わたしの“おとうさん”

谷内 朋

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淡い初恋と自立心

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 そんな中私は一人の男性にときめきを覚えていた。彼は地元A県南部にある高級住宅地にご実家があり、常に友人知己に囲まれている人格者といった感じであった。名は山口萩ヤマグチシュウ、歳は二十一、三学年上のサークルの先輩だ。

「はるなちゃん、生活には慣れた?」

 彼は誰に対してもフレンドリーで先輩風を吹かせない。爽やかで笑顔が素敵で、何処ぞの喫茶店従業員とは大きな違いだと思う。

「はい、少しは」

「よかった。君他県出身だからちょっと心配だったんだ、ここの学生はほぼ県内の子ばかりだから」

 そう、私が入学したのはA県中南部にある公立大学、先輩の仰る通りほぼ地元っ子で構成されている大学だ。彼によると県庁所在地を含めた南部エリアは落ち着いているけど、県の中北部はヤの付くお家柄が牛耳ってるエリアがあってとても治安が悪いそうだ。

「あの辺は一人で出歩かない方がいいよ、用事がある時は僕に声をかけて」

「お気遣いありがとうございます」

 毎日私鉄で通ってんだけどね……ぶちゃけてしまえば本数が少ない以外の不満は無い、特に危ない目にも遭ってないし。それに私は身長百六十八センチと女にしては高身長で、横幅もそれなりにあるのでモデル体型の子よりも大柄に見える。なので普通の女よりもその手に被害は圧倒的に少なく、高校時代はほぼパンツ姿だったので同級生たちの虫除け役になっていたくらいだ。

 先輩の助言はありがたく受け取っておくことにして……しかし県中北部を横断している私鉄沿線で部屋探しをしているので、それをどうしようかと思ってしまう。

「う~ん」

 家賃事情は北部の方が安くて間取りの広い物件が多い。南部は県庁所在地が近かったりブルジョワ界隈もあるらしいので、JDが一人で住むにはいくら何でも高すぎる。であればあの辺出身の子に聞いた方がいいかも知れない。

「前、いいかな?」

 そんなことを考えていた私の前に長野さんが立っていた。

「部屋探ししてるの?」

 彼は私の手元を見て言った。

「はい、まぁ……」

 正直気まずい。

「公立大学だっけ? 通うにはちょっと遠いか」

「えぇ」

 勘繰られなかっただけホッとする。長野さんは見ていい? と断りを入れてから物件情報を黙読している。

「この辺なら悪くないね、中部の○○市は割りかし都会だし」

 そう言えば長野さんはこの辺りの地理に詳しい的なことを叔母が言ってたな。

『一人暮らししたきゃ長野さんに相談してみな』

 その言葉を思い出した私は向かいに座っている長野さんを見る。

「この辺って治安悪いんですか?」

「全然、むしろ良い方なんじゃないかな」

 えっ? これはもう少し突っ込んで聞いてみた方がいいかも知れない。

「ヤの付くお家柄が牛耳ってるって聞いたんですが」

「うん、石渡組のことだね。けど指定暴力団に入るほど大規模な組でもないし、一般住民には親切だから牛耳ってるって感じではないよ」

「そうですか」

 私は手元に残っている物件情報を見る。大学病院もあってショッピングモールも電車で十分ほどあれば行ける、最寄り駅近郊はそうでもないけど、隣の駅は大学方面の乗換駅になっていてアクセスも良い。

「あの、こっちの方は?」

「あぁ、さっき言った石渡組の拠点になってる地域だね。この辺は商店街が元気で案外賑わってるよ、乗換駅になるから便利だろうし学生バイトの求人も多いって聞くし。神戸さんこのエリアがお気に入りでしょっちゅう出掛けてるよ、良い楽器店があるんだって」

 うん、その情報は要らなかった。けど話を聞く限り良さそうな気がする、一度物件見てみるか。

「情報ありがとうございます、近いうちに見てきます」

 私が礼を言うと長野さんは照れくさそうな笑顔を見せた。それから休日を利用して不動産屋に行ったが、やはり優良物件だったようで契約済みになっていた。
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