運命の紅い糸

谷内 朋

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FIRST TIME Ⅳ

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 「大丈夫ですか?話すのはお辛いですか」

 彼はその場にしゃがみ込んで患者の顔を覗き込む。彼女は苦しそうに顔を顰めながらも、頷くことで何とか声掛けに反応してみせる。

 「体を触らせていただきますね」

 男性は患者が手で押さえている腹部を中心に触診を開始する。

 「痛みがあれば仰ってください、声が出せなければどんな反応でも構いませんよ」

 そう言いながら腹部を押さえている指が少しずつ下がっていく。それまではさほど感じなかった痛みがある一点で急激な痛みに襲われ、呻き声を上げて拒絶反応が出てしまう。

 「二、三質問致しますが、宜しいですか?」

 医師は落ち着いた口調で手を離すが、女性はすがるようにその手を掴んでしまっていた。かなり強く握り締められているのにも関わらず、そういった状況にも慣れているのか表情を全く変えないまま宥めるように手を擦る。

 「このところ風邪のような症状が出ていたのではないですか?」

 彼女は呼吸を乱しながらもこくんと頷く。医師は患者の手首に指を当て、少し熱があるようです、と言った。

 「七度七分といったところでしょうか、風邪薬の服用は?」

 今度は耳の下付近の触診を始める。彼の手の温もりに不覚にもドキドキしてしまっている女性の体は、熱とは別の意味で火照り始めてきた。

 「ここ二~三日、市販の物を……」

 「今お手元にありますか?」

 「化粧ポーチの中に……」

 「救急車が到着しました!」 

 その声に遮られた事で問診は終わる。スタッフの案内の元救急救命士が二人入ってきて、手際良く患者を担架に乗せる。

 「あなたもご同乗願えますか?」

 救急救命士は場所柄の判断で医師を女性の婚約者だと思ったようだ。

 「連れを待たせていますのでその旨を伝えてきます」

 踵を返した彼の前に行ってあげて、と声が掛かる。こうなる事を予測してなのか、婚約者が元居た部屋から出てきていた。

 「ごめん、こんな事になって」

 「こっちは大丈夫よ。決めてしまってよければ私が手続きしておくから」

 うん。医師は彼女の頼もしさに安堵して救急車に乗り込む。

 これが葛城司かつらぎつかさ桂木かつらぎあおいとの出逢いだった。
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