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第7章
期待と不安 5
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「洋兄さん、お帰りなさい」
「ただいま。ふっ……何だか照れるね」
「僕も……」
「ごめんね。小さな子みたいに抱きしめちゃったりして」
そう言いながら洋兄さんが埋めていた顔を離していく時、その柔らかな髪の毛が僕の鼻筋にあたり、くすぐったくて思わず笑みが漏れてしまった。すると一気に緊張が解けて、すぐ隣に立っている丈さんに声を掛けることが出来た。
「あなたが丈さんだったのですね……また会えましたね」
「涼くん。きっとまた会えると思っていたよ。あの時は名乗れず、すまなかった」
「いいんです。そんなこと。ちょっとびっくりしたけど……それよりあの時は助けていただいてありがとうございます」
「もう怪我もすっかりいいみたいだね。痕にならなかった? 」
「はい、大丈夫でした」
丈さんの大人びて静かで落ち着いた低音の声は、聴いていて心地よかった。アメリカで助けられた時は僕もショックで混乱していて、ゆっくり顔を見ることができなかったけど、改めて丈さんの顔を見上げると、吸い込まれるように端正で思慮深い落ち着いた雰囲気で、男らしく素敵だと思った。背が高く少し長めの黒髪の向こうに穏やかな静かな眼差しが控えていた。
流石、洋兄さんの相手だ。この人と洋兄さんが……なんてあれこれ頭の中で想像して……勝手に顔が火照ってきてしまう。
「涼、何照れているんだ? こっちこいよ」
コツンとおでこを指ではじかれ、はっとすると、安志さんにぐいっと腕を掴まれて、大きく一歩後退させられた。なんかその安志さんの動作が可愛くて、もしかして妬いてくれたのなんて思ってしまった。
『ねぇあの子たちそっくり、美形兄弟? 双子かな』
『美しい~少女漫画の世界ね~』
ふと冷静になると、周りのざわめきが聴こえて来た。そうか洋兄さんのことを言っているんだな。僕なんかよりもずっと美しく趣のある洋兄さんの美貌は、従兄弟の僕でも惚れちゃう位だもんな。洋兄さんのことを褒められると、すごく嬉しい気持ちになるよ。
到着ロビーで立ち尽くす男4人の姿が珍しかったのか周りに注目されだしたので、とりあえず安志さんの運転する車に移動した。
早速、僕は今日の宿泊先の提案をしてみた。
「えっ本当に、俺が涼の家に泊まってもいいのか」
洋兄さんは嬉しそうに目を輝かしてくれた。
「もちろんだよ。今日はもう夕方だし、丈さんとは明日の朝また会えばいいよね」
「あぁ、なぁ丈、そうしてもいいか」
洋兄さんは少し甘えた声になっていた。
へぇ……なんか可愛い。洋兄さんはこんな風に恋人に甘えるのか。
「……えっ? あぁ……で、私はどこに泊まればいいのだ? 」
「安志さんの家でもいいですか」
「え……」
安志さんも丈さんも顔を見合わせて苦笑していた。あれっ僕そんな変なこと言ったかな?
「まったく、涼と洋には敵わないだろ。ということで、俺んちで一晩我慢してくれよな」
丈さんも安志さんもちょっと顔がひきつっているけど、まぁ大丈夫だよな。とにかく洋兄さんと一緒に一晩過ごせることが嬉しくて堪らない。アメリカで会ってからずっとそうしてみたかった。アメリカでは住んでいる所すら教えてもらえなかったから。
まるで夢の世界の人みたいだったんだ。洋兄さんの存在が……僕とそっくりなのに、何もかも違っていた洋兄さん。やっと現実の人として、一緒に笑ったりできると思うと嬉しくて堪らないよ。
****
車で僕の家まで送ってもらって、安志さんと丈さんと別れた。
(一晩だけは洋兄さん貸してください。丈さんすいません)って心の中で呟いた。
「コーヒーどうぞ」
洋兄さんは笑顔で受け取り部屋をキョロキョロと見回していた。
「ありがとう。ここが涼の家なんだ。本当に君は日本に来て、大学生になっていたんだね」
「そうだよ。日本に来たのは洋兄さんに会いたくて来たのに」
「涼……ごめん。日本に俺がいなかったから、がっかりした? 」
「いや……洋兄さん理由があって離れていたと思うから大丈夫、あっでも一つだけ聞いてもいい?」
「んっなに?」
「丈さんがサマーキャンプで僕を助けてくれた時、もしかして洋兄さんも近くにいた? 」
「えっ……」
「その顔はやっぱりいたんだね。なのに何故? 」
洋兄さんの笑顔が突然固まった。酷なことを聞いているのかもしれない。
そう思うけれども、確認しておかないと。この先……僕だって、洋兄さんのことちゃんと守ってあげたいんだ。
僕は十歳も年下で頼りないかもしれないけれども、守るために知っておきたい。そう思うのはいけないことなのだろうか。
「ただいま。ふっ……何だか照れるね」
「僕も……」
「ごめんね。小さな子みたいに抱きしめちゃったりして」
そう言いながら洋兄さんが埋めていた顔を離していく時、その柔らかな髪の毛が僕の鼻筋にあたり、くすぐったくて思わず笑みが漏れてしまった。すると一気に緊張が解けて、すぐ隣に立っている丈さんに声を掛けることが出来た。
「あなたが丈さんだったのですね……また会えましたね」
「涼くん。きっとまた会えると思っていたよ。あの時は名乗れず、すまなかった」
「いいんです。そんなこと。ちょっとびっくりしたけど……それよりあの時は助けていただいてありがとうございます」
「もう怪我もすっかりいいみたいだね。痕にならなかった? 」
「はい、大丈夫でした」
丈さんの大人びて静かで落ち着いた低音の声は、聴いていて心地よかった。アメリカで助けられた時は僕もショックで混乱していて、ゆっくり顔を見ることができなかったけど、改めて丈さんの顔を見上げると、吸い込まれるように端正で思慮深い落ち着いた雰囲気で、男らしく素敵だと思った。背が高く少し長めの黒髪の向こうに穏やかな静かな眼差しが控えていた。
流石、洋兄さんの相手だ。この人と洋兄さんが……なんてあれこれ頭の中で想像して……勝手に顔が火照ってきてしまう。
「涼、何照れているんだ? こっちこいよ」
コツンとおでこを指ではじかれ、はっとすると、安志さんにぐいっと腕を掴まれて、大きく一歩後退させられた。なんかその安志さんの動作が可愛くて、もしかして妬いてくれたのなんて思ってしまった。
『ねぇあの子たちそっくり、美形兄弟? 双子かな』
『美しい~少女漫画の世界ね~』
ふと冷静になると、周りのざわめきが聴こえて来た。そうか洋兄さんのことを言っているんだな。僕なんかよりもずっと美しく趣のある洋兄さんの美貌は、従兄弟の僕でも惚れちゃう位だもんな。洋兄さんのことを褒められると、すごく嬉しい気持ちになるよ。
到着ロビーで立ち尽くす男4人の姿が珍しかったのか周りに注目されだしたので、とりあえず安志さんの運転する車に移動した。
早速、僕は今日の宿泊先の提案をしてみた。
「えっ本当に、俺が涼の家に泊まってもいいのか」
洋兄さんは嬉しそうに目を輝かしてくれた。
「もちろんだよ。今日はもう夕方だし、丈さんとは明日の朝また会えばいいよね」
「あぁ、なぁ丈、そうしてもいいか」
洋兄さんは少し甘えた声になっていた。
へぇ……なんか可愛い。洋兄さんはこんな風に恋人に甘えるのか。
「……えっ? あぁ……で、私はどこに泊まればいいのだ? 」
「安志さんの家でもいいですか」
「え……」
安志さんも丈さんも顔を見合わせて苦笑していた。あれっ僕そんな変なこと言ったかな?
「まったく、涼と洋には敵わないだろ。ということで、俺んちで一晩我慢してくれよな」
丈さんも安志さんもちょっと顔がひきつっているけど、まぁ大丈夫だよな。とにかく洋兄さんと一緒に一晩過ごせることが嬉しくて堪らない。アメリカで会ってからずっとそうしてみたかった。アメリカでは住んでいる所すら教えてもらえなかったから。
まるで夢の世界の人みたいだったんだ。洋兄さんの存在が……僕とそっくりなのに、何もかも違っていた洋兄さん。やっと現実の人として、一緒に笑ったりできると思うと嬉しくて堪らないよ。
****
車で僕の家まで送ってもらって、安志さんと丈さんと別れた。
(一晩だけは洋兄さん貸してください。丈さんすいません)って心の中で呟いた。
「コーヒーどうぞ」
洋兄さんは笑顔で受け取り部屋をキョロキョロと見回していた。
「ありがとう。ここが涼の家なんだ。本当に君は日本に来て、大学生になっていたんだね」
「そうだよ。日本に来たのは洋兄さんに会いたくて来たのに」
「涼……ごめん。日本に俺がいなかったから、がっかりした? 」
「いや……洋兄さん理由があって離れていたと思うから大丈夫、あっでも一つだけ聞いてもいい?」
「んっなに?」
「丈さんがサマーキャンプで僕を助けてくれた時、もしかして洋兄さんも近くにいた? 」
「えっ……」
「その顔はやっぱりいたんだね。なのに何故? 」
洋兄さんの笑顔が突然固まった。酷なことを聞いているのかもしれない。
そう思うけれども、確認しておかないと。この先……僕だって、洋兄さんのことちゃんと守ってあげたいんだ。
僕は十歳も年下で頼りないかもしれないけれども、守るために知っておきたい。そう思うのはいけないことなのだろうか。
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