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第7章
違う世界に 4
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突然の雑誌モデルの代役が降ってくるなんて驚いた。僕も安志さんも断って帰ろうとしたのに周りがそれを許してくれなかった。今……僕は半ば無理矢理スタッフの輪の中に放り込まれて、不躾な視線で全身を隈なくチェックされている。
「この子の髪型や洋服どうします? 着替えさせますか」
「んーこのままでも十分だな。この子はとにかく顔が美形だし髪の色も明るくて肌も綺麗だし、洋服のセンスもいい。全体的に大学生らしさもよく出ていて最高だ」
なんだか滅茶苦茶に褒められて、気恥ずかしくなってくる。
「えっと君の名前を教えてもらえるかな? 」
「月乃 涼(つきのりょう)です」
「へぇ涼くんか、綺麗な名前だね。このまま芸名になりそうだな」
「それと何歳? 今、大学生かな? 」
「あっはい。18歳で大学1年生です」
「あぁいいね。この撮影は女性誌の大学生のデート特集だから、ちょうどいいよ」
「はぁ……」
あれこれと矢継ぎ早の質問を浴びて、しどろもどろになってしまう。
それから有無も言わせずカメラの前に立たされた。
「カメラテストだからリラックスして」
「そうそう。躰の力抜いて」
そんな風に言われても、照明の人やカメラマン、スタッフの人と大勢の視線を浴びて、緊張しないはずはない。
安志さん何処にいるのかな。こんなことになるなんて……彼を一人で待たせてしまって大丈夫だろうか。視線を彷徨わせると入り口付近の柱に持たれている姿を見つけ、ほっとした。
でもやっぱりどことなくむっとしているように感じてしまう。
怒っているよな。急にこんな展開。僕だってついていけてないのに…
「さぁ始めるよ」
「はいっよろしくお願いします」
撮影が始まると同時に、綺麗にお化粧をしたミニスカートの可愛い女の子がやってきた。どうやらこの子と一緒に撮影するようだ。げ……撮影って……女の子と一緒だったのか。ますます安志さんのことが気になって来るが、とにかくもう足を踏み入れてしまったのだから、やれるだけのことはやらないと、永遠に終わりは来ない。
そう腹を括って望むことにした。
カシャカシャカシャ
立て続けに切られるカメラの音が心地よく感じる頃には躰の緊張も解け、自由にポーズを取れる余裕が出て来た。テンションも上がって女の子と肩を組んだり手を繋いで見つめ合うのも、ためらわず恥ずかしがらずに出来た。
だが……これは撮影だ。虚構の世界のことだ。
だって僕には安志さんという人がいるのだから。
「OK。じゃあ次はイルカショーね」
「えっこれで終わりじゃないんですか」
「君、モデルが本当に初めてとは思えない程、いいよ、何かやっていた? 撮られるのに慣れているね」
「いえ、本当にモデル経験なんてないです」
アメリカにいた頃、妙に同級生に写真は撮られまくっていたけど、それは関係ないだろう。それより早く終わらせて安志さんのところに戻りたい。ショー会場への移動中に安志さんとばっちり目が合った。不安そうに見つめると安志さんはニコっと微笑んで拳をあげて応援してくれた。
やっぱり恰好いいな。
男らしく大人っぽくて……僕はこんなに焦っているのに落ち着いている。早くあの胸に抱かれたい。あの日のように、またしてもらいたいなんて考えて、顔が熱くなってくる。
「涼くん疲れた? 顔が赤いわよ」
メイクさんに言われて、はっと我に返った。
「本当にお肌が綺麗ね。お化粧ほとんどいらないわ。あとはリップを少しだけ。あっでも、もともとの唇の色が綺麗だから透明でいいかな」
「この子、若いのに妙な色気あるわねーなんでだろう」
好き勝手にいろんなことを耳元で言われて居場所に困ってしまう。僕に色気があるって? でももしそうだとしたら、それは安志さんのことが好きな気持ちだ。やっと僕だけのことを見てくれた安志さんのことが、好きで好きで堪らない気持ちが漏れているのかもしれない。
