わたしの“おとうさん”

谷内 朋

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あぶく銭でも命の代償

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 その翌日から体調が優れない私は、彼が出て行ってからもベッドから起きられずにいた。今日は授業が無いからいいやと一日中ベッドの中で過ごし、体調回復に努めているとケータイが動きを見せた。

【上手く話してくれた? 今日中に振り込んでね、二千万円】

 こんな時にどうして? 私は彼のことが分からなくなっていた。でもこれを断れば振られてしまう……それが嫌で無理矢理体を起こし、支度をして家を出た。ところが途中で記憶が途切れてしまい、再び記憶が戻った時は何故か叔母宅の居間で寝転がっていた。

「気が付いたか? インフルエンザだってさ」

 意識を取り戻した私に叔母が声を掛けてきた。今何時? と時計を探すと既に深夜になっていた。

「出掛けなきゃ」

 体を起こしたいけど熱っぽくて上手くいかない。

「何処へ?」

 叔母は訊ねるだけで手も貸してくれない。

「コンビニ」

「何しに?」

「お金、振り込まなきゃ。今日中に」

「今日中? いつの話してんのさ?」

 今日といえば今日しかない。

「十月四日」

 今日の日付を答えると叔母は変な顔をした。

「それ一昨日だけど」

「はぁ?」

 そんな訳ないじゃない……って言いたかったけど、叔母は私のケータイを差し出して画面を突っついた。見ると確かに日付が二日進んでおり、十月六日二十三時五十五分となっていた。

「まさかとは思うけどいじってないよね?」

「何のためにそんなことしなきゃなんないの?」

 言い分がごもっともすぎて何も言い返せない。

「ならもう……」

「そうだね、一昨日はあんたのケータイ煩かったから」

 そうだったんだ……萩君心配して連絡寄越してくれたんだろうか? そう思うと口元がほころぶ。

「何かねぇ、今日中にしてほしい用事があるとか言っていたよ。本人インフルエンザで寝込んでるって言ったんだけど聞く耳持たなくてさぁ、名乗りもしないし。まぁ名前なんか履歴見りゃ分かるけど、あの男何なんだい?」

 用事……結局はそれだったんだと落胆する。

「大学の、先輩。実は起業するからお金振り込んでほしいって言われてた」

「ふぅん。それで家に来たんだ、お金私が預かってるもんね。けどさぁ、姉さんの命の代償をみすみす詐欺に渡すのを賛同するなんて思ってたのか?」

「……」

 やっぱり詐欺にしか見えないものなのか……あんなに素敵だった彼が何だかあざとく見えてきた。でも、それでも愛してると証明したくてお金を振り込もうって真剣に考えてたのに。

「今からでも……」

「やめときな。いくらあぶく金にすぎないからってさ、そんな使い方したら姉さんの生き様そのものを侮辱することになるからね。受取人はあんただけど妹として断固阻止させてもらうよ」

 駄目か……仕方がないので正直に謝ろうと彼に通話を試みる、しかし……。

『おかけになった電話は、現在使われておりません。おかけになった電話は……』

 無情なアナウンスに視界は再び真っ暗になった。
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