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93 卒業式③
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ブライアンは寂しそうな表情で、こちらをチラリと見た。
「君はもう普通の女の子だ」
「え?」
「女神じゃなくなった君と私が一緒にいる理由がない」
「どうしてそんなことを言うの? 女神じゃない私はいらないってこと? 能力のなくなった私の傍にいる価値はないかしら」
私は目に涙を溜めて彼を見つめた。
「逆だよ。一緒にいたいが、もう君に私は必要がない。君が女神なら……守るという理由をつけて傍にいられたがもう無理だ」
「……」
「だが、リリアンはずっと君が普通の女の子になるのを望んでた。だから私もそうなってくれてとても嬉しい」
「そう」
「嬉しいはずなのに……辛いんだ」
彼は私をギュッと強く抱きしめた。
「君と離れるのが辛い。君が生きていて幸せならそれだけでいいと思っていたのに、一緒にいたいと思ってしまった」
「ブライアン……」
「だから私は君の前から姿を消す。だが、私はリリーに忠誠を誓った。君を守りたい気持ちは変わっていないし、リリーが困った時には必ず駆けつけるよ」
彼は体を離し、跪いて小さな箱を開けた。
「デュークに預けようと思っていたんだが……」
中には漆黒に輝く石でできた美しいブローチが入っていた。
「これは魔石だ。私の魔力が込められている……君がこれを握って私の名を呼べば移動魔法で強制的に、リリーの元に飛んで行く仕組みにしてある」
私はそっとブローチを手に取った。
「何か危ないことがあれば遠慮なく呼んでくれ」
「ありがとう」
「この髪紐のお礼だよ」
「危険な時しか呼んじゃだめなの?」
「え?」
「寂しくなったら……貴方に会いたくなったら呼んでもいい?」
私がポロポロと涙を流すと、彼は唇を噛み締め怒ったような顔をした。
「こっちは必死に我慢してるのに、君は……悪い子だな」
彼は立ち上がり、私の頬にキスをした。しかも一回では終わらず、愛おしそうに首元にもちゅっちゅと沢山口付けられる。私は驚いて彼の体を押し返そうとするが、びくともしない。
「ブライアン、やめて!」
「リリー……何度言ったらわかるんだ? 男を煽るとこんな風に危険だよ」
耳元で甘い声で囁かれて、くたっと力が抜けてしまう。
「真っ赤になって可愛いな。このまま攫ってしまいたいが……タイムリミットだ。君の王子様が迎えにきた」
ザクザクと乱暴な足音と共にザックが現れた。
「すぐにリリーを離せ。じゃないとお前を……許せなくなりそうだ」
「別れの挨拶をしてただけだよ」
「もう充分だろ? 返してもらう」
「ああ」
ザックはギロリと睨んで彼から私を乱暴に引き剥がして、自分の腕の中にギュッと腕に閉じ込めた。
「私は明日この国を去る」
「そう……か。今まで世話になったな。リリーのことは、お前の分まで俺が幸せにするから安心しろ」
「彼女を頼んだよ」
「ああ」
ザックは力強くそう返事をした。
「そうだ、君にも伝えておこう。リリーに魔石を渡したんだ……困ったことがあれば私をすぐに呼べるように」
「魔石を?」
「リリー! 結婚してアイザックが下手くそだったら呼ぶんだよ。代わりに私が満足させてあげるから」
ブライアンは悪戯っぽくニヤリと笑い、私に向かって色っぽくウィンクをした。
「……下手?」
一体何が下手なのだろうか? ザックが下手でブライアンは上手なものってなんなのだろう。私には意味がわからなくて首を傾げるが、ザックは真っ赤になって怒っている。
「ふ、ふざけんなよ! なんて事言ってるんだ。お前なんか呼ばれるわけないだろ」
「くっくっく、それはお前次第だな」
「リリーに下世話な話してんじゃねぇ!」
「必死になっちゃって」
「お前、やっぱり許さねえ!」
「せいぜい暴走しないように頑張んな」
「殺す」
ブライアンはゲラゲラと腹を抱えながらひとしきり笑った後、私の頭をポンポンと撫でて「じゃあな。アイザックと幸せに」と言った瞬間、移動魔法で消え去った。
まるで彼は最初からいなかったかのようだ。ザックは私をギュッと抱きしめて「消毒」とブライアンに触れられた場所と同じところにキスをした。
「会場にいないし、デューク様がブライアンに君を任せたとか言うから心配した」
「ごめんなさい。彼が急に明日いなくなるって言うからお別れを言いたくて」
「あいつがいなくなって寂しい?」
「……え?」
「リリーには俺がいる。ブライアンがいなくても寂しい思いなんてさせない。俺が一生守るし、俺がこの世で一番君を愛してる」
ザックの瞳は心配気に揺れている。不安にさせてしまった……確かにブライアンのことは好きだが、恋愛感情ではない。
私は彼の首にそっと手を回し、背伸びして優しく口付けをした。
「私が自らこうしたいのはザックしかいないわ」
「リリー! 大好きだ」
その後私からのキスに尻尾を振って喜んでいるワンコのような彼から、熱烈なキスとハグの嵐を受けて会場に戻れたのは随分と時間が経過した後だった。