イルカのショーは夜になると一層幻想的だった。
イルミネーションの雪の映像と水滴が混ざり合って、その中で跳びはねるイルカが、現実のものとは思えないほど美しかった。でもこんなに可愛い女の子が横にいても、笑顔を向けられても、僕の心はときめいたりはしない。それよりも撮影を順調に早く終わらせれば、それだけ早く安志さんの元に戻れる。そればかり最初は考えてしまう。
ところが、撮影が進むうちになんだか不思議な気分になってきた。
妙な高揚感というのか、自分の顔を撮影してもらうのが楽しくなってきた。ポーズを取ったり目線を決めたり、自由に自分をアピールしていくことに妙な興奮を覚えた。
僕のこの顔は洋兄さんに本当にそっくりだ。いつも帽子を目深に被って、綺麗すぎる顔を隠してトラブルを減らそうとしていた印象が強くて……いつの間にか成長するにつれ、僕も自分の顔に自信がなくなり一目を避けるように意識していたことを思い出していた。
本当は俯かずに上を見上げて生きていきたいと思っている。それが本音だ。
洋兄さんもきっと同じことを思っているはずだ。もしかしてモデルという仕事なら、そういう仕事に就けたのなら、それも叶わぬ夢じゃないのかもしれない。
「お疲れさまー」
「君すごく良かったよ、初めてなのに頑張ったな」
「あっありがとうございます」
「いやいや本当に今すぐにでもスカウトしたいな」
「それは……ちょっと」
心の声を見透かされていたようで極まりが悪い。それにいくらなんでも急すぎる。今日は突然だったし……
「前向きに考えてみて欲しいな。それとこの雑誌の特集、次はスタジオで撮影予定だが、病院に運ばれたモデルの男の子が一か月の入院になってしまったから、君が続きをやってくれないか」
「えっ」
「水族館からの繋がりだから、同じ人物じゃないとまずいんだよな。乗りかかった舟ということで頼むよ」
「……」
困ったことになった。今日限りと思っていたのに。でも心の奥底でチャンスを無駄にしたくないという気持ちがあることに、気が付いてしまった。
こんなこと安志さんはどう思うだろうか。
はたして応援してもらえるだろうか。
「この子の髪型や洋服どうします? 着替えさせますか」
「んーこのままでも十分だな。この子はとにかく顔が美形だし髪の色も明るくて肌も綺麗だし、洋服のセンスもいい。全体的に大学生らしさもよく出ていて最高だ」
なんだか滅茶苦茶に褒められて、気恥ずかしくなってくる。
「えっと君の名前を教えてもらえるかな? 」
「月乃 涼(つきのりょう)です」
「へぇ涼くんか、綺麗な名前だね。このまま芸名になりそうだな」
「それと何歳? 今、大学生かな? 」
「あっはい。18歳で大学1年生です」
「あぁいいね。この撮影は女性誌の大学生のデート特集だから、ちょうどいいよ」
「はぁ……」
あれこれと矢継ぎ早の質問を浴びて、しどろもどろになってしまう。
それから有無も言わせずカメラの前に立たされた。
「カメラテストだからリラックスして」
「そうそう。躰の力抜いて」
そんな風に言われても、照明の人やカメラマン、スタッフの人と大勢の視線を浴びて、緊張しないはずはない。
安志さん何処にいるのかな。こんなことになるなんて……彼を一人で待たせてしまって大丈夫だろうか。視線を彷徨わせると入り口付近の柱に持たれている姿を見つけ、ほっとした。
でもやっぱりどことなくむっとしているように感じてしまう。
怒っているよな。急にこんな展開。僕だってついていけてないのに…
「さぁ始めるよ」
「はいっよろしくお願いします」
撮影が始まると同時に、綺麗にお化粧をしたミニスカートの可愛い女の子がやってきた。どうやらこの子と一緒に撮影するようだ。げ……撮影って……女の子と一緒だったのか。ますます安志さんのことが気になって来るが、とにかくもう足を踏み入れてしまったのだから、やれるだけのことはやらないと、永遠に終わりは来ない。
そう腹を括って望むことにした。
