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第5章
太陽の影 11
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キスしながら洋をベッドに横たえ、ギシリと体重をかけ重なっていく。
「今、ここで抱きたい」
そう告げると、洋が激しく動揺していくのが手に取るように伝わって来た。
「えっここで? だって義父さんやKentが下の階にいるのに……」
「だからだ」
「……丈……どういう意味? 」
唖然とした表情で私を見上げてくる、洋の少し開いた唇を奪う。
「んっ……んん…駄目っ」
洋は困惑したような表情を浮かべ、必死に覆いかぶさる私から逃げようとするので、その動きすらも封じ込めるように、洋の上に跨りその手を頭上で抑え込む。
「洋……お前は……心配ばかりかけて……」
「あっ…」
そのまま洋の細い喉を甘噛みしてやると、洋が顔を赤らめぎゅっと目を閉じ、躰から力を抜いていった。
「私がソウルで、家に帰った時の気持ちわかるか。お前が一人で解決したい気持ちも急いでいたことも分かるが、私だって心配で堪らなかった。またあんなことになったらと悪いことも考えてしまった」
「丈、ごめんっそれは……俺が悪かった」
必死に謝ってくる洋の様子が、親に叱られた小さな子供みたいで可愛く感じた。その頭を撫でてやりながら耳元で甘く囁く。洋の黒く柔らかい髪が指に絡まり心地良い。
「何もなくてよかった。でも涼くんが目の前で襲われている姿を見て、あの時の洋の姿と記憶が被ってしまったんだ。洋、あの時怖かっただろう……そして助けられなくてすまなかった」
「丈……」
洋の眼の端に涙が浮かぶ。
「うん……俺……怖かった。助けを求めても誰も来てくれなかった……本当に嫌で嫌で怖かった。絶望の淵を彷徨っていた」
「洋、それでいい……あの時の素直な気持ちを今ちゃんと聞かせてくれ」
その言葉に打たれたように、洋の口から言葉があふれ始めた。洋の記憶は五年前の義父からの凌辱シーンを彷徨い始めている。
「丈っ……丈を呼んだんだ。助けてって!心の中で何度も何度も……」
「洋……そうか……それから?」
洋の眼から溢れた涙はその柔らかな頬を伝い、シーツを濡らしていく。
「助けて欲しかった。身体がすごく痛かった……気持ち悪くて……嫌悪感が溢れた。すごく怖くて……動けなかった」
ぶるぶると震えだす肩をぎゅっと抱きしめ、洋の心の奥底をすべてさらけだせるように、誘導してやる。
「そうだな。洋、本当にあの時は辛かったな。痛かっただろう……気持ち悪かっただろう」
「あっ……うっ…うっ…」
洋の言葉はやがて嗚咽に変わり、涙がとめどなく流れ始めた。
その涙を吸い取るようにキスをしてやり、震える背中に手をまわし、擦ってやる。なだめるように、労わるように……心を込めて。
「俺は……俺は…」
もう興奮して呼吸が荒くなってきた洋が、訴えるように必死に何かを告げようとしている。
「洋、どうした?なんでも話せ。今日ここで話してしまえ。全部私がお前の悲しみを吸い取ってやるから大丈夫だ」
「あっ……俺は……義父に犯された。無理矢理に……犯されたくなかったのに、嫌だったのに」
洋の本心だ。
やっと聴けた。
その言葉を受け止めた後、洋の唇をキスでしっかりと塞いでやる。もうこれ以上辛いことを話さないでいいように、キスを深めてやる。
「洋、ちゃんと言えたな。偉かったな。もういいんだよ。十分だ。今日ここで洋を抱きたいと言ったのは、その時のことを乗り越えたいから……あの時救えなかったことを私もこの五年間ずっと後悔している。せめてあの時の洋の気持ちだけでも救わせてくれ。一緒に乗り越えたいんだ」
「そうだったのか……丈……俺を抱いて。ここで俺を抱けよ。義父のあの感覚を忘れたい。五年だ。五年経っても思い出す……あの日の悪夢ともう別れたい」
「抱いてやる。ここで抱くことに意味があるんだ。お前はもうお義父さんのものではない。自分の意志で生きている。そして自分の意志で私に抱かれる。私も私の意志でお前を抱く」
「丈……丈……君が好きだ。この溢れる想いはなんだろう。何年経っても変わらないこの熱い気持ちは」
「同じだ、月が重なるようにぴったりと同じ気持ちなんだ。私たちはいつだって、これから先もずっとそれは続く」
目を閉じれば、あの時救えなかった5年前の洋が震えている。
絶望しうなだれて、ホテルの部屋で一人蹲っている姿が見える。
膝を抱え、肩が細かく揺れている。
あんな目に遭わせたくなかった。
あの時私はすでに洋の横にいたのに……
救えなかった。
守れなかった。
その後悔の念は五年間、私の心の奥底でずっとくすぶって来た。
乱暴かもしれないが、今あの時洋を犯した相手がいる家で、今度は私が洋を抱く。
