重なる月

志生帆 海

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第3章

道は閉ざされた 5

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「洋、お帰り」

 期待に満ちて玄関のドアを開ける。だが、その期待は一瞬にして冷めていった。何故ならそこには洋の親父さんが立っていたから。

「あっすいません間違えて」
「随分仲が良いんだね、息子と」
「ええまぁ……それは一応、同居人ですから」
「洋は来ないよ」
「えっ?」

 後ろには引っ越し屋の制服を着た作業員が2人立っていた。

「洋の部屋はどこかね?上がらせてもらうよ」

 有無を言わせない威圧的な態度で、ずかずかとテラスハウスに足を踏み入れてくる。この人は本当に洋の親父さんなのかと疑問すら抱く高圧的な態度に驚いた。

「ここですが……」
「洋はここから引っ越させるので、あの子の荷物は引き取らせてもらう」
「えっ……何故ですか?」
「全く、あの子も帰国して部屋が空いていなかったのなら、すぐに私に連絡すればよいものを。もう……きちんとした部屋を借りたので、君は口出ししなくて良い」

 つまり、もうこれ以上親子の話に口を挟むなと圧力をかけているのだ。

「あの、洋はどこに?」
「あぁ洋はまだ寝てるよ。酷く疲れていたようだからホテルに置いて来た」
「洋はそれでいいと言ってるのですか」
「はぁ?当たり前じゃなないか。窮屈なシェアハウスよりも一人で過ごす方があの子は好きだからな」
「そんな……」

「さっ早く荷物を梱包してくれ、急ぐから」

 それ以上は私と話す気はないらしく、引っ越し屋に指図して、あっという間に洋の荷物を箱に詰め、共に去って行ってしまった。

 一体どうなっているのだ。これはどういうことなのか。

 急に穴が開いたように洋の存在だけが消えたシェアハウス。あまりに急な展開で、頭が追い付かない。

 洋に電話しなくては。

 震える手でかけるが、電話の契約も変更されていた。どうしてこんなに急に。
昨日までの温泉旅行で私に身をゆだねて幸せそうな顔をしていた洋なのに。

 一体何があった?

 洋の父親は何者だ。
 洋は今どこにいるのか。
 洋がこれを望んでいるのか、本当に?

 私は何一つ探す術を持ち合わせていないことに気が付いて唖然とした。

 会社……会社はやめないよな?
 夏休みが終わるまであと二日。
 二日後には会社でちゃんと会えるよな?

 その時、ちゃんと理由を聞かせてもらえるよな?

 いつも淡々と日々の仕事をこなし、感情の起伏もなく過ごしていた私だが、洋のこととなると、こんなにも感情が脆く、焦り、動揺している。
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