重なる月

志生帆 海

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第2部 10章

引き継ぐということ 19

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 中学校へ続く道か、懐かしいな。

 俺も中学生の時、この道を毎日のように歩いた。
 高校生だった兄さんと肩を並べて歩くのが嬉しかった。

 あの頃の甘酸っぱい気持ちを思い出す。

 今、俺の横を歩くのは兄さんの息子だ。

 なんとも不思議な光景だ。

 薙の涼し気な横顔を見ながら、まるであの日の兄さんがタイムスリップしてきたかのような、錯覚に陥る。

「何? なんで俺の顔じろじろ見てんの? 」

 一瞬焦った。だが翠のことを考えていたことがバレないように気をつけながら、本当のことを話した。

「あっいや、薙は本当に父親似だと思ってさ」
「はっまたそれ? もう聞き飽きたよ。父さんを知っている人なら100%そう言うからね」
「へぇやっぱりそうか」
「で、次に言うことは中身は正反対だってさ!」
「はっ? ははっ。そうか、そんなこと言われるのか」
「どうせ俺は……父さんみたいに繊細で優しくないからね」

 可愛いことを言う。つっぱっていてもまだ14歳。翠によく似た繊細な容姿と強気な性格が確かにアンバランスだが、それも悪くない。

 翠にもこの位の強さがあったら、克哉との悲しい事件の数々は起きなかったのでは……ふと、そんなことを思ってしまった。

「薙は薙だ。俺はお前のその性格嫌いじゃないぜ。だが無理すんなよ。どうしても駄目って言う時はちゃんと周りの大人を頼れ」
「いちいち煩いなっ。でも、流さんはちょっと変わってる」
「俺が? 」
「なんか父さんの弟とは思えない」
「ははっ、俺もよく言われたよ。先生に怒られる度に、お兄さんは優秀だったのにってな」
「そうなのか。流さんでも……比べられたりしたんだ!」
「当たり前だろ。俺は兄さんと違って粗雑で頭も悪かったしな」
「そんなことない。流さんは……その……」
「なんだ?」
「なんでもない!」
「あっおい待てよ」

 薙は……自分で言って恥ずかしくなったのか突然走り出した。その俊敏な動きに呆気にとられてしまった。

 なんだか、つむじ風みたいな奴だな。

 翠が静なら、薙は動だ。

 野生の動物のように荒々しい時もあれば、翠の血を感じさせるような繊細な心も持っているような気がした。

 小さくなっていく後姿を眩しく見つめると、過ぎ去った俺の青春の思い出が、風にのって蘇えるようだった。

 さてと俺も早く用事を片付けて、兄さんの所へ行かないとな。

 翠を一人にさせておけないから。

 今日は特に……



****

 それにしても憂鬱な葬式だ。

 行先は「建海寺」だった。

 達哉から久しぶりに連絡をもらった時は驚いた。僕はもう二度とあの寺には行くことはないと思っていたから。

 やはり流を待ってから、一緒に行けばよかったか。
 だが住職でもある俺が遅刻するわけにはいかない。

 足取りが重たい。

 やがて寺の山門が見えてくると、達哉の姿を捉えることが出来た。

 達哉のことが嫌いな訳じゃないんだ。

 ただこの寺には、いい思い出がないだけだ。



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