42 / 1,657
第2章
二人きりの旅 4
しおりを挟む明け方……ひんやりと冷たい手が寝ている私の頬に、そっと触れた。
目を開けると洋が寂しげな表情で見つめていた。この表情が私を捉えてやまないんだ。
「どうした?こんなに冷え切って……」
「あっ起こしてごめん。なんでもないよ」
一体いつも何を思いつめているのか。気になって声をかけようとすると、濁すように洋はいつも顔を背けてしまう。
「さぁこっちへ来い。もう何もしないから」
「んっ気が付いたらもう明け方だね。俺……あれから記憶が」
少し顔を赤らめて恥ずかしそうにしている洋の手を引き、私の布団へと誘う。露天風呂では嫌がるので部屋に戻り、そのまま流れるように欲望のままに洋を抱き潰してしまったのは私だ。全く私としたことが、洋のことになると感情のコントロールが上手くいかない。
「すまなかった。あんなに激しく抱いてしまって。どこか痛いところはないか」
「大丈夫だよ。少し怠いけれども……」
布団の中で洋の全身を包み込むように優しく抱きしめると、素直に私に躰を預けてくれる。
「やはり丈の胸は暖かい。温まるな」
小さく微笑み表情を緩めた横顔に安堵して、その細い指に優しく指を絡めるとキュッと握り返してくれる。
安心したのかしばらく見つめ合っているうちに、洋は寝息を立て始めた。
その天使のような寝顔を見つめながら、私は強く思う。 何も知らない無垢だった洋の天使の羽を剥いでしまった責任は必ず負う。こんなにも人を愛おしく守りたいと思ったのは、生まれて初めてだ。
周りから蔑まれてもいい。
片時も離れたくない。片時も離したくない。
いつまでもこうやって、心と身体を合わせていたい。
もしかして私が洋に負担をかけて苦しめているのでは……そう思うと胸がチクリと痛む。
ふとした瞬間に洋が見せる儚くも危うい雰囲気に、今にも私の目の前から消えてしまいそうな不安に襲われ、ひと時も離れたくなくて、洋を激しく抱いてしまう。
洋のことは抱いても抱いても、抱き足りない。
この飢えたような乾いた感情は、一体何故なのか。私の記憶の奥に眠る何かを感じている。
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる