重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
886 / 1,657
11章

解けていく 25

しおりを挟む
「兄さん……」
「流っ、その呼び方はよせ」

 椅子に座る流の脚に跨ったまま、開かれた素肌。

 乳首を執拗になめられて、ゾクゾクと身体が震えた。

「兄さん……」
「いやだ」

 その名は禁忌だ。

 兄なのに弟にこんなことをされて、恥ずかしい。

 お願いだ……せめて翠と……翠と呼んで欲しい。
 そう願うと、涙がすうっと零れ落ちた。

「翠……」

 その涙が僕の身体を離れる前に、流の舌が追いかけて吸い取ってくれた。

「ごめんよ。恥じらう翠が可愛くて……たまらないんだ。こんなに一人で酔って、誘うような顔をして帰宅するから妬いたんだ」

「馬鹿……僕は可愛いなんて歳じゃないし……酔ってなんかいない。これでも控えた」

「控えた? なぜ」
「それは……お前が待っているから」
「また可愛いことを。もうダメだ。我慢できない」

 いきなり椅子から布団にドサッと押し倒された。

 景色がぐるんと変わって、天井を見上げれば流と目があった。

 そのままベルトを外され、下着ごと一気に下へと脱がされてしまう。

 仰向けの状態で、流の手が僕の太股を掴んで両脚を広げていく。そして一度大きく舌舐めずりしてから、一気に僕のものをくわえ込んだ。

「うまそうだ」

 僕の腰をしっかりと両手で固定して、吸い上げるように舐め上げてくる。

「あっ……」

 飢えて貪るような激しさに、何もかも持っていかれる。

「はっ……あぁ……」

 流は舌と唇を器用に使い分け、手では袋を揉み解していく。

「だめ……だ……耐えられない……離せ!」

 気が狂いそうになるほどの快楽の波。
 弟にされていると思うと、禁断の炎が燃え上がる。

「いや……だ」
「翠、出せよ。味わいたい」
「だめだ!」

 必死の抵抗も流を煽るだけ。

 それでも彼の口の中に発射することが躊躇われて、逃げを打つ。

 そんな僕の仕草は、流を煽るだけだというのに。

 執拗に吸い上げられ、やわやわと揉まれれば、あっという間に堕ちてしまう。

「あぁっ!もうっ!」

 出してしまった。

 とうとう……

 僕の胸は大きく上下する。

 恥ずかしさを噛みしめ、僕は目を閉じた。

「翠の味だ」

 苦い液を飲み込んだばかりの流の口から洩れる言葉が、卑猥に闇に響く。


****

 翠の澄んだ瞳が、茫然とした中でも輝きを失わずに俺を見上げている。

 翠らしい凛とした楚々とした眼差しが愛おしくて……愛おしくて溜まらない。

 まだ呼吸の整わない翠の両膝を曲げさせ押し上げていく。

 そして左右に開かせて、中心を露わにさせた。

 じっと俺はそそり立つものを見つめる。
 
 そこを。

 男同士だ。

 兄と弟だ。

 そのシンボルともいえるもの。

 もう何もかも乗り越える覚悟はできている。

 遠い昔の悲恋。

 再び兄と弟として生まれてからの険しい道のり。

 すべて意味があって今がある。

 ここにいる。

 ここで抱き合っている。

 ここに来て、昨夜あの廃屋の山荘で抱き合って、俺たちは真に結ばれた。

 翠の腰を抱き上げるように持ち上げ、俺の下半身と密着させ、そのまま深く貫いていく。

「りゅ……う」

 翠の……いつになく甘えた声が脳手に響き、はっとした。

 くらくらと眩暈がする。

「ひっ、あっ……あ!」

 翠が感じて……俺の動きに合わせて身体を揺すっている。

 もっと深く!

 腰を深く抱き上げて、最奥を探る。

「りゅう……もうだめ……もう……いい…気持ちいいから……」

 翠が俺の元まで堕ちてきた。

 翠をきつく抱きしめると、背が弓なりにしなった。

「あっ──!」

 翠が弾けた瞬間に、きゅうっとそこが閉まったので俺もぶるっと震えながら迸った。

 そのまま乱れたシーツの上で、挿入したまま抱き合った。

「……翠の中にいる」
「……流を感じる」

「熱いな……ひとつに溶けそうだ」
「溶けてくれ」

 終わりじゃない。

 俺と翠の始まりの抱擁を交わし、口づけを交わし、再び行為に及んでいく。

 何度も何度も、翠を抱く。

 俺のオアシス。

 ずっと飢えていた。

 翠は惜しまないで、与えてくれる。

 何度も何度も……俺にすべてを。

 ずっと憧れ続け一時は諦めて手放した兄のこの姿、この声。

 俺のものになった。

 やっと手に入れた。

 心の底からそう思えたのは、昨夜何重にも絡まっていた糸が解けたからだ。

 きっと──
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
────妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?

処理中です...