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11章
初心をもって 4
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間もなく京都駅に着く。
「翠さん……翠さん起きてくださいよ」
「あ……もう着くの?」
「えぇ」
結局、静岡から翠さんはずっと爆睡していた。
よほど寝不足だったのか……らしくない姿に思わず苦笑してしまう。
しかし寝起きの翠さんって、壮絶色っぽいな。
危うい。脆い……そんな言葉が似合う人だ。
俺が月影寺に来た当初と、翠さんの表情は明らかに変化している。
どうやら無防備な時ほど色濃く出てしまうようだ。
これじゃあ……流さんも心配になるよな。
「洋くん? さぁ行くよ」
「あっはい」
どうやらいつもの翠さんのスイッチが入ったらしい。翠さんは流さんの前では頼りない雰囲気だが、一人の時は違う。
小さい頃から修行を積んだ身なんだなと、つくづく思うよ。
しっかり立っている。
そんな姿が俺にとって眩しい存在で、憧れる。
「まずはどこへ行くんですか」
「あぁ迎えが来ているはずだ。付いて来て」
新幹線の改札を出ると翠さんは勝手知ったるかの如く、すいすいと人混みを避け進んでいく。俺は京都は中学の修学旅行以来だ。あまりいい思い出もないし、記憶も定かではない。
「わっ翠さんちょっと待ってください!」
仕事道具のノートパソコンの入った重たい鞄を人にぶつけるわけにもいかず、翠さんを追っていく。
「翠!」
威勢のよい声に顔をあげると、袈裟を着た背が高くごっつい男性が立っていた。
んんっ? 誰だろう。
翠さんも満面の笑みを浮かべているし……
「道昭《みちあき》!」
「はは、お前はまたその名前を。今は道昭《どうしょう》だ」
「あぁごめん。わざわざ悪いな。自ら迎えに来てくれるなんて」
眼の前で交わされる会話に、この袈裟姿の男性が俺たちを迎えに来てくれたことが理解できた。俺がぽかんとしているのに、二人がようやく気が付いたようだ。
「翠の連れか、この子」
「あぁ……僕の弟だよ」
「へぇお前何人兄弟いるんだ? でも翠の弟だけあって美人さんだ!」
じろじろ見られてきまりが悪いが嫌な視線ではない。心のゆったりとした人のようで、翠さんが人懐っこい笑顔を浮かべているのを見ても、信頼している間だということが分かった。
「うん、洋と言うんだ。洋くん、彼は僕の大学時代の友人で、京都の右京区にある風空寺というお寺の息子さん」
「あっ……あの、はじめまして!」
「おう。よろしくな。翠の弟さん!さぁ行こう。それにしても本当にうちの宿坊でいいのか」
「あぁ、久しぶりに泊まりたくなった」
****
車で道昭さんのご実家の寺へとやってきた。
沙羅双樹の木と竹藪に囲まれた大きな寺庭。端正に整えられた庭は、鎌倉の月影寺のような自然の息吹のままではなく、端正に整えられていた。
「この部屋でいいか」
「うん、あぁ懐かしいな。あれは学生時代か、夏休みに帰省するお前について来たのは」
「あぁそうだな。翠はこの部屋が気に入って十日間も居座ったな」
「そうだったかな」
朗らかに笑い合う二人にほっとし、本当に居心地がよい人だと思った。書院造りの八畳ほどの客室で、窓の外には枯山水の庭が見えた。
「気にいったか」
「当時と何も変わらないな」
「そうか、庭には拘っている。お前のところの庭はだいぶ草深いからな」
「はは、酷いな。今は少しはましになったよ」
「そうか、何年か前に寄った時は、まだすごかったぞ」
「今は流が丹精を込めて手入れしてくれているよ」
「あぁ。あいつ元気か」
「あぁ、留守を頼んで来た」
「そうか、頼りになるな」
「あぁそうだよ」
どうやらこの道昭さんは月影寺にも来たことがあるらしい。まだまだ俺の知らないことだらけだ。
この二日間で、正直どれだけ夕凪さんの足跡が掴めるのか分からないが、出来る限りのことはしよう。そして翠さんと二人きりの旅行なのだから、もっと俺の兄弟たちの過去を教えて欲しい。
過去は過去。今は今だとは分かっていても、知りたいよ。
