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第3章
決心 1
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バイクで来た道を戻っていく。それはどんどん丈から離れていくことを意味していた。
「これでいい……こうするしかない」
自分を納得させたくて、何度も何度も繰り返す言い訳のような言葉を撒き散らしながら、俺はひたすらにバイクを走らせた。
「あら洋くんお帰りなさい。早かったのね」
「あっ……おばさん。はい、用事は終わったので戻りました」
「そうなの?洋くん、もしかして、また泣いたの? あなた……今凄く苦しそうな顔してるわ」
おばさんはそう言って俺の頭をそっと撫でてくれた。優しさに触れて、零れそうな涙をぐっと堪えた。このまま泣き叫びたい気分だった。
「おばさんは……母さんと似ています」
「そう?」
「ええ、そうやってよく俺が落ち込んでいる時、いつも頭を撫でてくれました」
「ねぇ……おばさんに何か出来ることない? もしかしたら洋くん……独りで抱えていることがあるんじゃない?」
「ありがとうございます。でも今日で解決したので……大丈夫です」
「……そう?でも、そんな顔して……ねぇ今は言えなくても言いたくなったらいつでも我が家にいらっしゃい」
「……はい」
安志の部屋に戻ると、途端に魂が抜けたように絨毯の上にぺたりと座り込んでしまった。せき止めていたものが溢れ出るのを感じ、泣き声が漏れないように慌てて布団に潜り、声を殺して泣いた。
こんなに男のくせに泣いてばかりで、俺は本当にどうしたんだろう。
ずっと耐えてきたのに。
しばらくすると階段を上って来る足音が聞こえて来た。安志だ。
「洋?なんでこんな早く帰って来た?アイツとちゃんと話したのか」
「あぁ……話した」
「そうかよかった。アイツ……何て言ってた?」
「別に……もう……すべて終わったから」
「はっ?洋、終わったってなんだよ?」
安志の声が険しくなった。
「だから……さよならを……告げてきた」
「はぁ? お前馬鹿か? なんでそんな風にしか生きられないんだよ!いつもいつも!」
「だって……しょうがないじゃないか」
「お前はいつも逃げている!すべてのことから! 自分さえ我慢すればいいと、どうせ今回も思ってるんだろう!」
だってそうじゃないか。こんな顔もこんな躰も望んでいなかった。この顔と躰のせいで母がいなくなってから、俺が望んでいないことばかりが降りかかってきて、もう限界なんだよ!
とどめは……養父に抱かれるという有様じゃないか。義父さんだって、もし俺がこんな女みたいな容姿じゃなかったら、母と瓜二つと言われるような顔をしていなければ、きっとあんなことしなかったんじゃないか。
俺のこの容姿は、俺が一番憎むもの。でも一方で俺の大切な母さんを彷彿させる唯一の大切なものでもあるんだ。
とにかくこんな矛盾だらけの人生にもう辟易していた。
「もう俺なんて……早く生まれ変わって次の世に行きたい。こんな生き方嫌だ!もう生きていられない……死にたいよ……」
思わずこぼれた心の本音。それに呼応するように耳元で大きな音が鳴り響いた。
パシッ!
安志に、いきなり頬を強く打たれた。
「痛っ……安志、なんで?」
俺はヒリヒリする頬を手で抑え、安志が何故こんなことをと不思議に思って見上げた。
「洋いい加減にしろ!そんな奴だと思わなかった。しっかりしろよ。なんのために俺が背中を押したと思ってんだ!そうやって逃げるためか。洋が死を望む、選ぶためなんかじゃない!」
「……」
「俺は……俺はお前に笑って欲しいから……」
安志の方が涙目になって声が掠れてくるのと同時に、俺のことを想う真剣な眼差しに心を打たれる。
「安志……」
「洋、頼むからそんな悲しいこと言うな。何があったにせよ、洋がお義父さんに対しての負い目があって抵抗できなかったにせよ、あれは間違ってる。育ての親がそんなことをしてはいけない。なぁ、一緒に考えさせてくれよ。お義父さんから逃れる方法を、お前が幸せになれる道を……手伝いたいんだ!」
「なんでこんな俺のために、お前がそこまで……」
「馬鹿!何度も言わせんな!お前のことが好きだからだよ!報われない想いでもいいんだ。報われないのなら、せめて洋……お前には幸せになって欲しい。そうしないと俺の気が済まない」
なんてこというんだよ、安志。
こんな自分の生き方もままならない俺のために……どうしてそこまで想ってくれるのだろう。こんなに深い愛情と友情をくれる安志に報いたい。そう思った。心の底から。
「安志……お前は本当にいい奴すぎる。こんな俺のためにそこまで」
