重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
545 / 1,657
第9章

集う想い4

しおりを挟む
「涼!なんでここに?撮影の途中じゃないのか」

「今は休憩時間なんだ。それよりSoilさん、こんな所に洋兄さん連れ出して何するつもり?洋兄さんのこと虐めたら僕が許さないからっ」

「りょ……涼!違うって、これは」

 涼の口から出た過激な言葉に、たじろいでしまう。

「おいおい、俺がそんな悪人だとも?」
「いや……その、洋兄さんは、ほんと危なっかしくて」

 冷静になって、少し恥ずかしそうに俯く涼が可愛い。でも……こんな可愛い涼に心配される俺って一体……なんだか腑に落ちないな。

「ははっ涼はブラコンか」
「違うけど……」
「さぁもう上に戻ろう」
「うん、でも今ここに誰かいたような?あれは……」

 キョロキョロと辺りを見回す涼に、まだどう声を掛けていいのか分からなかった。

 さっきまでそこに汗水たらして必死に働く辰起くんがいたことは、まだ話さないでいいと思った。いつか涼も自分の目で見て、判断する時が来るだろう。

「ねぇ洋兄さん、アメリカではどうだったの?Soilさんの撮影も見学した?」

 階段を上がりながら、涼に問われれば嘘はつけない。

「えっと……実はね、ワンシーンだけ代理で俺も参加させてもらって……」
「えっ!嘘っ!」

 涼の方がとんでもない声を出した。

「洋兄さんってば、何でそれ教えてくれなかったの?」
「ごめん。あれはピンチヒッターだったからボツになるだろうし、わざわざ言う程のことじゃないと思って……」

 縋るように陸さんを見ると、我関せずといった様子で肩を竦めていた。

「そんなことないぜ。あの写真正式に使いたいって林さんが話していたから、今度連絡が行くんじゃねえか」
「そんな!それは困るよ」

 あの時は陸さんを助けたいという勢いだったから。冷静になってみると丈に相談しないであんなことして、きっと事実を知ったら怒られそうだと、無性に心配になってしまう。

「ふっ洋の彼氏が怒るか」
「えっ!」
「まぁ雑誌掲載はまだ先だから、七日に会った時に俺からも話してやるから心配するなって」
「もっとややっこしくなりそうだから遠慮するっ」

****

「洋兄さん、じゃあまた!次は七日になるのかな。安志さんと張り切っていくからね~気を付けて帰ってね」
「んっありがとう。涼も撮影頑張れよ」
「陸さん、いろいろと今日はありがとうございます。待ってます」
「あぁ空も誘っていくから」

 可愛い涼と陸さんに見送られてスタジオを後にした。

 思い切って涼の所を訪ねてみて良かった。安志にも会えたし涼にも話せた。そして陸さんにも会えた。久しぶりに会った陸さんは、ぐっと幸せそうな表情を浮かべるようになっていた。
俺のことを見る眼も和らいでいて、ほっとした。

 好きな人がいる。
 自分よりも大切な人。
 一緒に幸せになりたい人がいる。
 幸せを分かち合いたい人がいる。

 全て……

 それは人を変えていく。
 どんどん良い方向に。
 俺もそうだけど、周りもそうだ。
 今日はそれを深く理解できる時間になった。

 さぁ俺ももう鎌倉へ……丈の元へ戻ろう。

 夕陽に照らされるプラットホームに立つと、満たされた想いがじんわりと込み上げて来た。なんだか無性に丈に会いたい。早く会いたいよ。

 間もなく到着する電車が、俺の急く気持ちを一気に運んでくれるだろう。


しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

帰宅

papiko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...