運命の紅い糸

谷内 朋

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THIRD TIME Ⅲ

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 「桂木・・あおいさん……ですか?」

 そう訊ねると、彼女は司以上に驚愕の表情を見せて目を丸くする。正気を取り戻したかのように彼の顔を見つめ、憶えててくださったんですか……?と掠れた声で返答した。

 「……どうしてこんな所に?」

 「息子の風邪薬を買いに……」

 「こんな時間にですか?」

 「えぇ、決まったお薬しか飲めなくて……何軒かのドラッグストアに行ったんですけど、どこにも売っていなくて……」

 あおいは自身の行動が急激に馬鹿馬鹿しくなってふと自嘲してしまう。

 「この時間にドラッグストアは開いていないでしょう。交通機関も終電を過ぎていますし、お送りしますのでタクシーを拾いましょう」

 「いえっ!お薬代しか持っていないんです。歩ける距離ですし、自宅に戻ったところで中に入れてもらえませんので」

 「……」

 司にとっては釈然としない話ではあったが、家庭の数だけの事情がある以上そこにまで口を挟む事ができなかった。

 「少しお待ちください」

 彼はあおいから離れ、ケータイを鞄から取り出すとどこかに通話を始める。あおいもケータイを持っていれば夫か大倉るりに連絡をするところなのだが、生憎手元にそれは無い。

 コンクリートで固められている地面にぺたんと座ったまま通話が終わるのを待っていると、何故か安堵した表情で通話を切った司が戻ってきた。

 「あの、ご家族にご連絡は?」

 「いえ、自宅に置いてきてしまいまして」

 「番号を覚えていらっしゃるのであればお貸しします」

 厚意としてケータイを差し出されるも、あおいの記憶にあるのは大倉のもののみだった。しかし深夜帯ということもあり、変な心配をかけたくないと首を横に振る。

 「……実はこの後駅近くのホテルに宿泊するんです。都合上ツインルームを押さえてまして、お嫌でなければ相部屋……しませんか?」

 「えっ!?あっ相部屋!?」

 彼女は思わぬ誘いに慌ててしまう。
 
 「確認も取らず勝手な事をしてすみません。大して知らない男と相部屋だなんて……」

 いえ……あおいはふと司の左手薬指を気にかける。自身の左手薬指にはめられているものと似たような指環がキラリと光っていたことで既婚者であることを確認したが、自分たちの並びがどう見ても夫婦に見えないだろうと思うと何となく気持ちがざわつくのを感じていた。
 
 「すみません、先に申し上げるべきでした。女性お一人でひと晩外というのは危険だと思ったので……」

 彼の取った行動は軽率とも言えるかもしれないが、何処も行く宛が無く途方に暮れていたあおいにとっては渡りに船と言える。彼女の脳裏に浮かんだ言葉は『助かった』であり、それ以上深くは考えていなかった。

 「……本当に、宜しいんでしょうか?」

 「その方が安全です」

 彼はあおいの前でしゃがむと、立てますか?と大きな手を差し出してきた。はい。多少のためらいはあったが、そっと自身の手を置くとぐっと握り返されてドキリとする。

 「歩けますか?必要であれば抱えますよ」

 「いえ大丈夫です!ちゃんと歩けます!」

 それはさすがに恥ずかしい、とばかり赤面するあおいを見てついクスッと笑ってしまう。

 「ではゆっくり行きましょう」

 二人は手を繋いだ状態のまま、駅に向けて歩き出した。
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