「今から話す、俺の提案を聞いてくれるか」
「あぁ……聞くよ、聞く。こんな俺のために、本当にありがとう」
「これでいい……こうするしかない」
自分を納得させたくて、何度も何度も繰り返す言い訳のような言葉を撒き散らしながら、俺はひたすらにバイクを走らせた。
「あら洋くんお帰りなさい。早かったのね」
「あっ……おばさん。はい、用事は終わったので戻りました」
「そうなの?洋くん、もしかして、また泣いたの? あなた……今凄く苦しそうな顔してるわ」
おばさんはそう言って俺の頭をそっと撫でてくれた。優しさに触れて、零れそうな涙をぐっと堪えた。このまま泣き叫びたい気分だった。
「おばさんは……母さんと似ています」
「そう?」
「ええ、そうやってよく俺が落ち込んでいる時、いつも頭を撫でてくれました」
「ねぇ……おばさんに何か出来ることない? もしかしたら洋くん……独りで抱えていることがあるんじゃない?」
「ありがとうございます。でも今日で解決したので……大丈夫です」
「……そう?でも、そんな顔して……ねぇ今は言えなくても言いたくなったらいつでも我が家にいらっしゃい」
「……はい」
安志の部屋に戻ると、途端に魂が抜けたように絨毯の上にぺたりと座り込んでしまった。せき止めていたものが溢れ出るのを感じ、泣き声が漏れないように慌てて布団に潜り、声を殺して泣いた。
こんなに男のくせに泣いてばかりで、俺は本当にどうしたんだろう。
ずっと耐えてきたのに。
しばらくすると階段を上って来る足音が聞こえて来た。安志だ。
「洋?なんでこんな早く帰って来た?アイツとちゃんと話したのか」
「あぁ……話した」
「そうかよかった。アイツ……何て言ってた?」
「別に……もう……すべて終わったから」
「はっ?洋、終わったってなんだよ?」
安志の声が険しくなった。
「だから……さよならを……告げてきた」
「はぁ? お前馬鹿か? なんでそんな風にしか生きられないんだよ!いつもいつも!」
「だって……しょうがないじゃないか」
「お前はいつも逃げている!すべてのことから! 自分さえ我慢すればいいと、どうせ今回も思ってるんだろう!」
だってそうじゃないか。こんな顔もこんな躰も望んでいなかった。この顔と躰のせいで母がいなくなってから、俺が望んでいないことばかりが降りかかってきて、もう限界なんだよ!
とどめは……養父に抱かれるという有様じゃないか。義父さんだって、もし俺がこんな女みたいな容姿じゃなかったら、母と瓜二つと言われるような顔をしていなければ、きっとあんなことしなかったんじゃないか。
俺のこの容姿は、俺が一番憎むもの。でも一方で俺の大切な母さんを彷彿させる唯一の大切なものでもあるんだ。
とにかくこんな矛盾だらけの人生にもう辟易していた。
「もう俺なんて……早く生まれ変わって次の世に行きたい。こんな生き方嫌だ!もう生きていられない……死にたいよ……」
思わずこぼれた心の本音。それに呼応するように耳元で大きな音が鳴り響いた。
パシッ!
安志に、いきなり頬を強く打たれた。
「痛っ……安志、なんで?」
俺はヒリヒリする頬を手で抑え、安志が何故こんなことをと不思議に思って見上げた。
「洋いい加減にしろ!そんな奴だと思わなかった。しっかりしろよ。なんのために俺が背中を押したと思ってんだ!そうやって逃げるためか。洋が死を望む、選ぶためなんかじゃない!」
「……」
「俺は……俺はお前に笑って欲しいから……」
安志の方が涙目になって声が掠れてくるのと同時に、俺のことを想う真剣な眼差しに心を打たれる。
「安志……」
「洋、頼むからそんな悲しいこと言うな。何があったにせよ、洋がお義父さんに対しての負い目があって抵抗できなかったにせよ、あれは間違ってる。育ての親がそんなことをしてはいけない。なぁ、一緒に考えさせてくれよ。お義父さんから逃れる方法を、お前が幸せになれる道を……手伝いたいんだ!」
「なんでこんな俺のために、お前がそこまで……」
「馬鹿!何度も言わせんな!お前のことが好きだからだよ!報われない想いでもいいんだ。報われないのなら、せめて洋……お前には幸せになって欲しい。そうしないと俺の気が済まない」
なんてこというんだよ、安志。
こんな自分の生き方もままならない俺のために……どうしてそこまで想ってくれるのだろう。こんなに深い愛情と友情をくれる安志に報いたい。そう思った。心の底から。
「安志……お前は本当にいい奴すぎる。こんな俺のためにそこまで」
「今から話す、俺の提案を聞いてくれるか」
「あぁ……聞くよ、聞く。こんな俺のために、本当にありがとう」
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