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第2部 10章
引き継ぐということ 14
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躰がふわりと宙に浮かび上へ上へと、上昇していった。
頭上には大きな月が浮かんでいて、手を伸ばせば届きそうだと思った。
月なんてじっくり見たのはいつぶりだ?
手を伸ばしたら、暗闇に温もりを感じた。
温かい雨……懐かしい香りが近づいて来た。
****
「ふぅ薙はまだまだお子様だな。ぐっすり眠って可愛いな」
車中で眠ってしまった薙を横抱きにして、薙の部屋のベッドへ寝かしてやった。
「本当に、全然起きないな。流、今日はありがとう。助かったよ」
さっき見え隠れした俺の翠の顔は、そこにはなかった。
薙の父親がいた。兄さんのこの表情……久しぶりに見る。
「さぁ、もうこんな時間だ。そろそろ兄さんも寝た方がいいですよ」
「うん、そうだね。今日は薙の部屋で眠るよ。僕は迎えにも行かず不甲斐ない父親だったから、せめて薙が起きた時位、傍にいてやりたい」
まるで薙をまだ幼い子供のように扱おうとする兄さん。
そんなことをしたら多感な少年期の薙が反発するだろうと助言しようと思ったが、やめておいた。兄さんの気がすまないのだろう。父親としての想いは、俺には分からない世界だから要望を尊重してやった。
「そうですね。じゃあ布団を敷いてあげますよ」
「その位、自分で出来るよ」
「いいから」
兄さんは何か言いたそうだったが、唇を噛んでしまった。兄さんの部屋に共に布団を取りにいくと、兄さんは後ろ手で襖を閉めてそっと手を握ってきた。
細い指が一本一本、官能的に絡みつく。
「うっ」
「流……ありがとう。僕は……」
その硬く結ばれた唇を開いて貪りたい。
その細い腰が浮かぶ程強く抱きしめ、俺の腕の中に閉じ込めたい。肌に触れ奥に入り込み、翠の内側の熱を感じたい。
翠の熱い瞳を見つめれば、自然に下半身に血が集まり、追い込まれてしまう。だからスッと目を反らした。
「流……」
そんな寂し気な声で呼ぶな。さっきまで父親の顔をしていたくせに!
「流。僕はどうしたら……」
そんなこと聞くなんて反則だ。俺の方が聞きたいよ。
「翠……いつならいいんだよ。いつなら俺の翠になってくれる?」
思い切ってあからさまに聞くと、翠は頬を染めた。
「あ……薙がいる時は、その無理だが、いない時なら……いいから」
父親の顔をしたばかりの翠に、酷なことを言わせているのは承知しているが、その言葉を聴きたかった。
「新学期が始まったら、時間作って欲しい。もうそろそろ限界だ」
俺の方もあからさまに要求してしまうと、翠はもう真っ赤だ。
それでも俺が欲しい言葉を選んで届けてくれた。
「あそこに行こう。あの場所なら……」
頭上には大きな月が浮かんでいて、手を伸ばせば届きそうだと思った。
月なんてじっくり見たのはいつぶりだ?
手を伸ばしたら、暗闇に温もりを感じた。
温かい雨……懐かしい香りが近づいて来た。
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「ふぅ薙はまだまだお子様だな。ぐっすり眠って可愛いな」
車中で眠ってしまった薙を横抱きにして、薙の部屋のベッドへ寝かしてやった。
「本当に、全然起きないな。流、今日はありがとう。助かったよ」
さっき見え隠れした俺の翠の顔は、そこにはなかった。
薙の父親がいた。兄さんのこの表情……久しぶりに見る。
「さぁ、もうこんな時間だ。そろそろ兄さんも寝た方がいいですよ」
「うん、そうだね。今日は薙の部屋で眠るよ。僕は迎えにも行かず不甲斐ない父親だったから、せめて薙が起きた時位、傍にいてやりたい」
まるで薙をまだ幼い子供のように扱おうとする兄さん。
そんなことをしたら多感な少年期の薙が反発するだろうと助言しようと思ったが、やめておいた。兄さんの気がすまないのだろう。父親としての想いは、俺には分からない世界だから要望を尊重してやった。
「そうですね。じゃあ布団を敷いてあげますよ」
「その位、自分で出来るよ」
「いいから」
兄さんは何か言いたそうだったが、唇を噛んでしまった。兄さんの部屋に共に布団を取りにいくと、兄さんは後ろ手で襖を閉めてそっと手を握ってきた。
細い指が一本一本、官能的に絡みつく。
「うっ」
「流……ありがとう。僕は……」
その硬く結ばれた唇を開いて貪りたい。
その細い腰が浮かぶ程強く抱きしめ、俺の腕の中に閉じ込めたい。肌に触れ奥に入り込み、翠の内側の熱を感じたい。
翠の熱い瞳を見つめれば、自然に下半身に血が集まり、追い込まれてしまう。だからスッと目を反らした。
「流……」
そんな寂し気な声で呼ぶな。さっきまで父親の顔をしていたくせに!
「流。僕はどうしたら……」
そんなこと聞くなんて反則だ。俺の方が聞きたいよ。
「翠……いつならいいんだよ。いつなら俺の翠になってくれる?」
思い切ってあからさまに聞くと、翠は頬を染めた。
「あ……薙がいる時は、その無理だが、いない時なら……いいから」
父親の顔をしたばかりの翠に、酷なことを言わせているのは承知しているが、その言葉を聴きたかった。
「新学期が始まったら、時間作って欲しい。もうそろそろ限界だ」
俺の方もあからさまに要求してしまうと、翠はもう真っ赤だ。
それでも俺が欲しい言葉を選んで届けてくれた。
「あそこに行こう。あの場所なら……」
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