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第7章
戸惑い 9
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「安志さん、あの……ここ暑いね、暖房ずいぶん効いてる。だから、その……」
「ふっ……涼、可愛いな」
さっき実は涼の友人に嫉妬したということも話してしまおうかとも思ったが、もう涼にはすべて分かっているような気がして言わないでおいた。その分涼が甘い言葉で俺を満たそうとしてくれるから。俺が今から涼をもらえばいいかなんて、肩の力が抜けたように思ってしまった。
涼の着ていたダッフルコートを脱がしマフラーも外し、どんどん薄着にさせて行く。早く肌と肌がぴったりと触れ合う距離まで近づいてお互いの不安を分け合いたい。そう急く気持ちでいっぱいだ。
裸にした涼の綺麗な上半身を抱き寄せて自分の躰と密着させれば、涼の心臓の鼓動が直に伝わって来る。
トクトクトク……
規則正しくも早い鼓動。
涼の溢れる気持ちのようで、俺の心臓も同じように反応していくよ。ほっとする……涼がここにいるということを実感できて。
「安志さん……好き」
その時、涼のジーンズのポケットに入っていたスマホが鳴った。涼と抱き合ったまま、どうしようかと見つめ合ったが、呼び出し音が止む気配がなかった。
「涼、電話に出ないと」
「でも……」
「仕事のかもしれないだろう」
促すように声をかけ、涼を離してやった。
「もしもし。あっマネージャー! すみません。まだ出先です。明日の早朝ですか。はい大学に行く前なら時間が取れます。了解しました、では……」
通話終了ボタンを押した涼が気まずそうに、こちらを見た。だいたいのことは察せられたので、俺は涼に脱がしたばかりのシャツをまた羽織らせてやった。
「仕事か」
「うん……なんだか撮影の手直しがあるみたいで、朝迎えに来るって」
「そっか。じゃあ今日はもう帰らないとな。車で送ってやるよ」
「でも……」
仕事なんだからしょうがない。俺だって何年も社会人をやっているのだから、そういう融通のきかない時があること位分かっている。
「大丈夫だ、こうやって来てくれたことで今日は十分満たされたよ。ありがとう」
「安志さん、僕こんなつもりじゃなかったのに……」
「おいおい涼、モデルの仕事では、こんなことこれから先いくらでもあるよ。大丈夫だ」
すっかりしょげかえっている涼をもう一度深く抱きしめ、シャツのボタンをゆっくりと留めてやると、俯いていた涼がもどかしそうに訴えた。
「でも僕の方が、辛いかも……」
どこか所在なさげな涼の様子にもしかしてと思い、すっと下半身に触れると、涼のそれは硬くなっていた。
「涼、ここ我慢できない?」
「あっ」
トンっと指先でノックするように叩くと、涼が真っ赤な顔でコクリと頷いた。叱られた子供のような可愛い仕草にドキッとしてしまう。
「俺がしてやる」
ズボンのベルトを外し下着ごと床へ落としてやる。それから徐々に硬くなって来ている小振りだが形の良いそこへ、ゆっくりと手を這わせていく。
「えっ? あっ駄目だよ……そんな」
撫でるように擦ってよく揉み込んでやると、一気に硬さを増していく。さらに手で輪を作り搾り取るように扱いていけば、ジュッと先から蜜が垂れてくるので指先で絡めとってやる。
「くっ……んっ安志さん、駄目」
必死に抗おうとする涼を押さえこむように壁に立たせ、しゃがみこんで涼のものを口にパクっと含んでやった。
「あっ! 」
涼は恥ずかしいのか、必死に俺の肩を手で押して離れようとしてくる。
「涼、大丈夫だ。少し力を抜いて」
「でも僕ばかりっ」
先端をつっつくに舌先で苛め、口奥まで含んで吸ったりしていると、涼の躰が堪らないといった様子でふるふると小刻みに震えてくる。
ジュッと音が立つほど吸い上げてやると、涼はつま先を震わせ小さく喘いだ。すっかり勃ってしまった涼のそこからピュッと迸ったものを嚥下してやると、ぽたっと水滴が背筋に落ちて来た。
「……涼?」
見上げると涼がポロポロと泣いていた。
はぁはぁと肩で息をして、顔を羞恥で紅色に染めて。
あっこれ涙か!
