668 / 1,657
完結後の甘い話の章
『蜜月旅行 50』もう一つの月
しおりを挟む
ガチャガチャ──
ドアが突然開く音がした。
「あれ?なんで真っ暗なんだ?」
「本当だ。翠さん達、まだ戻って来ていないのかな」
丈と洋くんの声に、はっと我に返った。
どうしよう!
焦りと恐怖で一気に強張る躰をぐいっと掴まれた。
「翠、こっちだ」
流は抱き合っていた窓辺から僕を急いで引きはがし、自分たちの部屋へと一気に押し込んだ。部屋のドアを閉めた途端にリビングに明かりが灯り、人の気配を感じた。
「あっ……」
駄目だ。躰が震えて、呆然としてしまう。へなへなと座り込みそうになった僕の躰を、流がしっかりと支えてくれ、乱れた浴衣を手際よく直し整えてくれた。
「よし、これで大丈夫だ」
最後にふわりと優しく抱きしめられた。まるで幼い流のことをいつも僕がそうしてあげていたように、背中を優しくトントンと叩かれるとほっとした。
「兄さん……悪かった。もう大丈夫だから……落ち着いて」
兄さんか……いつもそう呼ばれれば嬉しかったのに、何故か寂しく感じてしまった。僕のことを「翠」と、またそう呼んで欲しい。そう言いたくなったが、その言葉は呑み込んだ。その代りに唇にそっと手をあてると、そこはまだしっとりと濡れていた。
流と口付けを交わした時間は、とても長く深かったのだ。
さっきまでここに流の唇が……そう思うだけで顔が熱くなる。舐められた胸も、流に押し付けてしまった下半身も再び熱くなってしまう。
間もなく僕たちの部屋のドアがノックされた。
「流兄さん、翠兄さんいますか」
丈の声だ。
「あぁ悪い。少し横になっていた」
流が応対してくれるのを、ベッドに座りながらぼんやりと聴くことしか出来なかった。
どこかまだ夢見心地で、躰に力が入らない。
しっかりしろ翠。
自分を励ますが、なんだか一気に疲れが出てしまった。
はぁ……僕は……なんてことをしてしまったのか。そのまま躰を投げ出すようにベッドに預けると、再び睡魔に襲われてしまった。
「翠兄さんは?」
「あぁ、慣れないことばかりで疲れがでたのだろう。もう少しだけ寝かしてやってくれ」
確かに少し眠った方がいい。今この状態で、丈の前にはとても出られない。どんな顔をしたらいいのか分からない。混乱を静めるためにも、自己防衛のように眠ることを選んだ。
本当に慣れないことばかりしてしまった。
なんという一日だったのか。
それにしても次に目が覚めたらどんな顔をして、流を見ればいいのか。
混乱・困惑に苛まれつつも……確かに芽吹いてしまった流への思いを消すことは出来ないと確信してしまった。
「本当だ。翠兄さんは眠っているようですね」
「あぁ少し経ったら起こすから、先に酒を飲もう」
「分かりました。じゃあ用意していますね」
「了解!俺はルームサービスに夕食を頼んでおくよ」
「お願いします。あ、洋の好きなハンバーグを忘れずに」
「ハンバーグ?」
「えぇ」
「くっ可愛いな。じゃあ翠兄さんの好きな寿司も頼もう。で、丈は何が好きだ?」
「私はなんでも食べますが……」
「可愛げがないなぁ。じゃあお子様セットにするか。丈ちゃんよ」
「兄さんっ!いい加減にしてくださいっ!」
場が和み……流がルームサービスへ電話をしている声を子守歌にして、僕は眠りにつけそうだ。
「翠……少し休め」
僕の頬に触れる手を感じ、耳元で甘く囁く優しく穏やかな声が聴こえたような気がした。
ドアが突然開く音がした。
「あれ?なんで真っ暗なんだ?」
「本当だ。翠さん達、まだ戻って来ていないのかな」
丈と洋くんの声に、はっと我に返った。
どうしよう!
焦りと恐怖で一気に強張る躰をぐいっと掴まれた。
「翠、こっちだ」
流は抱き合っていた窓辺から僕を急いで引きはがし、自分たちの部屋へと一気に押し込んだ。部屋のドアを閉めた途端にリビングに明かりが灯り、人の気配を感じた。
「あっ……」
駄目だ。躰が震えて、呆然としてしまう。へなへなと座り込みそうになった僕の躰を、流がしっかりと支えてくれ、乱れた浴衣を手際よく直し整えてくれた。
「よし、これで大丈夫だ」
最後にふわりと優しく抱きしめられた。まるで幼い流のことをいつも僕がそうしてあげていたように、背中を優しくトントンと叩かれるとほっとした。
「兄さん……悪かった。もう大丈夫だから……落ち着いて」
兄さんか……いつもそう呼ばれれば嬉しかったのに、何故か寂しく感じてしまった。僕のことを「翠」と、またそう呼んで欲しい。そう言いたくなったが、その言葉は呑み込んだ。その代りに唇にそっと手をあてると、そこはまだしっとりと濡れていた。
流と口付けを交わした時間は、とても長く深かったのだ。
さっきまでここに流の唇が……そう思うだけで顔が熱くなる。舐められた胸も、流に押し付けてしまった下半身も再び熱くなってしまう。
間もなく僕たちの部屋のドアがノックされた。
「流兄さん、翠兄さんいますか」
丈の声だ。
「あぁ悪い。少し横になっていた」
流が応対してくれるのを、ベッドに座りながらぼんやりと聴くことしか出来なかった。
どこかまだ夢見心地で、躰に力が入らない。
しっかりしろ翠。
自分を励ますが、なんだか一気に疲れが出てしまった。
はぁ……僕は……なんてことをしてしまったのか。そのまま躰を投げ出すようにベッドに預けると、再び睡魔に襲われてしまった。
「翠兄さんは?」
「あぁ、慣れないことばかりで疲れがでたのだろう。もう少しだけ寝かしてやってくれ」
確かに少し眠った方がいい。今この状態で、丈の前にはとても出られない。どんな顔をしたらいいのか分からない。混乱を静めるためにも、自己防衛のように眠ることを選んだ。
本当に慣れないことばかりしてしまった。
なんという一日だったのか。
それにしても次に目が覚めたらどんな顔をして、流を見ればいいのか。
混乱・困惑に苛まれつつも……確かに芽吹いてしまった流への思いを消すことは出来ないと確信してしまった。
「本当だ。翠兄さんは眠っているようですね」
「あぁ少し経ったら起こすから、先に酒を飲もう」
「分かりました。じゃあ用意していますね」
「了解!俺はルームサービスに夕食を頼んでおくよ」
「お願いします。あ、洋の好きなハンバーグを忘れずに」
「ハンバーグ?」
「えぇ」
「くっ可愛いな。じゃあ翠兄さんの好きな寿司も頼もう。で、丈は何が好きだ?」
「私はなんでも食べますが……」
「可愛げがないなぁ。じゃあお子様セットにするか。丈ちゃんよ」
「兄さんっ!いい加減にしてくださいっ!」
場が和み……流がルームサービスへ電話をしている声を子守歌にして、僕は眠りにつけそうだ。
「翠……少し休め」
僕の頬に触れる手を感じ、耳元で甘く囁く優しく穏やかな声が聴こえたような気がした。
10
お気に入りに追加
446
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる