重なる月

志生帆 海

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第2部 10章

引き継ぐということ 34

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 雨はいつの間にかやんでいた。

 窓を打つ激しい雨音はいつの間にか消え、静寂が戻って来ていた。

 静かな茶室の布団の上で、僕の躰はとても熱く、悶えるほどに高められていた。

 手の愛撫により隅々まで広げられた快楽が、僕の躰を貫く逞しい流のものによって、嵐のように暴れ出す。

 堪えたいのに、漏れてしまう声。

 必死に唇を噛み、手の甲で押し込めるが、流は許してくれない。

 もっと啼けよ……

 そんな目で煽られているような気がして、クラクラと眩暈がするよ。

「あっ……」

 自分のものとは思えない切なげな声が漏れてしまえば、ぐちゃぐちゃに濡れて繋がっている部分がピクリと震え、恥ずかしさが蘇る。

 心細い顔をしてしまったのだろうか、流が堪らない表情を浮かべ、僕の背中に手をまわし、胸と胸が重なりあうように密に抱いてくれる。

 そして僕の唇を塞ぐ。

 呼吸が苦しいほど深い口づけを受け、何も考えられなくなっていく。

 何度も角度を変え繋がれる口づけが良すぎて、もっと気持ち良くなりたくて、自然と腰が揺れ出してしまう。

 もう僕の中の理性は飛んで行った。

 何もかも忘れ、流を受け入れ、流の腕の中で抱かれるだけだ。

 そうしたい。

「後ろからもしたい」

 仰向けから裏返され、四つん這いの姿勢を取らされた。

 こんな姿は……と一瞬躊躇うが、もう構わない。

 背後から流が覆いかぶさってきて、腰を持ちあげられる。

 深く深く再び奥を突かれ、悲鳴に似た声が短く上がった。

 一気に……それから出口まで戻りもう一度深くズンと押し込まれる。何度も繰り返される抽挿の激しさに、僕の上半身は布団へとぐらりと崩れ落ちてしまった。

 シーツに擦れて、もどかしい。

 躰はもう限界に近いが、求められている喜びを躰全体で感じていた。

 遠い昔、どんなに願っても触れてもらえなかった躰をこんなに求められる喜び。

 覚えてない記憶が、僕を淫らに誘う。

 こんなに激しく求められることに、僕は確かに喜びを感じていた。

 理性とか道理とか、もうそういうものは全部捨てた。

 この時間だけは流と僕のものなんだ。

 一秒でも無駄にしたくなくて、必死に求め合った。

 互いの精が果てた後も、しばらく僕たちは手を絡めあい、そのままでいた。

 流のものは、まだ僕の中にいる。

「翠の中は温かいな」

「流が温かいから……だが、そろそろだ」

 月影寺の茶室で、僕たちは深く深く情を交わした。

 雨はやみ、月が戻って来てしまった。

 名残り惜しい時間……でも絶たないといけない時間が、とうとうやってきた。

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