「わっごめん。嫌だったか」
「違う……」
「じゃあ、どうして泣いてる?」
「だって恥ずかしかった。僕ばかりこんなになって」
「馬鹿だな、自然なことだよ。むしろ涼がこんに濡らしてくれて嬉しかったよ」
「今度は安志さんの番だ」
「っふ…」
どうしようか、明日の朝早い涼に負担をかけたくない。歯止めが効かなくなりそうで、怖いんだ。
迷っていると、今度は俺のスマホが鳴ったので二人で顔を見合わせて苦笑してしまった。
「安志さん、今日はなんだかタイミング悪いね」
「そういう日もあるさ。雨が降ったり晴れたりするのと同じだよ」
そうだ。これから先こんなことはいくらでもあるだろう。
すれ違ってしまう時。
タイミングが合わない時。
いつもいつもがベストでいい日ばかりじゃない。
でもそういう風にずれている時こそ無駄に足掻くことなく、丁寧に過ごして行きたい。涼とは長く長くずっと一緒にいたいから。
「もしもし?」
「あっ安志? 悪い、もう寝ていたか」
「洋か。全くいつもタイミングいいな」
「あっもしかして……今まずかった? 」
電話先の相手は、またしても洋だった。こいつは本当は狙ってかけて来るのか。
なんだか脱力してしまって「はぁ…」と溜息をつくと、電話の向こうで洋の狼狽する様子が見えるようで、苦笑してしまった。
「ごめん……」
「いいって」
****
これから先、きっと涼とのことでいろいろと戸惑うことも多いだろう。そんな時は、今日俺が取ってしまった浅はかな行動を思い出していきたい。
星が見えたり、見えなかったり。
月が見えたり、見えなかったり。
あるはずのものが見えないことがある。
予定した通りに行かない日がある。
でも、ちゃんと見えなくても、確かに存在しているんだな。
涼が俺を想ってくれる気持ち。
俺が涼を想う気持ち。
そこがしっかりと存在していることを忘れずに、この先、涼と歩んで行きたい。
『戸惑い』了
「ふっ……涼、可愛いな」
さっき実は涼の友人に嫉妬したということも話してしまおうかとも思ったが、もう涼にはすべて分かっているような気がして言わないでおいた。その分涼が甘い言葉で俺を満たそうとしてくれるから。俺が今から涼をもらえばいいかなんて、肩の力が抜けたように思ってしまった。
涼の着ていたダッフルコートを脱がしマフラーも外し、どんどん薄着にさせて行く。早く肌と肌がぴったりと触れ合う距離まで近づいてお互いの不安を分け合いたい。そう急く気持ちでいっぱいだ。
裸にした涼の綺麗な上半身を抱き寄せて自分の躰と密着させれば、涼の心臓の鼓動が直に伝わって来る。
トクトクトク……
規則正しくも早い鼓動。
涼の溢れる気持ちのようで、俺の心臓も同じように反応していくよ。ほっとする……涼がここにいるということを実感できて。
「安志さん……好き」
その時、涼のジーンズのポケットに入っていたスマホが鳴った。涼と抱き合ったまま、どうしようかと見つめ合ったが、呼び出し音が止む気配がなかった。
「涼、電話に出ないと」
「でも……」
「仕事のかもしれないだろう」
促すように声をかけ、涼を離してやった。
「もしもし。あっマネージャー! すみません。まだ出先です。明日の早朝ですか。はい大学に行く前なら時間が取れます。了解しました、では……」
通話終了ボタンを押した涼が気まずそうに、こちらを見た。だいたいのことは察せられたので、俺は涼に脱がしたばかりのシャツをまた羽織らせてやった。
「仕事か」
「うん……なんだか撮影の手直しがあるみたいで、朝迎えに来るって」
「そっか。じゃあ今日はもう帰らないとな。車で送ってやるよ」
「でも……」
仕事なんだからしょうがない。俺だって何年も社会人をやっているのだから、そういう融通のきかない時があること位分かっている。
「大丈夫だ、こうやって来てくれたことで今日は十分満たされたよ。ありがとう」
「安志さん、僕こんなつもりじゃなかったのに……」
