重なる月

志生帆 海

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第2章

あの日から 2

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「洋くん~本当に可愛いね。飲んでよ~ほらっ」
「俺……あまりお酒飲めないので……」

 初対面の男に強引に酒を勧められ、戸惑うが、先輩の顔もあるから無下に断れず付き合っている。

 もう帰りたい。
 こんな所にいたくない。
 早く丈の待つ家に戻りたい。
 丈にきつく抱きしめてもらいたい。

 心の中でそう思っているが、変に騒いで目立ちたくないのでさっきからグッと耐えていた。

「うわぁ~洋くんってば本当に腰も細いんだね、なんだか女の子みたいでエロいな」

 左隣りの奴がさりげなく腰に手をまわしてきた。

「ちょっ……やめ……」

 腰を引き、逃げようとするが追いかけてくる。腰をさするように撫でられるとぞくりと、また心が震える。こういう時は決まって心がどんどん冷えて、手も足の先も冷たくなってしまう。

 飲み会は盛り上がっているらしく、女子のキャーキャーした甲高い声が耳にガンガン響いていた。ふとその奥で暗い表情で俺を見ている安志と視線が絡み合う。

 あの夏の日──

 階段上でのあいつからの突然の告白。何も応えてやれなかった俺は、年月が経った今も何も応えてやれない。すまない。その上……あの日と決定的に俺の方の状況が変わっていることに、お前は気が付いてしまうだろうか。

 俺は同性に抱かれた。
 今も抱かれ続けている。
 自らの意志で。

 そう思うと、やはりこのまま何も話さず帰った方がいいのかもと思った。ぼんやりと安志とのことを思い出していると、隣りの奴はますます酒に酔い、その酒臭い息であれこれ話しかけてくる。

 鬱陶しい。

 聞き流しさり気なく身を逸らし、我慢しているがそろそろ限界だ。先輩ももう酔っぱらって俺が今帰宅しようと気が付かないだろう。

「あの、すいません。この後用事があるので、そろそろ帰ります」

さっきからべたべた触ってくる男に一方的に告げて部屋を後にした。

「えっちょっとちょっと待ってよ~洋くん~」

おぼつかない足でさっきの男が追いかけてくる。

「……」
「こっち来てよ~」

 ギョッとして振り返れば、突然手首を凄い力で引っ張られトイレへ連れ込まれてしまった。

 まずい!

 この展開は何度も味わったものだ。本能が察知して慌てて拘束されそうになった手を解き、逃げを打つ。

「やめろっ何するんだ!」
「洋くんのこと気に入っちゃたよ、なぁいいことしよーぜ。んっ~」

 冗談じゃない!

 トイレの壁に押し付けられ、凄い力で抱きすくめられる。うっ……見知らぬ雄臭い匂いに吐き気がまた込み上げてくる。振り絞って拘束を解こうと必死にもがいていると、誰かが勢いよくトイレに入ってきた。


「おい馬鹿!悪ふざけもここまでにしろ!この酔っ払い!」

 俺に覆いかぶさってくる奴を、ガバッと引きはがしてくれたその男の顔を見上げた。

「安志……」

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