そして、洋も自分の意志で私に抱かれる。
乗り越えたい。一緒に歩みたい。
だからこの場所で、重なろう。
「今、ここで抱きたい」
そう告げると、洋が激しく動揺していくのが手に取るように伝わって来た。
「えっここで? だって義父さんやKentが下の階にいるのに……」
「だからだ」
「……丈……どういう意味? 」
唖然とした表情で私を見上げてくる、洋の少し開いた唇を奪う。
「んっ……んん…駄目っ」
洋は困惑したような表情を浮かべ、必死に覆いかぶさる私から逃げようとするので、その動きすらも封じ込めるように、洋の上に跨りその手を頭上で抑え込む。
「洋……お前は……心配ばかりかけて……」
「あっ…」
そのまま洋の細い喉を甘噛みしてやると、洋が顔を赤らめぎゅっと目を閉じ、躰から力を抜いていった。
「私がソウルで、家に帰った時の気持ちわかるか。お前が一人で解決したい気持ちも急いでいたことも分かるが、私だって心配で堪らなかった。またあんなことになったらと悪いことも考えてしまった」
「丈、ごめんっそれは……俺が悪かった」
必死に謝ってくる洋の様子が、親に叱られた小さな子供みたいで可愛く感じた。その頭を撫でてやりながら耳元で甘く囁く。洋の黒く柔らかい髪が指に絡まり心地良い。
「何もなくてよかった。でも涼くんが目の前で襲われている姿を見て、あの時の洋の姿と記憶が被ってしまったんだ。洋、あの時怖かっただろう……そして助けられなくてすまなかった」
「丈……」
洋の眼の端に涙が浮かぶ。
「うん……俺……怖かった。助けを求めても誰も来てくれなかった……本当に嫌で嫌で怖かった。絶望の淵を彷徨っていた」
「洋、それでいい……あの時の素直な気持ちを今ちゃんと聞かせてくれ」
その言葉に打たれたように、洋の口から言葉があふれ始めた。洋の記憶は五年前の義父からの凌辱シーンを彷徨い始めている。
「丈っ……丈を呼んだんだ。助けてって!心の中で何度も何度も……」
「洋……そうか……それから?」
洋の眼から溢れた涙はその柔らかな頬を伝い、シーツを濡らしていく。
「助けて欲しかった。身体がすごく痛かった……気持ち悪くて……嫌悪感が溢れた。すごく怖くて……動けなかった」
ぶるぶると震えだす肩をぎゅっと抱きしめ、洋の心の奥底をすべてさらけだせるように、誘導してやる。
「そうだな。洋、本当にあの時は辛かったな。痛かっただろう……気持ち悪かっただろう」
「あっ……うっ…うっ…」
洋の言葉はやがて嗚咽に変わり、涙がとめどなく流れ始めた。
その涙を吸い取るようにキスをしてやり、震える背中に手をまわし、擦ってやる。なだめるように、労わるように……心を込めて。
「俺は……俺は…」
もう興奮して呼吸が荒くなってきた洋が、訴えるように必死に何かを告げようとしている。
「洋、どうした?なんでも話せ。今日ここで話してしまえ。全部私がお前の悲しみを吸い取ってやるから大丈夫だ」
「あっ……俺は……義父に犯された。無理矢理に……犯されたくなかったのに、嫌だったのに」
洋の本心だ。
やっと聴けた。
その言葉を受け止めた後、洋の唇をキスでしっかりと塞いでやる。もうこれ以上辛いことを話さないでいいように、キスを深めてやる。
「洋、ちゃんと言えたな。偉かったな。もういいんだよ。十分だ。今日ここで洋を抱きたいと言ったのは、その時のことを乗り越えたいから……あの時救えなかったことを私もこの五年間ずっと後悔している。せめてあの時の洋の気持ちだけでも救わせてくれ。一緒に乗り越えたいんだ」
「そうだったのか……丈……俺を抱いて。ここで俺を抱けよ。義父のあの感覚を忘れたい。五年だ。五年経っても思い出す……あの日の悪夢ともう別れたい」
「抱いてやる。ここで抱くことに意味があるんだ。お前はもうお義父さんのものではない。自分の意志で生きている。そして自分の意志で私に抱かれる。私も私の意志でお前を抱く」
「丈……丈……君が好きだ。この溢れる想いはなんだろう。何年経っても変わらないこの熱い気持ちは」
「同じだ、月が重なるようにぴったりと同じ気持ちなんだ。私たちはいつだって、これから先もずっとそれは続く」
目を閉じれば、あの時救えなかった5年前の洋が震えている。
絶望しうなだれて、ホテルの部屋で一人蹲っている姿が見える。
膝を抱え、肩が細かく揺れている。
あんな目に遭わせたくなかった。
あの時私はすでに洋の横にいたのに……
救えなかった。
守れなかった。
その後悔の念は五年間、私の心の奥底でずっとくすぶって来た。
乱暴かもしれないが、今あの時洋を犯した相手がいる家で、今度は私が洋を抱く。
そして、洋も自分の意志で私に抱かれる。
乗り越えたい。一緒に歩みたい。
だからこの場所で、重なろう。
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