「おいおい涼、モデルの仕事では、こんなことこれから先いくらでもあるよ。大丈夫だ」
すっかりしょげかえっている涼をもう一度深く抱きしめ、シャツのボタンをゆっくりと留めてやると、俯いていた涼がもどかしそうに訴えた。
「でも僕の方が、辛いかも……」
どこか所在なさげな涼の様子にもしかしてと思い、すっと下半身に触れると、涼のそれは硬くなっていた。
「涼、ここ我慢できない?」
「あっ」
トンっと指先でノックするように叩くと、涼が真っ赤な顔でコクリと頷いた。叱られた子供のような可愛い仕草にドキッとしてしまう。
「俺がしてやる」
ズボンのベルトを外し下着ごと床へ落としてやる。それから徐々に硬くなって来ている小振りだが形の良いそこへ、ゆっくりと手を這わせていく。
「えっ? あっ駄目だよ……そんな」
撫でるように擦ってよく揉み込んでやると、一気に硬さを増していく。さらに手で輪を作り搾り取るように扱いていけば、ジュッと先から蜜が垂れてくるので指先で絡めとってやる。
「くっ……んっ安志さん、駄目」
必死に抗おうとする涼を押さえこむように壁に立たせ、しゃがみこんで涼のものを口にパクっと含んでやった。
「あっ! 」
涼は恥ずかしいのか、必死に俺の肩を手で押して離れようとしてくる。
「涼、大丈夫だ。少し力を抜いて」
「でも僕ばかりっ」
先端をつっつくに舌先で苛め、口奥まで含んで吸ったりしていると、涼の躰が堪らないといった様子でふるふると小刻みに震えてくる。
ジュッと音が立つほど吸い上げてやると、涼はつま先を震わせ小さく喘いだ。すっかり勃ってしまった涼のそこからピュッと迸ったものを嚥下してやると、ぽたっと水滴が背筋に落ちて来た。
「……涼?」
見上げると涼がポロポロと泣いていた。
はぁはぁと肩で息をして、顔を羞恥で紅色に染めて。
あっこれ涙か!
「わっごめん。嫌だったか」
「違う……」
「じゃあ、どうして泣いてる?」
「だって恥ずかしかった。僕ばかりこんなになって」
「馬鹿だな、自然なことだよ。むしろ涼がこんに濡らしてくれて嬉しかったよ」
「今度は安志さんの番だ」
「っふ…」
どうしようか、明日の朝早い涼に負担をかけたくない。歯止めが効かなくなりそうで、怖いんだ。
迷っていると、今度は俺のスマホが鳴ったので二人で顔を見合わせて苦笑してしまった。
「安志さん、今日はなんだかタイミング悪いね」
「そういう日もあるさ。雨が降ったり晴れたりするのと同じだよ」
そうだ。これから先こんなことはいくらでもあるだろう。
すれ違ってしまう時。
タイミングが合わない時。
いつもいつもがベストでいい日ばかりじゃない。
でもそういう風にずれている時こそ無駄に足掻くことなく、丁寧に過ごして行きたい。涼とは長く長くずっと一緒にいたいから。
「もしもし?」
「あっ安志? 悪い、もう寝ていたか」
「洋か。全くいつもタイミングいいな」
「あっもしかして……今まずかった? 」
電話先の相手は、またしても洋だった。こいつは本当は狙ってかけて来るのか。
なんだか脱力してしまって「はぁ…」と溜息をつくと、電話の向こうで洋の狼狽する様子が見えるようで、苦笑してしまった。
「ごめん……」
「いいって」
****
これから先、きっと涼とのことでいろいろと戸惑うことも多いだろう。そんな時は、今日俺が取ってしまった浅はかな行動を思い出していきたい。
星が見えたり、見えなかったり。
月が見えたり、見えなかったり。
あるはずのものが見えないことがある。
予定した通りに行かない日がある。
でも、ちゃんと見えなくても、確かに存在しているんだな。
涼が俺を想ってくれる気持ち。
俺が涼を想う気持ち。
そこがしっかりと存在していることを忘れずに、この先、涼と歩んで行きたい。
『戸惑い』了
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