わたしの“おとうさん”

勘違いＶＳ意固地

　夜、珍しく全員が揃って座敷で食事を摂っている。私はいつものように勉強があるから部屋で食べると断ったのだが、今日はちょっと話があるからと強制的にここに座らされてる。

「父と不倫してないという証明をしてください」

「まぁ親父信じてやれとしか言いようがないんだけどな。あとは探偵でも雇って調べりゃいいさ、何も出てこないだろうけど」

　この感じだと叔母にも手上げてるな。

「探偵？」

「あぁ、同級生に探偵やってるのがいるんだ、紹介しようか？」

　叔母は平然とそう言ってのける。まぁそんなの事実無根だから好きにしろって自信の表れでもあるだろうけど。

「いえ、あなたの知人は信用できません。ここで父を監視します」

「それは構わないけど部屋の空きは無いよ」

「なら父とおな……」

「私がここを出る」

　私はほぼ勢いでそう言っていた。それに対し父親候補三人が驚きの表情を見せ、特に千葉さんの狼狽ぶりにこっちが驚いてしまう。

「君はそんなことしなくていいんだよ、なつひさんの姪なんだし」

　彼は引き留めてくれるけど、私としてはむしろ早くここを出たい。この雑多な環境な上にまた同居人が増えるのか？　しかもいきなりビンタしてくるイカれた女と同じ屋根の下でなど暮らしたくない。

「部屋見つかったのか？」

　叔母は箸を止めて私を見る。

「まだ、でも部屋探しはしてる」

「あっそう、それは好きにしたらいいよ」

　叔母はあっさりとしたもので食事を再開してる。

「それじゃ意味が無いのよ」

　千葉さんの娘は私に顔を向ける。こうして見ると結構美人なのだが第一印象が悪すぎる。

「何がですか？」

「あなたとの行動も見ておきたいのよ、でなきゃ証明できないじゃない」

「それはあなたの都合ですよね？　私には関係ありません」

　そもそも父親候補に名乗り出てここに住み着いているのは千葉さんの意思だ、そこに私への配慮など一切ない。

「それとも逃げる気？　証明できないから」

「その辺のお考えはご勝手にどうぞ。私は初対面でいきなり殴りかかる人間と同じ空間にいたくないだけです」

「それはやむなく……」

「やむなくで暴力行為を容認してくれなんて厚かましくないですか？　私はあなたが視界に入るだけで不快です、恐怖すら感じます」

　私は食事を残して席を立つ。

「もうこんなことさせないから」

　千葉さんはなだめるように言ってくるけどそういう問題ではない。

「この人は挨拶も無く私を殴った、それが全てです」

　私は重苦しくなった空気を振り払うように部屋を出た。