重なる月

志生帆 海

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第4章

※安志編※ 太陽の欠片 8

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summer camp 3

 まただ……

 僕のことを見つめる視線を感じる。
 これは邪なものなのか否か、分からない。

 バンガロー近くの小さな池で釣りをしていると、ふと俺を射抜くような熱い視線を感じた。あたりを見回しても、釣りに夢中になっているビリー達以外いない。

 一体誰だ?

「Ryo、何キョロキョロしてるんだよ。どうした?」

 隣にいたビリーが不思議そうに声を掛けてくれたが、何か分からない不安な視線を感じたなんて、またあらぬ誤解を受けそうだから、僕は適当に話を逸らした。

「いや、そういえば、この池の向こうにあるのは立派な家だな」
「あー本当だ。個人の別荘っぽいな」
「優雅だな、こんな場所にあんなに大きな別荘を構えるなんて」
「そうだな。俺もいつかそんな身分になりたいぜ」
「そうだな!その時はヴァカンスに招待してくれ。ビリーはその頃にはRisaと結婚しているのかもな」
「Ryoっよしてくれよ。まだまだ俺の人生は終わってない」
「ビリーお前な~Lisaに失礼じゃないか。完璧な彼女じゃないか」
「なんだよRyo? もしかしてLisaのことが気になっているのか」
「そういうことじゃなくてっ、はぁ全く……」

 変な所をビリーに突っ込まれて、焦ってしまう。今、僕が気になっているのは安志さんだけだ。

 偶然乗りあわせた飛行機の中で、懐かしさ溢れる恋するような目で見つめてきたかと思ったら、その後凄く落胆してしまった安志さんの表情が、今でも頭から離れない。

 あんなに実直そうな人が酷く暗い表情をするなんて、その理由を知りたくてしょうがなかった。

 幼い頃からアメリカ育ちの僕の周りにはいなかった控えめで、自分のことよりも相手のことを優先させてしまうお人好しの安志さん。そんな風に相手の幸せを一番に考える安志さんのことが好きだ。知れば知る程、その人柄に惹かれてしまった。

 それがまさか僕の大好きな洋兄さんの幼馴染だったなんて、縁を感じずにいられない。

 安志さんは僕の……誰にも見せていなかった弱い部分をそっと撫でてくれるような優しい人なんだ。

 安志さん……

「会いたいな…」

 頭の中に募る想いが、ぽろりと口から漏れてしまった。それをビリーが聴き漏らすはずもなく。

「Ryo、お前は今誰と付き合ってるんだ?」
「えっ!なんで」
「プロムでエスコートしたJuneは、このキャンプには来なかったじゃないか、もう別れたのか」
「いや彼女とは、そもそも付き合ってないし…… Juneもステディな相手がいなかったから、エスコートしたただけさ」
「ふーん、じゃあこのキャンプに連れて来たLisaの友達の子はどうだ? 胸も大きくて可愛いタイプじゃないか。Ryoの好みそうなおしとやかそうな女の子を探したんだぜ」
「ははっ……ありがとう。でも今は僕はいいよ。来月には日本に行くし」
「もしかして日本で誰か待っているのか」
「えっ!いないよ、そんな彼女なんて…」

 全くビリーの奴は相変わらず鋭いな。でも絶対悟られたくない。

 安志さんとのことは大切にしたい。まだ始まったばかりの僕の淡い恋。これから大切に育んでいきたい想いなのだから。

 安志さんが僕の到着を日本で待っていてくれる。僕も早く安志さんの待っている場所に行きたいよ。

 二人同じ場所で並んで、全てはそこからスタートさせたい。


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