重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
637 / 1,657
完結後の甘い話の章

完結後の甘い物語 『蜜月旅行 19』

しおりを挟む
【R18】

 翠兄さんを横抱きにしながら、目的の岩場に辿り着いた。間近で見る岩場は形状が思ったよりも複雑で、背を覆う程の高さの凹凸があった。

 すぐに左右の岩場をざっと確認したが、丈と洋くんの姿は見えなかった。

 おかしいな。此処にいると思ったが見当外れだったか。二人で岩場で変なことをしていないか心配したが、どうやら余計なお世話だったようだ。

 そう思うと少し残念なような、ほっと安堵するような複雑な気持ちになってしまった。

「兄さん、ここでいいか」

 そのまま兄さんを岩場にそっと下ろし、腰かけさせた。

「ありがとう。流」

 さっき溺れかけたせいで、頭までびしょ濡れの兄さん。その綺麗な形の額に髪の毛が貼りついて、なんだか妙に色っぽい。いつまでも見つめていたい…

 そんな衝動に駆られたが、兄さんとバチっと視線がぶつかると、やはり気まずくて、ふっと視線を海へ外した。

 駄目だ。これじゃ中学生の時と何も変わらないぞ。少し頭を冷やせ。

 今回の日常とかけ離れた旅行なだけでも充分興奮しているのに、丈と洋くんの熱々っぷりにあてられ過ぎたな。

 まだ旅行は始まったばかりだ。しっかりしろ!少し頭を冷やそう。こんなことでは今まで培ってきたものが全て台無しになってしまう。

「兄さん、俺は少し泳いできていいですか」

「もちろんだよ。流は泳ぎが得意だものな。僕はここで見ているよ」

 兄さんは昔を懐かしむような表情を浮かべていた。

 小学校の時にプール教室に通い出したのをきっかけに、俺は泳ぎに夢中になった。だから中学校以降は、ずっと水泳部に所属した。泳ぐのがとにかく好きだ。「流」という俺の名の通り、水の流れに躰を預ける瞬間が好きだった。

「じゃあ、見ていて下さい」

 昔から大きな大会の時には、必ず兄さんが都合をつけて応援に来てくれた。

 翠兄さんの静かな眼差しを競技会場で見つけると、すぅーっと心が落ち着いていくのを感じた。同時に兄さんが観てくれているから、絶対に勝ちたい。いい所を見せたいという衝動に駆られた。

 あの頃の純粋な気持ちを思い出し、邪念を振り払うように、俺は海へとザブンっと勢いよく潜った。

****

「あぁっ!」

 腰を両手で押さえられたまま、あまりに激しい突き上げを受け止め、頭も躰もついていけない程だった。

 目の奥がチカチカしたと同時に、俺の躰の奥深くが、丈の弾けたものを全て受け止め、ぐっしょりと濡れたのを感じた。

 前後して俺自身も欲望を一気に吐き出したようで、気が付くと自分の腹と太腿がベタベタと不快だった。

「はぁ……はぁ……苦しいよ」

 丈の胸に汗ばんだ背中を預け、粗い息を吐く。

 こんな場所で体力を使いすぎだ。丈の馬鹿っ!

 立ち上がって水着をきちんと装着してから、そう責めようと思ったのに、まだ俺の躰の中には、丈が入ったままだった。うっ……これでは身動きが取れない。

「おいっ丈……もう抜けよ。人が来たら大変だろっ」



しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...