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11章
夏休み番外編『SUMMER VACATION 2nd』2
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濡れ縁で流さんと翠さんの家は繋がっていて、中庭からも翠さんの浴室に直接入れるようになっている。便利な造りだよな。まるで今日みたいに皆でプール遊びをすることを前提にしたようだ。
ところが、茂みの向こうのガラス越しに肌色が見えた。
なんだ? まだ皆シャワー浴びてるのか。随分と時間をかけてるな。
じっと目を凝らすと、とんでもない光景が浮かび上がった。
「はっ?」
「ええっ!」
立派な体格の男三人が直立不動で立っているじゃないか!
「ちょっ!涼っストップ!」
思わず涼の手首を掴んで、茂みに隠れてしまった。
「どうしたの? 洋兄さん?」
「しっ、あれ……見て」
「わっ何してるの? 皆で並んで」
「……うーん、謎だ」
皆、股間……丸出しじゃないか。
おいっ丈。何してんだよ。
まったく、恥ずかしい。
あまりに怪しげな光景だったので、茂みに隠れてそのまま様子を見守ることにした。
すると程なくして三人が並んでいる前に、腰に白いタオルを巻いた翠さんがやってきた。
何やら妙に神妙な面持ちだったので、叱られるのかと心配したが……次の瞬間、その手にメジャーが光った。
「えっ、なんでメジャーなんて持って」
「まさか!」
思わず涼と顔を見合せてしまった。
次に翠さんの手が華麗にメジャーを引き出し、まずは流さんの股間に近づいた。
縦だ!
「長さ?」
「うっうん」
翠さんはそれをご丁寧に紙に記録しつつ、次はメジャーを横にあてた。
「今度は、ふっ……太さ?」
俺たちも、ちょっとへんなテンションだ。
「つまり……『大きさ比べ』!」
「『大きさ比べ』ってやつ!」
涼と顔を声が重なって、思わず笑ってしまった。
俺はこういう悪ふざけは敢えて避けて通ってきたが、涼の方は意外とあっけらかんしていた。
「ははっ! 小さい頃やったことあるけどさ、まさかあの歳でやる?」
「涼はやったことあるのか」
「まぁ~キャンプとかで、誰かが定規を持って来て馬鹿騒ぎしたりはあったかな」
「だ……大丈夫だった?」
「洋兄さんのいいつけ守って強い男だったしね。まぁ気を許した親友とだよ」
「そっそうか」
「結果がすごく気になるね」
三人の結果もそうだが……
涼の方がずっと俺よりいろんな経験をしていることに、軽くショックを受けた。
「涼……その……もしかして女の子と……キスとか……した?」
「え? まぁアメリカだからね。キスくらいは日常茶飯事だよ」
「そっそうか…」
俺はなかった。
すべて避けて通ってきた道だった。
ちょっとだけ苦い昔の思い出に感傷的になって俯いているといると、涼が興奮した声をあげた。
「やった! 安志さんすごい! やっぱりカッコいいな」
「ん? 何が」
「あー洋兄さんは、見ちゃだめだ!」
「なんだよ? くすぐったい」
涼が手で俺の目を塞いで見せないようにしたので、余計に気になってしまう。
じゃれ合う子犬のように、俺たちは芝生に転がって笑いあった。
「こらっ涼!」
なんとか涼の手を振りほどき、起き上がってガラス窓の向こうを見ると、流さんと安志さんが勝ち誇ったように拳を挙げていた。
丈は……
姿を探すと、こめかみに手をあて、苦悩した表情を浮かべていた。
その表情に胸がキュンとなった。
「……あのね、丈さん、負けちゃったみたいだ」
涼が遠慮がちに教えてくれた。
なんだか、あの丈が……
いつも冷静沈着な丈がおかしい。
暑さのせいか。
夏休みだからなのか。
さっきから行動が変だ。
スーツのままプールに飛び来んだり、プールの中で自ら裸になったり、股間を晒すように立ったりと……唖然とするほどだった。
で……結果、負けちゃったのか。
あんな姿で採寸されるだけでも、相当なプレッシャーだったんじゃないか。
でも丈……
大きさなんて関係ないよ。
そんなにがっかりするな。
相性だよ。
相性が大事なんだ。
俺の躰はさ、丈を受け入れるように出来ているんだよ。
だから……早く安心させてやりたい。
お前の濡れたスーツ姿にゾクッとしたよ。
濡れたワイシャツが躰に張り付いて……そこから一気にあの裸身を晒すなんて、想定外だった。
珍しい丈の行動と表情に、俺はすっかり虜になってしまった。
丈を、もう一歩深く知ることが出来た!
「洋兄さん、僕たち幸せだね。こんな光景……笑っちゃうけど、笑い合えるっていいね。さてと安志さんのアレ……大変そうだな」
涼が独り言のように呟くのが、可笑しくて。
今晩はそれぞれ皆、大変な目に遭いそうだと思いつつも、好きなように抱かれるのは悪くないとも思ってしまう。
丈は俺に甘いが、俺も相当丈に甘いな。
違うか。
俺と涼は、肩を並べてシャワールームへと向かった。
いい夏だ。
いい夏休みがやってきた。
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