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第7章
アクシデント 6
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「空……俺だ」
「陸、どうした? まだ仕事中だろ?」
「サイガヨウだな」
「えっ?」
「お前はもう知っているだろう? 」
「な、なんで?」
「そいつだな」
「……」
「否定しないってことは、やっぱりあっているな」
「Soil……いや、陸やめろ。彼は僕たちが思い描いていたような人物ではない気がするんだ!」
「五月蠅いっ」
やっぱりそうだったのか。名前を聞いた時にピンときた。遠い昔、俺がこっそり会いに行った父の新しい家、そこから出て来た親子の影。そこで見た光景が脳裏にまざまざと蘇ってくる。後姿だったが、幸せそうな少年を見た。父が嬉しそうに少年の名前を呼んだ。
「ヨウ」
それを聞いて俺はもう苦しくて逃げるように走り去った。その声で優しく呼ばれるのは……
「リク」
俺のはずだった。お前が俺の場所を奪ったんだ。あの日の夕暮れの光景を忘れたくて、必死に記憶から消した。
ベッドの上では頭の処置をしてもらった涼が包帯を巻いて眠っている。結局数針縫うことになってしまった。顔に傷つかなくて良かったが、白い包帯に真っ青な顔色が痛々しく映っている。脳の検査もして異常がなかったようでほっとした。あとは涼の目が覚めるのを待ってからという説明を受けた。
マネージャーは今後の仕事の調整で一旦事務所に戻ったので、俺と涼だけだ。
そして……この病室には間もなくサイガヨウがやってくる。
はぁ……ったく、くそっ!なんでこんなタイミングなんだ。涼には罪がない。涼は俺を庇ってこんな大怪我をしたっていうのに、なんでサイガヨウが涼の身内にいる? なんで弟のように可愛がっている涼のなんだよっ!
やるせない思いで、握った拳がプルプルと怒りで震えてしまった。
「うっ……」
その時、小さな呻き声と共に涼の手が微かに震えたので、すぐに駆け寄ってその手を擦ってやった。
「涼っ涼! 気が付いたのか!」
「あっ……Soilさん? 僕……なんで……うっ痛っ」
涼は自分がどこにいるのか分からないような不安そうな表情を浮かべ、いきなり起き上がろうとして、顔をしかめた。
「動くな、まだ寝ていなくては駄目だ」
「僕……頭に怪我を?」
涼はそっと手を動かして自分の頭を触ろうとした。手術着から細い手首がちらっと覗く。そこにもガラスの破片で小さな怪我をしているようだった。この前はカッターで切られそうになって今度はこんな怪我をするなんて、傷ついた躰が痛々しくてもう見ていられない。
「涼、お前は馬鹿だ。俺を庇うなんて」
「Soilさんは無事? 」
「あぁ、お前のおかげで無傷だ」
「それならば良かった。でも僕……こんな怪我しちゃって、モデルの仕事に迷惑かけてしまうよね」
「それは……今は心配するな」
「ありがとう。本当にSoilさんが傷つかなくてよかったよ」
まだ青ざめた顔色なのに、俺を気遣って、ニコっと笑うその仕草が痛々しかった。涼のことは不思議と出会った最初から気に入って、接すれば接するほど心の底から可愛く思っていた。自分を顧みず俺を庇ってくれた涼のことを一層大切にしてやりたいと思っている。それは嘘ではない。真実だ。
その時バタバタと慌てた足音が廊下から聞こえて来た。そして涼の病室の前でとまり、はぁはぁと乱れた息を整える音がした。
くそっ!こんなタイミングで──
とうとう対面のようだ。どんな顔してるんだか、しっかり拝んでやろう。
俺から父を奪ったあいつの顔を!
「……来たな」
「陸、どうした? まだ仕事中だろ?」
「サイガヨウだな」
「えっ?」
「お前はもう知っているだろう? 」
「な、なんで?」
「そいつだな」
「……」
「否定しないってことは、やっぱりあっているな」
「Soil……いや、陸やめろ。彼は僕たちが思い描いていたような人物ではない気がするんだ!」
「五月蠅いっ」
やっぱりそうだったのか。名前を聞いた時にピンときた。遠い昔、俺がこっそり会いに行った父の新しい家、そこから出て来た親子の影。そこで見た光景が脳裏にまざまざと蘇ってくる。後姿だったが、幸せそうな少年を見た。父が嬉しそうに少年の名前を呼んだ。
「ヨウ」
それを聞いて俺はもう苦しくて逃げるように走り去った。その声で優しく呼ばれるのは……
「リク」
俺のはずだった。お前が俺の場所を奪ったんだ。あの日の夕暮れの光景を忘れたくて、必死に記憶から消した。
ベッドの上では頭の処置をしてもらった涼が包帯を巻いて眠っている。結局数針縫うことになってしまった。顔に傷つかなくて良かったが、白い包帯に真っ青な顔色が痛々しく映っている。脳の検査もして異常がなかったようでほっとした。あとは涼の目が覚めるのを待ってからという説明を受けた。
マネージャーは今後の仕事の調整で一旦事務所に戻ったので、俺と涼だけだ。
そして……この病室には間もなくサイガヨウがやってくる。
はぁ……ったく、くそっ!なんでこんなタイミングなんだ。涼には罪がない。涼は俺を庇ってこんな大怪我をしたっていうのに、なんでサイガヨウが涼の身内にいる? なんで弟のように可愛がっている涼のなんだよっ!
やるせない思いで、握った拳がプルプルと怒りで震えてしまった。
「うっ……」
その時、小さな呻き声と共に涼の手が微かに震えたので、すぐに駆け寄ってその手を擦ってやった。
「涼っ涼! 気が付いたのか!」
「あっ……Soilさん? 僕……なんで……うっ痛っ」
涼は自分がどこにいるのか分からないような不安そうな表情を浮かべ、いきなり起き上がろうとして、顔をしかめた。
「動くな、まだ寝ていなくては駄目だ」
「僕……頭に怪我を?」
涼はそっと手を動かして自分の頭を触ろうとした。手術着から細い手首がちらっと覗く。そこにもガラスの破片で小さな怪我をしているようだった。この前はカッターで切られそうになって今度はこんな怪我をするなんて、傷ついた躰が痛々しくてもう見ていられない。
「涼、お前は馬鹿だ。俺を庇うなんて」
「Soilさんは無事? 」
「あぁ、お前のおかげで無傷だ」
「それならば良かった。でも僕……こんな怪我しちゃって、モデルの仕事に迷惑かけてしまうよね」
「それは……今は心配するな」
「ありがとう。本当にSoilさんが傷つかなくてよかったよ」
まだ青ざめた顔色なのに、俺を気遣って、ニコっと笑うその仕草が痛々しかった。涼のことは不思議と出会った最初から気に入って、接すれば接するほど心の底から可愛く思っていた。自分を顧みず俺を庇ってくれた涼のことを一層大切にしてやりたいと思っている。それは嘘ではない。真実だ。
その時バタバタと慌てた足音が廊下から聞こえて来た。そして涼の病室の前でとまり、はぁはぁと乱れた息を整える音がした。
くそっ!こんなタイミングで──
とうとう対面のようだ。どんな顔してるんだか、しっかり拝んでやろう。
俺から父を奪ったあいつの顔を!
「……来たな」
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