わたしの“おとうさん”

谷内 朋

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振り返れば泥まみれ

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 「まぁそういうこった」

 怒り狂って長洲物流の山口……実の父親を追い払った叔母は腹が減ったとリョウの手料理をもりもりと食べている。

「でもさぁ、息子は連れ子でよかったね。近親相姦は免れたじゃない」

 さくらは変なところでひと安心的なことを言ってくるがそんなの何の慰めにもならない。だって父親候補として現れたおっさんは三人ともハズレで、イレギュラーでやって来た倒産間近のメタボな会社社長が“おとうさん”だなんてショックがでかすぎる。しかも初めて全てを捧げた相手の継父とかどこの昼ドラなんだよ? と涙すら出てこない。

 それにしたって母は何で実の父親でもない三人のおっさんを巻き込んだのだろうか? 見るからに“本当のおとうさん”より信頼できるってのは分かったけど、家庭のある千葉さん、未練を残す長野さん、結局何故呼ばれたのか分からない神戸さんにしてみても父親役なんか託されていい迷惑だったんじゃないだろうか?

「すみませんでした、母の遺書に振り回される形になってしまって」

「構いませんよ、先程も言ったように私も用はありましたから」

 千葉さんは優しい口調でそう言ってくれる。

「楽しかったよ、独り身だからこうして賑やかに過ごせる機会ってなかなか無いからね」

 長野さんも笑顔を見せてくれる。

「にしても親子揃って男運無いよな、一番似なくていいとこ似ちまってるじゃねぇか」

 神戸さんはテーブルに肘を付いてチャーハンをかっ食らう叔母を面白そうに見つめている。

「おいブス、それ以上デブってどうすんだよ?」

「あ゛ぁ? 今更どうだっていいよ」

 叔母は食事優先で彼の言葉をあしらってる。するとデニムパンツのポケットから小さな箱を取り出して叔母の傍らにちょんと置いた。

「何だそれ?」

 一応は反応しているが食事の手を止めない叔母、それってどう見ても……。

「見て分かれよな」

 神戸さんは半分呆れながらジュエリーボックスを開け、見るからに高級そうな指輪を手に取った。そしてぷにぷにしている叔母の左手を掴んで強引に薬指にはめていた。

「お前また太ったか?」

「さぁね、体重測ってないから」

 叔母はキラキラと輝く指輪を一瞬だけ気にしていたが、結局本能には勝てないのかチャーハンを調子よく消費していた。しかし拒絶はしていないので多分マリッジコース一直線となるだろう、彼女はどうでもいい振りをしながらもどことなく嬉しそうにしていた。

「多分私が一番男運無いね」

 言わなくていい余計なひと言を呟いてから最後のひと口分を口に入れていた。
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