381 / 1,657
第7章
鏡の世界 1
しおりを挟む
電話の向こうの洋の声は明るかった。
「洋どうだった? 今どこだ? 」
「んっ……まだ丈の家。しばらくここに滞在することになったから、それを伝えておこうと思って。住所とかは後でメールするから」
「大丈夫か」
「あぁ丈がちゃんと紹介してくれて」
「そうか、ほっとしたよ。良かったな」
「安志ありがとう。それだけだったんだ。悪かったな。夜遅くにごめん」
「あっ洋」
「何? 」
「いや……また今度でいい」
「そう? じゃあお休み」
洋からの電話は用件のみだったが、ほっとした。実は帰国してすぐに丈さんの実家へ行くというので少し心配していた。しかも丈さんにはお兄さんが二人いて実家は寺だなんて聞いたから。特殊な環境で洋のこときちんと受け入れてもらえるのか不安だった。
でも杞憂に終わったみたいだな。洋が幸せそうな声で電話をくれたことが、何より嬉しい。洋もきっと今日はすごく気疲れしているだろうから、涼のモデルのことや雑誌掲載のこと話しすのは、やめておいた。
「安志さん、洋兄さん、なんて?」
隣で耳をそばたてていた涼が、乱れた衣類を整えながら聞いてきた。
「あぁしばらく鎌倉の丈さんの実家に滞在するそうだよ」
「わぁ……もしかして丈さんカミングアウトしたのかな。男らしいな」
「さぁそこまではまだ分からないが、洋はとても明るい声だったよ」
「そうなんだね。洋兄さん居心地がいいんだね。きっと」
「あぁそうだな」
「僕は洋兄さんが幸せにしてくれていると凄く嬉しいよ。あぁ僕も鎌倉に行ってみたいな」
「もう少し落ち着いたらな」
「じゃあ安志さん僕もうそろそろ帰るね」
「車で送ってやるよ」
今日はここまでだ。涼との時間が名残惜しいが、しょうがない。この先時間はいくらでもある。そう信じているから。
****
心配してくれていた安志に連絡をしたが、思い付きで電話をかけてから改めて時計を見て後悔した。安志はもしかして涼と過ごしていたのかも。また邪魔してしまったのではと心配になった。
「洋、もう起きていたのか? 安志くんにちゃんと電話したのか」
「あっ丈」
鎌倉の月影寺という丈の実家に着くなり、丈のお父さんとお兄さんである翠さんと流さんに紹介されて、その紹介が友人としてでなくパートーナーとしてだったので、俺はもうキャパオーバーで眩暈がして。
はぁ…情けない。
どうやってこの部屋にやってきたのか覚えていない。ふと先ほど目覚めると離れらしき和室の布団に寝かされていた。
足元が心もとなくて確かめると、いつの間にか浴衣に着替えさせられていて。俺……ちゃんと歩いて、自分で着替えられたのかも危うい。丈はさっきの洋服のままだった。
「丈? 」
「洋、浴衣も似合うな」
「あっこれ……もしかして丈が着替えさせてくれたのか」
「いや、私は浴衣のことはよく分からないから、流兄さんが着せてくれたよ」
「えっ! 」
流さんが……はっ恥ずかしい。しかも俺、何一つ覚えていないし!
「何も覚えていない……」
「あぁ洋はまた貧血起こして意識なかったからな」
「なっなんで」
「んっ? あぁ恥ずかしがることない。身内じゃないか。私もちゃんとすぐ横で見ていたし」
「いやっ……あーでも」
動揺してしどろもどろになっていると、丈に背後からぎゅっと抱きしめられた。途端に俺の薄い背中に丈の厚い胸板がぶつかって、ドキッとした。
「丈……?」
こうやって丈の頼もしい躰に抱きしめられると、すごくほっとできる。俺の動揺と緊張が和らいでいくのを見計らって、丈が耳元で低く男らしい艶めいた声で囁いた。
「洋の浴衣姿……凄く色っぽいな」
「洋どうだった? 今どこだ? 」
「んっ……まだ丈の家。しばらくここに滞在することになったから、それを伝えておこうと思って。住所とかは後でメールするから」
「大丈夫か」
「あぁ丈がちゃんと紹介してくれて」
「そうか、ほっとしたよ。良かったな」
「安志ありがとう。それだけだったんだ。悪かったな。夜遅くにごめん」
「あっ洋」
「何? 」
「いや……また今度でいい」
「そう? じゃあお休み」
洋からの電話は用件のみだったが、ほっとした。実は帰国してすぐに丈さんの実家へ行くというので少し心配していた。しかも丈さんにはお兄さんが二人いて実家は寺だなんて聞いたから。特殊な環境で洋のこときちんと受け入れてもらえるのか不安だった。
でも杞憂に終わったみたいだな。洋が幸せそうな声で電話をくれたことが、何より嬉しい。洋もきっと今日はすごく気疲れしているだろうから、涼のモデルのことや雑誌掲載のこと話しすのは、やめておいた。
「安志さん、洋兄さん、なんて?」
隣で耳をそばたてていた涼が、乱れた衣類を整えながら聞いてきた。
「あぁしばらく鎌倉の丈さんの実家に滞在するそうだよ」
「わぁ……もしかして丈さんカミングアウトしたのかな。男らしいな」
「さぁそこまではまだ分からないが、洋はとても明るい声だったよ」
「そうなんだね。洋兄さん居心地がいいんだね。きっと」
「あぁそうだな」
「僕は洋兄さんが幸せにしてくれていると凄く嬉しいよ。あぁ僕も鎌倉に行ってみたいな」
「もう少し落ち着いたらな」
「じゃあ安志さん僕もうそろそろ帰るね」
「車で送ってやるよ」
今日はここまでだ。涼との時間が名残惜しいが、しょうがない。この先時間はいくらでもある。そう信じているから。
****
心配してくれていた安志に連絡をしたが、思い付きで電話をかけてから改めて時計を見て後悔した。安志はもしかして涼と過ごしていたのかも。また邪魔してしまったのではと心配になった。
「洋、もう起きていたのか? 安志くんにちゃんと電話したのか」
「あっ丈」
鎌倉の月影寺という丈の実家に着くなり、丈のお父さんとお兄さんである翠さんと流さんに紹介されて、その紹介が友人としてでなくパートーナーとしてだったので、俺はもうキャパオーバーで眩暈がして。
はぁ…情けない。
どうやってこの部屋にやってきたのか覚えていない。ふと先ほど目覚めると離れらしき和室の布団に寝かされていた。
足元が心もとなくて確かめると、いつの間にか浴衣に着替えさせられていて。俺……ちゃんと歩いて、自分で着替えられたのかも危うい。丈はさっきの洋服のままだった。
「丈? 」
「洋、浴衣も似合うな」
「あっこれ……もしかして丈が着替えさせてくれたのか」
「いや、私は浴衣のことはよく分からないから、流兄さんが着せてくれたよ」
「えっ! 」
流さんが……はっ恥ずかしい。しかも俺、何一つ覚えていないし!
「何も覚えていない……」
「あぁ洋はまた貧血起こして意識なかったからな」
「なっなんで」
「んっ? あぁ恥ずかしがることない。身内じゃないか。私もちゃんとすぐ横で見ていたし」
「いやっ……あーでも」
動揺してしどろもどろになっていると、丈に背後からぎゅっと抱きしめられた。途端に俺の薄い背中に丈の厚い胸板がぶつかって、ドキッとした。
「丈……?」
こうやって丈の頼もしい躰に抱きしめられると、すごくほっとできる。俺の動揺と緊張が和らいでいくのを見計らって、丈が耳元で低く男らしい艶めいた声で囁いた。
「洋の浴衣姿……凄く色っぽいな」
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる