則正しい心臓の音が聞こえてくる。
僕も流も……共に生きている証だ。
「うっ……」
涙が突然零れる。
これは……遠い昔の僕が、ずっとずっと……聴きたかった命の音。
10
お気に入りに追加
446
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる