重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
380 / 1,657
第7章 

戸惑い 9

しおりを挟む
「安志さん、あの……ここ暑いね、暖房ずいぶん効いてる。だから、その……」
「ふっ……涼、可愛いな」

 さっき実は涼の友人に嫉妬したということも話してしまおうかとも思ったが、もう涼にはすべて分かっているような気がして言わないでおいた。その分涼が甘い言葉で俺を満たそうとしてくれるから。俺が今から涼をもらえばいいかなんて、肩の力が抜けたように思ってしまった。

 涼の着ていたダッフルコートを脱がしマフラーも外し、どんどん薄着にさせて行く。早く肌と肌がぴったりと触れ合う距離まで近づいてお互いの不安を分け合いたい。そう急く気持ちでいっぱいだ。

 裸にした涼の綺麗な上半身を抱き寄せて自分の躰と密着させれば、涼の心臓の鼓動が直に伝わって来る。

 トクトクトク……

 規則正しくも早い鼓動。

 涼の溢れる気持ちのようで、俺の心臓も同じように反応していくよ。ほっとする……涼がここにいるということを実感できて。

「安志さん……好き」

 その時、涼のジーンズのポケットに入っていたスマホが鳴った。涼と抱き合ったまま、どうしようかと見つめ合ったが、呼び出し音が止む気配がなかった。

「涼、電話に出ないと」
「でも……」
「仕事のかもしれないだろう」

 促すように声をかけ、涼を離してやった。

「もしもし。あっマネージャー! すみません。まだ出先です。明日の早朝ですか。はい大学に行く前なら時間が取れます。了解しました、では……」

 通話終了ボタンを押した涼が気まずそうに、こちらを見た。だいたいのことは察せられたので、俺は涼に脱がしたばかりのシャツをまた羽織らせてやった。

「仕事か」
「うん……なんだか撮影の手直しがあるみたいで、朝迎えに来るって」
「そっか。じゃあ今日はもう帰らないとな。車で送ってやるよ」
「でも……」

 仕事なんだからしょうがない。俺だって何年も社会人をやっているのだから、そういう融通のきかない時があること位分かっている。

「大丈夫だ、こうやって来てくれたことで今日は十分満たされたよ。ありがとう」
「安志さん、僕こんなつもりじゃなかったのに……」
「おいおい涼、モデルの仕事では、こんなことこれから先いくらでもあるよ。大丈夫だ」

 すっかりしょげかえっている涼をもう一度深く抱きしめ、シャツのボタンをゆっくりと留めてやると、俯いていた涼がもどかしそうに訴えた。

「でも僕の方が、辛いかも……」

 どこか所在なさげな涼の様子にもしかしてと思い、すっと下半身に触れると、涼のそれは硬くなっていた。

「涼、ここ我慢できない?」
「あっ」

 トンっと指先でノックするように叩くと、涼が真っ赤な顔でコクリと頷いた。叱られた子供のような可愛い仕草にドキッとしてしまう。

「俺がしてやる」

 ズボンのベルトを外し下着ごと床へ落としてやる。それから徐々に硬くなって来ている小振りだが形の良いそこへ、ゆっくりと手を這わせていく。

「えっ? あっ駄目だよ……そんな」

 撫でるように擦ってよく揉み込んでやると、一気に硬さを増していく。さらに手で輪を作り搾り取るように扱いていけば、ジュッと先から蜜が垂れてくるので指先で絡めとってやる。

「くっ……んっ安志さん、駄目」

 必死に抗おうとする涼を押さえこむように壁に立たせ、しゃがみこんで涼のものを口にパクっと含んでやった。

「あっ! 」

 涼は恥ずかしいのか、必死に俺の肩を手で押して離れようとしてくる。

「涼、大丈夫だ。少し力を抜いて」
「でも僕ばかりっ」

 先端をつっつくに舌先で苛め、口奥まで含んで吸ったりしていると、涼の躰が堪らないといった様子でふるふると小刻みに震えてくる。

 ジュッと音が立つほど吸い上げてやると、涼はつま先を震わせ小さく喘いだ。すっかり勃ってしまった涼のそこからピュッと迸ったものを嚥下してやると、ぽたっと水滴が背筋に落ちて来た。

「……涼?」

 見上げると涼がポロポロと泣いていた。
 はぁはぁと肩で息をして、顔を羞恥で紅色に染めて。

 あっこれ涙か!

「わっごめん。嫌だったか」
「違う……」
「じゃあ、どうして泣いてる?」
「だって恥ずかしかった。僕ばかりこんなになって」
「馬鹿だな、自然なことだよ。むしろ涼がこんに濡らしてくれて嬉しかったよ」
「今度は安志さんの番だ」
「っふ…」

 どうしようか、明日の朝早い涼に負担をかけたくない。歯止めが効かなくなりそうで、怖いんだ。

 迷っていると、今度は俺のスマホが鳴ったので二人で顔を見合わせて苦笑してしまった。

「安志さん、今日はなんだかタイミング悪いね」
「そういう日もあるさ。雨が降ったり晴れたりするのと同じだよ」

 そうだ。これから先こんなことはいくらでもあるだろう。

 すれ違ってしまう時。
 タイミングが合わない時。

 いつもいつもがベストでいい日ばかりじゃない。

 でもそういう風にずれている時こそ無駄に足掻くことなく、丁寧に過ごして行きたい。涼とは長く長くずっと一緒にいたいから。

「もしもし?」
「あっ安志? 悪い、もう寝ていたか」
「洋か。全くいつもタイミングいいな」
「あっもしかして……今まずかった? 」

 電話先の相手は、またしても洋だった。こいつは本当は狙ってかけて来るのか。

 なんだか脱力してしまって「はぁ…」と溜息をつくと、電話の向こうで洋の狼狽する様子が見えるようで、苦笑してしまった。

「ごめん……」
「いいって」


****


 これから先、きっと涼とのことでいろいろと戸惑うことも多いだろう。そんな時は、今日俺が取ってしまった浅はかな行動を思い出していきたい。

星が見えたり、見えなかったり。
月が見えたり、見えなかったり。

あるはずのものが見えないことがある。
予定した通りに行かない日がある。

でも、ちゃんと見えなくても、確かに存在しているんだな。

涼が俺を想ってくれる気持ち。
俺が涼を想う気持ち。

そこがしっかりと存在していることを忘れずに、この先、涼と歩んで行きたい。



『戸惑い』了
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

今日くらい泣けばいい。

亜衣藍
BL
ファッション部からBL編集部に転属された尾上は、因縁の男の担当編集になってしまう!お仕事がテーマのBLです☆('ω')☆

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

処理中です...