カシャカシャカシャ
立て続けに切られるカメラの音が心地よく感じる頃には躰の緊張も解け、自由にポーズを取れる余裕が出て来た。テンションも上がって女の子と肩を組んだり手を繋いで見つめ合うのも、ためらわず恥ずかしがらずに出来た。
だが……これは撮影だ。虚構の世界のことだ。
だって僕には安志さんという人がいるのだから。
「OK。じゃあ次はイルカショーね」
「えっこれで終わりじゃないんですか」
「君、モデルが本当に初めてとは思えない程、いいよ、何かやっていた? 撮られるのに慣れているね」
「いえ、本当にモデル経験なんてないです」
アメリカにいた頃、妙に同級生に写真は撮られまくっていたけど、それは関係ないだろう。それより早く終わらせて安志さんのところに戻りたい。ショー会場への移動中に安志さんとばっちり目が合った。不安そうに見つめると安志さんはニコっと微笑んで拳をあげて応援してくれた。
やっぱり恰好いいな。
男らしく大人っぽくて……僕はこんなに焦っているのに落ち着いている。早くあの胸に抱かれたい。あの日のように、またしてもらいたいなんて考えて、顔が熱くなってくる。
「涼くん疲れた? 顔が赤いわよ」
メイクさんに言われて、はっと我に返った。
「本当にお肌が綺麗ね。お化粧ほとんどいらないわ。あとはリップを少しだけ。あっでも、もともとの唇の色が綺麗だから透明でいいかな」
「この子、若いのに妙な色気あるわねーなんでだろう」
好き勝手にいろんなことを耳元で言われて居場所に困ってしまう。僕に色気があるって? でももしそうだとしたら、それは安志さんのことが好きな気持ちだ。やっと僕だけのことを見てくれた安志さんのことが、好きで好きで堪らない気持ちが漏れているのかもしれない。
イルカのショーは夜になると一層幻想的だった。
イルミネーションの雪の映像と水滴が混ざり合って、その中で跳びはねるイルカが、現実のものとは思えないほど美しかった。でもこんなに可愛い女の子が横にいても、笑顔を向けられても、僕の心はときめいたりはしない。それよりも撮影を順調に早く終わらせれば、それだけ早く安志さんの元に戻れる。そればかり最初は考えてしまう。
ところが、撮影が進むうちになんだか不思議な気分になってきた。
妙な高揚感というのか、自分の顔を撮影してもらうのが楽しくなってきた。ポーズを取ったり目線を決めたり、自由に自分をアピールしていくことに妙な興奮を覚えた。
僕のこの顔は洋兄さんに本当にそっくりだ。いつも帽子を目深に被って、綺麗すぎる顔を隠してトラブルを減らそうとしていた印象が強くて……いつの間にか成長するにつれ、僕も自分の顔に自信がなくなり一目を避けるように意識していたことを思い出していた。
本当は俯かずに上を見上げて生きていきたいと思っている。それが本音だ。
洋兄さんもきっと同じことを思っているはずだ。もしかしてモデルという仕事なら、そういう仕事に就けたのなら、それも叶わぬ夢じゃないのかもしれない。
「お疲れさまー」
「君すごく良かったよ、初めてなのに頑張ったな」
「あっありがとうございます」
「いやいや本当に今すぐにでもスカウトしたいな」
「それは……ちょっと」
心の声を見透かされていたようで極まりが悪い。それにいくらなんでも急すぎる。今日は突然だったし……
「前向きに考えてみて欲しいな。それとこの雑誌の特集、次はスタジオで撮影予定だが、病院に運ばれたモデルの男の子が一か月の入院になってしまったから、君が続きをやってくれないか」
「えっ」
「水族館からの繋がりだから、同じ人物じゃないとまずいんだよな。乗りかかった舟ということで頼むよ」
「……」
困ったことになった。今日限りと思っていたのに。でも心の奥底でチャンスを無駄にしたくないという気持ちがあることに、気が付いてしまった。
こんなこと安志さんはどう思うだろうか。
はたして応援してもらえるだろうか。
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