重なる月

志生帆 海

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完結後の甘い話の章

『蜜月旅行 95』終わりは始まり

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「丈、この後はお前達だけの時間だ。新婚旅行の最終日は、この部屋で二人きりで過ごせよ」

 流兄さんから、思ってもいなかった言葉をもらった。今晩は同じフロアのツインルームへ兄さん達は移動するとのことだった。その言葉通り、ホテルのボーイが兄さん達の荷物を手早くまとめ、あっという間に去って行った。

「じゃあ、今から明日のチェックアウトまでは自由行動だ。ゆっくりな」

「兄さん……お気遣いありがとうございます」

「優しい兄だろう?」

「ええ、すごく」

 部屋に戻ると、洋がまだ水着姿でソファに座っていた。相当喉が渇いていただらしく、手に持っているペットボトルの水は空っぽになっていた。

「洋、まだそんな恰好じゃ風邪をひくぞ」

「ん、でも喉が渇いてね、それにしても良かったのか。なんだか翠さん達に気を遣わせてしまったね」

「あぁ。兄さん達からの結婚祝いだと思えばいい」

「そうか……でもなんだかやっぱりこういうの慣れないな」

「そうか私は嬉しいだけだがな。さぁおいでシャワーを浴びよう。さっきは慌ただしかっただろう」

 シャワールームの熱いお湯の中に、洋を水着のまま閉じ込める。

「ちょっと待って!服、脱がないと」

「脱がしてやるから、洋は大人しくしてろ」

 そう言いながら洋をシャワールームのガラスの壁に押し付けて、洋の薄い水着にそっと触れた。

「んっ」

 可愛いヒップのそのハート型の穴は、兄さん達にはバレバレだったが、洋だけは何も気が付かず、魅惑的に尻を見せながら廊下を歩くもんだから、思わず手で覆って隠したくなったよ。
流兄さんや翠兄さんにさえ、見せたくないと思ってしまった。

「おいっ丈、なんで水着から?」

 まだTシャツを着ている洋が、私の手を制止しながら聞いて来る。

「それはTシャツが濡れて、乳首が透けているのが色っぽいから、そっちは後だ」

 などと言い訳でもないが思ったままのことを口にして、水着を足元から抜き、急いで丸めてごみ箱に放り投げた。

「あれ?その水着、捨てちゃうのか」

「これは洋には色っぽすぎて心配だから、もう着るな」

 洋は苦笑していた。

「丈は最近面白いな。それじゃあ支離滅裂だよ。くくっ」

「そうか、洋といると確かにおかしい言動が増えたような気がする」

「それって、俺が魅力的だってことでいいのか」

「こいつっ」

 甘く魅惑的に微笑む洋は、出逢った頃とは別人のようだ。

 いつから私にこんな口を聞くようになったのか。だがそんな甘いことを言えるほど、洋は明るく自分に自信を持てるようになったと思うと、あの月のように朧げで今にも消えそうだった洋が、ここまで本来の自分を取り戻したということに、悦びを感じた。

「丈……確かに新婚旅行もとうとう最後の夜だね。好きにしていいよ。丈の好きなように抱いていいから」

 あぁ、甘い甘い誘い文句に酔いそうだ。

「あっでもマンゴージェラードをまだ食べていない」

「後でルームサービスに頼もう」


****

「兄さん、この部屋でいいですか」

 通されたのはスイートルームに比べたら、あまりに普通のツインルームだった。それでも誰の目も気にせず、二人だけで過ごせる夢のような部屋に満足した。

「いいよ。どこでもいい。流と一緒なら」

 兄さんの口からこんな台詞を聴けるとは、やはり夢のようだ。
 そうだ、ここからは兄じゃない。俺の翠になる。

「翠……ありがとう」

 翠の細い腰を抱きしめる。まだ下半身は水着のままで、砂もついている。

「翠、まずは風呂に入ろう。砂がついていて気持ち悪いだろう」

「うん、そうだね」

 脱衣場で、翠の着ているものを性急に剥いで行く。

「さぁ」

 翠の二の腕を引っ張って、シャワールームに閉じ込める。全裸の翠を、透明のガラスの扉に押し付けて抱きしめる。細身だが、それなりに鍛えている翠の躰はしなやかで美しい。硬質の弾力ある太腿をすっと撫であげてやる。

「あっ……」

 切なげな声をあげる翠の眼は、もう赤く潤みだしていた。俺は翠の前にしゃがみ、胸の下の所有の証に口づけた。

「流……何故ここばかり」

「覚えていないのか。ここは……」

「え……」

 胸の下のキスマークの下には、うっすらとした火傷の痕がまだしつこく残っていた。あの日、翠に何があったのか聞けない。翠も言えない。それならば、俺が出来ることはただ癒すことだけ。

「翠……ずっと守って来た。あの日から俺はずっと守って来た。これからも翠のこと守らせてくれ」

「流……」

 翠の手が俺の髪を梳く。優しく五本の指に絡めながら、撫でるように労わるように梳いて来る。

「僕は、ずっと流に重い足枷をはめてしまったんだな」

 翠の声はどこか寂しそうだった。

「違う!俺は足枷だなんて思ったことはない!」

「僕は流を置いて結婚したのに、お前はずっと待っていてくれた。僕は流を蔑ろにしたも同然なのに……」

「いいんだ。翠が今、何もかも飛び越えてここに来てくれただけで、もうすべて帳消しだ!」

「流……」

 太腿に這わしていた手をそのまま翠の股間へと運ぶと、勃つ兆しを見せていた。ボディソープを手に取り、翠のそこを優しく包んでやる。ソープの滑りを借り扱いてやると、翠が啼いた。

「あっ……んっ」

 そのまま全身も泡立てたスポンジで綺麗に洗ってやる。どこもかしこも、爪の先まで俺は翠のことを見つめた。

 翠はもう逃げないで、俺にすべてを見せてくれていた。

「翠……もう恥ずかしくないのか」

「いや、恥ずかしいさ。でもいいんだ。流に見ておいて欲しいから」

「そんな最後みたいなこと言うなよ。始まったばかりじゃないか。俺達は」

「そうだね、旅は終わるが始まったんだね」

「そうだ」

 切ないことを言う口は、もう塞ごう!

 震える躰はガラスに押し付け抱きしめよう!

 今から俺は翠を抱くよ……

 我慢した分、思う存分抱かせてくれ。





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