俺を受け入れてくれたあなたたちの姿、生き様を教えて欲しくなる。
「翠さん……翠さん起きてくださいよ」
「あ……もう着くの?」
「えぇ」
結局、静岡から翠さんはずっと爆睡していた。
よほど寝不足だったのか……らしくない姿に思わず苦笑してしまう。
しかし寝起きの翠さんって、壮絶色っぽいな。
危うい。脆い……そんな言葉が似合う人だ。
俺が月影寺に来た当初と、翠さんの表情は明らかに変化している。
どうやら無防備な時ほど色濃く出てしまうようだ。
これじゃあ……流さんも心配になるよな。
「洋くん? さぁ行くよ」
「あっはい」
どうやらいつもの翠さんのスイッチが入ったらしい。翠さんは流さんの前では頼りない雰囲気だが、一人の時は違う。
小さい頃から修行を積んだ身なんだなと、つくづく思うよ。
しっかり立っている。
そんな姿が俺にとって眩しい存在で、憧れる。
「まずはどこへ行くんですか」
「あぁ迎えが来ているはずだ。付いて来て」
新幹線の改札を出ると翠さんは勝手知ったるかの如く、すいすいと人混みを避け進んでいく。俺は京都は中学の修学旅行以来だ。あまりいい思い出もないし、記憶も定かではない。
「わっ翠さんちょっと待ってください!」
仕事道具のノートパソコンの入った重たい鞄を人にぶつけるわけにもいかず、翠さんを追っていく。
「翠!」
威勢のよい声に顔をあげると、袈裟を着た背が高くごっつい男性が立っていた。
んんっ? 誰だろう。
翠さんも満面の笑みを浮かべているし……
「道昭《みちあき》!」
「はは、お前はまたその名前を。今は道昭《どうしょう》だ」
「あぁごめん。わざわざ悪いな。自ら迎えに来てくれるなんて」
眼の前で交わされる会話に、この袈裟姿の男性が俺たちを迎えに来てくれたことが理解できた。俺がぽかんとしているのに、二人がようやく気が付いたようだ。
「翠の連れか、この子」
「あぁ……僕の弟だよ」
「へぇお前何人兄弟いるんだ? でも翠の弟だけあって美人さんだ!」
じろじろ見られてきまりが悪いが嫌な視線ではない。心のゆったりとした人のようで、翠さんが人懐っこい笑顔を浮かべているのを見ても、信頼している間だということが分かった。
「うん、洋と言うんだ。洋くん、彼は僕の大学時代の友人で、京都の右京区にある風空寺というお寺の息子さん」
「あっ……あの、はじめまして!」
「おう。よろしくな。翠の弟さん!さぁ行こう。それにしても本当にうちの宿坊でいいのか」
「あぁ、久しぶりに泊まりたくなった」
****
車で道昭さんのご実家の寺へとやってきた。
沙羅双樹の木と竹藪に囲まれた大きな寺庭。端正に整えられた庭は、鎌倉の月影寺のような自然の息吹のままではなく、端正に整えられていた。
「この部屋でいいか」
「うん、あぁ懐かしいな。あれは学生時代か、夏休みに帰省するお前について来たのは」
「あぁそうだな。翠はこの部屋が気に入って十日間も居座ったな」
「そうだったかな」
朗らかに笑い合う二人にほっとし、本当に居心地がよい人だと思った。書院造りの八畳ほどの客室で、窓の外には枯山水の庭が見えた。
「気にいったか」
「当時と何も変わらないな」
「そうか、庭には拘っている。お前のところの庭はだいぶ草深いからな」
「はは、酷いな。今は少しはましになったよ」
「そうか、何年か前に寄った時は、まだすごかったぞ」
「今は流が丹精を込めて手入れしてくれているよ」
「あぁ。あいつ元気か」
「あぁ、留守を頼んで来た」
「そうか、頼りになるな」
「あぁそうだよ」
どうやらこの道昭さんは月影寺にも来たことがあるらしい。まだまだ俺の知らないことだらけだ。
この二日間で、正直どれだけ夕凪さんの足跡が掴めるのか分からないが、出来る限りのことはしよう。そして翠さんと二人きりの旅行なのだから、もっと俺の兄弟たちの過去を教えて欲しい。
過去は過去。今は今だとは分かっていても、知りたいよ。
俺を受け入れてくれたあなたたちの姿、生き様を教えて欲しくなる。
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