こうして卒業式の長い夜は更けていった。
「君はもう普通の女の子だ」
「え?」
「女神じゃなくなった君と私が一緒にいる理由がない」
「どうしてそんなことを言うの? 女神じゃない私はいらないってこと? 能力のなくなった私の傍にいる価値はないかしら」
私は目に涙を溜めて彼を見つめた。
「逆だよ。一緒にいたいが、もう君に私は必要がない。君が女神なら……守るという理由をつけて傍にいられたがもう無理だ」
「……」
「だが、リリアンはずっと君が普通の女の子になるのを望んでた。だから私もそうなってくれてとても嬉しい」
「そう」
「嬉しいはずなのに……辛いんだ」
彼は私をギュッと強く抱きしめた。
「君と離れるのが辛い。君が生きていて幸せならそれだけでいいと思っていたのに、一緒にいたいと思ってしまった」
「ブライアン……」
「だから私は君の前から姿を消す。だが、私はリリーに忠誠を誓った。君を守りたい気持ちは変わっていないし、リリーが困った時には必ず駆けつけるよ」
彼は体を離し、跪いて小さな箱を開けた。
「デュークに預けようと思っていたんだが……」
中には漆黒に輝く石でできた美しいブローチが入っていた。
「これは魔石だ。私の魔力が込められている……君がこれを握って私の名を呼べば移動魔法で強制的に、リリーの元に飛んで行く仕組みにしてある」
私はそっとブローチを手に取った。
「何か危ないことがあれば遠慮なく呼んでくれ」
「ありがとう」
「この髪紐のお礼だよ」
「危険な時しか呼んじゃだめなの?」
「え?」
「寂しくなったら……貴方に会いたくなったら呼んでもいい?」
私がポロポロと涙を流すと、彼は唇を噛み締め怒ったような顔をした。
「こっちは必死に我慢してるのに、君は……悪い子だな」
彼は立ち上がり、私の頬にキスをした。しかも一回では終わらず、愛おしそうに首元にもちゅっちゅと沢山口付けられる。私は驚いて彼の体を押し返そうとするが、びくともしない。
「ブライアン、やめて!」
「リリー……何度言ったらわかるんだ? 男を煽るとこんな風に危険だよ」
耳元で甘い声で囁かれて、くたっと力が抜けてしまう。
「真っ赤になって可愛いな。このまま攫ってしまいたいが……タイムリミットだ。君の王子様が迎えにきた」
ザクザクと乱暴な足音と共にザックが現れた。
「すぐにリリーを離せ。じゃないとお前を……許せなくなりそうだ」
「別れの挨拶をしてただけだよ」
「もう充分だろ? 返してもらう」
「ああ」
ザックはギロリと睨んで彼から私を乱暴に引き剥がして、自分の腕の中にギュッと腕に閉じ込めた。
「私は明日この国を去る」
「そう……か。今まで世話になったな。リリーのことは、お前の分まで俺が幸せにするから安心しろ」
「彼女を頼んだよ」
「ああ」
ザックは力強くそう返事をした。
「そうだ、君にも伝えておこう。リリーに魔石を渡したんだ……困ったことがあれば私をすぐに呼べるように」
「魔石を?」
「リリー! 結婚してアイザックが下手くそだったら呼ぶんだよ。代わりに私が満足させてあげるから」
ブライアンは悪戯っぽくニヤリと笑い、私に向かって色っぽくウィンクをした。
「……下手?」
一体何が下手なのだろうか? ザックが下手でブライアンは上手なものってなんなのだろう。私には意味がわからなくて首を傾げるが、ザックは真っ赤になって怒っている。
「ふ、ふざけんなよ! なんて事言ってるんだ。お前なんか呼ばれるわけないだろ」
「くっくっく、それはお前次第だな」
「リリーに下世話な話してんじゃねぇ!」
「必死になっちゃって」
「お前、やっぱり許さねえ!」
「せいぜい暴走しないように頑張んな」
「殺す」
ブライアンはゲラゲラと腹を抱えながらひとしきり笑った後、私の頭をポンポンと撫でて「じゃあな。アイザックと幸せに」と言った瞬間、移動魔法で消え去った。
まるで彼は最初からいなかったかのようだ。ザックは私をギュッと抱きしめて「消毒」とブライアンに触れられた場所と同じところにキスをした。
「会場にいないし、デューク様がブライアンに君を任せたとか言うから心配した」
「ごめんなさい。彼が急に明日いなくなるって言うからお別れを言いたくて」
「あいつがいなくなって寂しい?」
「……え?」
「リリーには俺がいる。ブライアンがいなくても寂しい思いなんてさせない。俺が一生守るし、俺がこの世で一番君を愛してる」
ザックの瞳は心配気に揺れている。不安にさせてしまった……確かにブライアンのことは好きだが、恋愛感情ではない。
私は彼の首にそっと手を回し、背伸びして優しく口付けをした。
「私が自らこうしたいのはザックしかいないわ」
「リリー! 大好きだ」
その後私からのキスに尻尾を振って喜んでいるワンコのような彼から、熱烈なキスとハグの嵐を受けて会場に戻れたのは随分と時間が経過した後だった。
こうして卒業式の長い夜は更けていった。
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